NHKの「神の数式」の冒頭で紹介された鉛筆を立てる問題は計算で解けるのだ。
掲載写真はこの番組の冒頭で「自発的対称性の破れ」を説明するために紹介された例だ。古典力学(ニュートン力学)に従うかぎり、もし完全に垂直な状態で手を離すことができたとしたら鉛筆は決して倒れることがない。どこか1つの方向に倒れる理由がないからだ。しかし、この番組では自然界においては対称性は崩れてもよいのだと解説していた。
それではなぜ鉛筆は倒れるのだろうか?なぜ対称性は崩れるのだろうか?
そのひとつの理由は量子力学の「ハイゼンベルクの不確定性原理」に求めることができる。
この原理は物体の位置と運動量(質量x速度)について、位置を確定すると運動量は不確定、運動量を確定すると位置は不確定になるというもの。
つまり、鉛筆を垂直に立てて位置を固定すると(質量は一定だから)速度は不確定になる。だから速度をゼロにすることができないので、鉛筆はいずれ倒れてしまうのだ。(位置と速度を同時にゼロにできない。)
どの方向に倒れるかはわからい。しかし多数の鉛筆がそろって同じ方向に倒れるというのが南部博士が発見した「自発的対称性の破れ」である。1本がある方向に倒れると、周囲の鉛筆も同じ方向に倒れる。それが連鎖してすべての鉛筆が倒れる方向がそろうのである。番組ではその様子がCGで表現されていた。
自発的対称性が破れないならば、多数の鉛筆は周囲360度対称的に(完璧な対称性=美しさを保って)、それぞれバラバラの方向に倒れることになる。
ハイゼンベルクの不確定性原理を使うとまっすぐに立てた鉛筆が倒れ始めるまでの時間を計算することができるのだ。この問題は「演習現代の量子力学―J.J.サクライの問題解説」の44ページにアイスピックが倒れ始めるまでの時間を求める問題として掲載されている。以下、アイスピックを鉛筆と読み替えて紹介することにしよう。
問題:
ハイゼンベルクの不確定性原理だけが制限であるとき、鉛筆をとがった芯を下にして垂直に立てたとき、つりあいが保てる時間を見積もりなさい。鉛筆の芯を支えている表面は堅いとする。鉛筆の長さと質量は適当な値を仮定し、つりあいが保てる時間を秒単位で求めなさい。ただし「つりあいが保てる」とは鉛直線に対して1度傾くまでの状態のこととする。
数式が苦手な方は「解答:」を読み飛ばし、「具体的に数値を入れてみる:」からお読みいただきたい。
解答:
「つりあいが保てる時間」=「倒れ始めるまでの時間」と考えるわけだ。
鉛筆を仮に重心Gに全質量Mが集中した質点とみなして問題を解こう。鉛筆の先端Oは固定点とし、OG=l、OGと鉛直線のなす角度をθと置く。古典力学の運動方程式を援用すれば、θ<<πに対して、
だから
を得る。重心Gの回転する円弧にそってx座標をとり、共役な運動量をpとすると
であるから
と書ける。したがって
となるので、たがいに共役な物理量AとBで成り立っている不確定性関係
を用いると
となり、ガウス型波束に対しては等号が成立する。
となる。この角度が1度になったとき、鉛筆がつりあいを失ったとみなすと、そのときの時間 t は、
となる。
具体的に数値を入れてみる:
さて、具体的に数値を入れてみよう。三菱鉛筆の「鉛筆のサイズ」というページによると、標準的な鉛筆は長さ(l)=17.6cm、質量(M)=6.6gである。
鉛筆の長さ 、鉛筆の質量
また
重力加速度 、プランク定数
とすると、時間は 秒という値になった。また、鉛筆の長さを半分にすると質量も半分になるので
鉛筆の長さ 、鉛筆の質量
とすると、時間は 秒という値になった。
このページによれば世界最大の鉛筆は長さが23メートル、重さが3.6トンもあるそうだ。これを代入すると時間はなんと 秒にもなる。
縦軸に長さを、横軸に質量をとってつりあいが失われる時間(秒)を表にすると次のようになった。黄色いセルは鉛筆をだんだん短くしていったときの値を示している。短くなるにつれてつりあいを保てる時間は短くなることがわかる。
倒れないでいられる時間は鉛筆が長ければ長いほど、重ければ重いほど長くなることがわかるが、長さのほうが重さよりも影響が大きいということもわかる。Wolfram|Alphaでグラフ化してみよう。
「=sqrt(l/980)*ln(3.1416/180*sqrt((2*m*sqrt(980*l^3)/(10^(-27))))) m=1 to 10 l=1 to 30」のように入力すればよい。色が濃いほど時間が短い(=倒れやすい)ことを意味している。(グラフ化を実行してみる)
3D表示
2D表示
さて、鉛筆ではなく「鉄骨」だとしたらどうなるだろうか?質量を5Kg~50Kg、長さを50cm~15mの範囲で表を作ると次のようになった。かなり長い時間倒れないでいられることがわかる。
実感に合っているか?:
みなさんの実感とくらべてどうだったであろうか?想像していたよりも鉛筆はしぶとく立っているというのが多くの人の感想だと思う。そのわけはこの実験が量子力学の不確定性原理による影響だけを考慮しているからなのだ。
つまり古典力学的には理想的な状況が前提とされている。でも実際には鉛筆は完全な直線になっていないし、完全に均質というわけでもない。また無風であっても空気中の分子は鉛筆に絶えず衝突している。鉛筆を放すときの手元はわずかにぶれるだろうし、完全に垂直に立てることなどできるわけではない。鉛筆を立てる面もありとあらゆることが原因で絶えず縦横に振動しているはずだ。(振動は海外の地震が原因になるかもしれないし、隣の家の車が発進することが原因になるかもしれない。)
実際にはこのような古典力学的な影響も受けるため、鉛筆はすぐ倒れてしまうのだ。
この現象は何を意味しているのか?:
どの方向に鉛筆が倒れるかはわからない。鉛筆の未来は決まっていない。不確定性原理は私たちの未来は決まっていないことのひとつの原因だと考えられている。鉛筆を立てるという取るに足らない実験はとても深い自然の原理を示しているのだ。
先日の「原始重力波の検出」もそうなのだが、鉛筆を立てる実験の計算はミクロの世界で働いている原理がマクロの世界に影響を及ぼしていることを実感できる興味深い例だと思う。
また時間は未来から過去にさかのぼることができず、過去から未来にしか流れない。これを「時間の矢」と言う。不確定性原理は物理現象の不可逆性とも結びついているのではなかろうかと僕は思っている。なぜ私たちは過去をやり直すことができないのだろうか?
そこにはどのようなからくりが潜んでいるのだろうか?このあたりのことに関心がある方は、以下の関連記事をお読みいただきたい。
関連記事:
どうして未来は決まっていないのだろうか?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b11211eac3e03b18782b5ce88fbe050
時:渡辺慧:時間論についての本。時間の矢、物理現象の不可逆性について書かれた本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン1:「計算」という操作が不可逆現象であり、「情報」というものが熱やエントロピーと関連していることを示す記事
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79
追記:
ところでこの記事をお読みになっていただいたQuantum Universeさんが、この問題を取り上げて記事にしてくださったので紹介しておこう。より深い考察がされているのでぜひお読みいただきたい。
鉛筆とインフレーション宇宙とスクィーズド状態(Quantum Universeさんのブログ)
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/11/192142
量子エンタングルメントと時間の矢(Quantum Universeさんのブログ)
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/18/190400
掲載写真はこの番組の冒頭で「自発的対称性の破れ」を説明するために紹介された例だ。古典力学(ニュートン力学)に従うかぎり、もし完全に垂直な状態で手を離すことができたとしたら鉛筆は決して倒れることがない。どこか1つの方向に倒れる理由がないからだ。しかし、この番組では自然界においては対称性は崩れてもよいのだと解説していた。
それではなぜ鉛筆は倒れるのだろうか?なぜ対称性は崩れるのだろうか?
そのひとつの理由は量子力学の「ハイゼンベルクの不確定性原理」に求めることができる。
この原理は物体の位置と運動量(質量x速度)について、位置を確定すると運動量は不確定、運動量を確定すると位置は不確定になるというもの。
つまり、鉛筆を垂直に立てて位置を固定すると(質量は一定だから)速度は不確定になる。だから速度をゼロにすることができないので、鉛筆はいずれ倒れてしまうのだ。(位置と速度を同時にゼロにできない。)
どの方向に倒れるかはわからい。しかし多数の鉛筆がそろって同じ方向に倒れるというのが南部博士が発見した「自発的対称性の破れ」である。1本がある方向に倒れると、周囲の鉛筆も同じ方向に倒れる。それが連鎖してすべての鉛筆が倒れる方向がそろうのである。番組ではその様子がCGで表現されていた。
自発的対称性が破れないならば、多数の鉛筆は周囲360度対称的に(完璧な対称性=美しさを保って)、それぞれバラバラの方向に倒れることになる。
ハイゼンベルクの不確定性原理を使うとまっすぐに立てた鉛筆が倒れ始めるまでの時間を計算することができるのだ。この問題は「演習現代の量子力学―J.J.サクライの問題解説」の44ページにアイスピックが倒れ始めるまでの時間を求める問題として掲載されている。以下、アイスピックを鉛筆と読み替えて紹介することにしよう。
問題:
ハイゼンベルクの不確定性原理だけが制限であるとき、鉛筆をとがった芯を下にして垂直に立てたとき、つりあいが保てる時間を見積もりなさい。鉛筆の芯を支えている表面は堅いとする。鉛筆の長さと質量は適当な値を仮定し、つりあいが保てる時間を秒単位で求めなさい。ただし「つりあいが保てる」とは鉛直線に対して1度傾くまでの状態のこととする。
数式が苦手な方は「解答:」を読み飛ばし、「具体的に数値を入れてみる:」からお読みいただきたい。
解答:
「つりあいが保てる時間」=「倒れ始めるまでの時間」と考えるわけだ。
鉛筆を仮に重心Gに全質量Mが集中した質点とみなして問題を解こう。鉛筆の先端Oは固定点とし、OG=l、OGと鉛直線のなす角度をθと置く。古典力学の運動方程式を援用すれば、θ<<πに対して、
だから
を得る。重心Gの回転する円弧にそってx座標をとり、共役な運動量をpとすると
であるから
と書ける。したがって
となるので、たがいに共役な物理量AとBで成り立っている不確定性関係
を用いると
となり、ガウス型波束に対しては等号が成立する。
となる。この角度が1度になったとき、鉛筆がつりあいを失ったとみなすと、そのときの時間 t は、
となる。
具体的に数値を入れてみる:
さて、具体的に数値を入れてみよう。三菱鉛筆の「鉛筆のサイズ」というページによると、標準的な鉛筆は長さ(l)=17.6cm、質量(M)=6.6gである。
鉛筆の長さ 、鉛筆の質量
また
重力加速度 、プランク定数
とすると、時間は 秒という値になった。また、鉛筆の長さを半分にすると質量も半分になるので
鉛筆の長さ 、鉛筆の質量
とすると、時間は 秒という値になった。
このページによれば世界最大の鉛筆は長さが23メートル、重さが3.6トンもあるそうだ。これを代入すると時間はなんと 秒にもなる。
縦軸に長さを、横軸に質量をとってつりあいが失われる時間(秒)を表にすると次のようになった。黄色いセルは鉛筆をだんだん短くしていったときの値を示している。短くなるにつれてつりあいを保てる時間は短くなることがわかる。
倒れないでいられる時間は鉛筆が長ければ長いほど、重ければ重いほど長くなることがわかるが、長さのほうが重さよりも影響が大きいということもわかる。Wolfram|Alphaでグラフ化してみよう。
「=sqrt(l/980)*ln(3.1416/180*sqrt((2*m*sqrt(980*l^3)/(10^(-27))))) m=1 to 10 l=1 to 30」のように入力すればよい。色が濃いほど時間が短い(=倒れやすい)ことを意味している。(グラフ化を実行してみる)
3D表示
2D表示
さて、鉛筆ではなく「鉄骨」だとしたらどうなるだろうか?質量を5Kg~50Kg、長さを50cm~15mの範囲で表を作ると次のようになった。かなり長い時間倒れないでいられることがわかる。
実感に合っているか?:
みなさんの実感とくらべてどうだったであろうか?想像していたよりも鉛筆はしぶとく立っているというのが多くの人の感想だと思う。そのわけはこの実験が量子力学の不確定性原理による影響だけを考慮しているからなのだ。
つまり古典力学的には理想的な状況が前提とされている。でも実際には鉛筆は完全な直線になっていないし、完全に均質というわけでもない。また無風であっても空気中の分子は鉛筆に絶えず衝突している。鉛筆を放すときの手元はわずかにぶれるだろうし、完全に垂直に立てることなどできるわけではない。鉛筆を立てる面もありとあらゆることが原因で絶えず縦横に振動しているはずだ。(振動は海外の地震が原因になるかもしれないし、隣の家の車が発進することが原因になるかもしれない。)
実際にはこのような古典力学的な影響も受けるため、鉛筆はすぐ倒れてしまうのだ。
この現象は何を意味しているのか?:
どの方向に鉛筆が倒れるかはわからない。鉛筆の未来は決まっていない。不確定性原理は私たちの未来は決まっていないことのひとつの原因だと考えられている。鉛筆を立てるという取るに足らない実験はとても深い自然の原理を示しているのだ。
先日の「原始重力波の検出」もそうなのだが、鉛筆を立てる実験の計算はミクロの世界で働いている原理がマクロの世界に影響を及ぼしていることを実感できる興味深い例だと思う。
また時間は未来から過去にさかのぼることができず、過去から未来にしか流れない。これを「時間の矢」と言う。不確定性原理は物理現象の不可逆性とも結びついているのではなかろうかと僕は思っている。なぜ私たちは過去をやり直すことができないのだろうか?
そこにはどのようなからくりが潜んでいるのだろうか?このあたりのことに関心がある方は、以下の関連記事をお読みいただきたい。
関連記事:
どうして未来は決まっていないのだろうか?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b11211eac3e03b18782b5ce88fbe050
時:渡辺慧:時間論についての本。時間の矢、物理現象の不可逆性について書かれた本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン1:「計算」という操作が不可逆現象であり、「情報」というものが熱やエントロピーと関連していることを示す記事
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79
追記:
ところでこの記事をお読みになっていただいたQuantum Universeさんが、この問題を取り上げて記事にしてくださったので紹介しておこう。より深い考察がされているのでぜひお読みいただきたい。
鉛筆とインフレーション宇宙とスクィーズド状態(Quantum Universeさんのブログ)
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/11/192142
量子エンタングルメントと時間の矢(Quantum Universeさんのブログ)
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/18/190400
JJサクライに出ているという問題ですが、解法をみると前提があるのですね。
最小不確定性関係を満たすガウス状態であるだけでなく、ポテンシャルをひっくり返した、安定な調和振動子ハミルトニアンの基底状態のガウス状態に見えます。
最小不確定性関係を満たす他のガウス状態ならば、もっと早く鉛筆は倒れますよね。
それから「不確定性原理は物理現象の不可逆性とも結びついている。」というのはどのような意味でしょうか。「どうして未来は決まっていないのだろうか?(その2)」(http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3c58ff5283245164f62928a37d51769 )
をみると、どうも統計力学や多体効果と時間の矢は関係ないというご意見のように見えます。
コメントをいただき、ありがとうございます。
STAP問題が取り沙汰されている中、若干良心の呵責を感じながら、JJサクライの問題をコピーして記事を書いてしまいました。
> 安定な調和振動子ハミルトニアンの基底状態のガウス状態に見えます。
はい、本書の問題設定のとおりこの状態がいちばん早く倒れるのだと思います。
> それから「不確定性原理は物理現象の不可逆性とも結びついている。」というのはどのような意味でしょうか。
「古典力学的世界→決定論に従う→可逆的」、「不確定性原理(量子力学的世界)→確率論でしか未来を計算できない→非決定論→不可逆的」という発想で書いていました。最後の「非決定論→不可逆的」は「ファインマン計算機科学」の中に書いてあったように思います。
> どうも統計力学や多体効果と時間の矢は関係ないというご意見のように見えます。
はい、最初のうちは古典力学的な統計力学、多体効果という文脈で説明を進めていましたが、最後にパチンコ玉が1つだけ落ちるケース、1本の棒が倒れるケースにおいて、非決定論的で不可逆な減少があることに思い至ったわけです。そして今のところ不可逆性=エントロピー増大則が時間の矢を説明する唯一の物理法則であるということを熱力学の本で読んで知っていたからです。
説明不足で申し訳ございませんでした。
とねさんの書かれる記事はいつも水準が高く、今後の日本のオープンサイエンスにおける希望の光でもあります。
"書の問題設定のとおりこの状態がいちばん早く倒れるのだと思います。"ということでしたが、多分JJサクライの回答は、最も倒れるのが遅い解だと思います。
例えば最小不確定性関係を満たすガウス状態でΔx=0の極限をとった場合には、Δpの寄与が発散するため、一瞬で鉛筆は倒れます。
"パチンコ玉が1つだけ落ちるケース、1本の棒が倒れるケースにおいて、非決定論的で不可逆な減少がある"ということですが、これは量子論の話でしょうか。
古典論ならば決定論的にならざるをえませんので。
私は時間の矢の本質は、やはり多自由度系の効果だと思っています。
時間の矢に関して量子論は本質的ではないと考えております。
> 内容のある記事だと思いました。
ありがとうございます。とてもうれしいです。
> とねさんの書かれる記事はいつも水準が高く、今後の日本のオープンサイエンスにおける希望の光でもあります。
そこまで褒めていただかなくても。。。照れまくってしまいますね。(笑)
> 多分JJサクライの回答は、最も倒れるのが遅い解だと思います。
そうでした!僕のほうが「早い」と「遅い」を書き間違えていました。僕もそのように考えています。
> 例えば最小不確定性関係を満たすガウス状態でΔx=0の極限をとった場合には、Δpの寄与が発散するため、一瞬で鉛筆は倒れます。
そう言われてみればおっしゃるとおりですね。そのケースでは一瞬でつり合いは保てなくなりますね。僕は気付いていませんでした。
> "パチンコ玉が1つだけ落ちるケース、1本の棒が倒れるケースにおいて、非決定論的で不可逆な減少がある"ということですが、これは量子論の話でしょうか。
量子論の話として書いていました。古典論だとパチンコ玉は釘の上で何度かジャンプしたあと静止してしまい、棒の場合は永遠に立ち続けます。
> 私は時間の矢の本質は、やはり多自由度系の効果だと思っています。
> 時間の矢に関して量子論は本質的ではないと考えております。
シュレーディンガー方程式も時間については対称性があるので、未来に対する非決定論と同じ理屈で過去に対しても非決定論が成り立つはずだとなりそうですが、そうなっていないのは宇宙の始まりのエントロピーが極端に大きいということを認めれば解決するのだとブライアン・リーン博士の著書に書かれていました。
私自身、たまたま読んだ本の選択に影響されているのでしょうけれども、情報問題、エントロピーが時間の矢に関係していそうな気がしていると同時に、量子力学もそれらにかかわっているようなので、量子論も関係しているのだろうなと思っているわけです。(まだはっきりと解明や理解にたどり着いているわけではありません。)
多自由度系については勉強不足(というかほとんど勉強していないので)時間の矢との関連性をお話できるレベルには達していません。
これからもよろしくお願いいたします。
こちらこそです。
"量子論の話として書いていました。古典論だとパチンコ玉は釘の上で何度かジャンプしたあと静止してしまい、棒の場合は永遠に立ち続けます。"
古典論のこのパチンコ玉の例でも、エネルギーは熱として外部に散逸しているのですよね。これまで含めれば、ある時間スケールではもちろん非可逆になりますよね。古典論でも。
古典論は決定論的理論ですが、一方ポアンカレの再帰定理というのがあるので、宇宙時間より長くなるかもしれませんが、パチンコ玉とその周囲の環境系はある時刻からエントロピーが減少をする過程に入ります。
結局、エントロピーの低い状態からスタートした古典多体系はべらぼうに長い時間スケールの前半にエントロピーが増加する非可逆性が見えるのだと、私は理解しています。
不確定性関係はとくに非可逆性に関係ないと思われます。むしろ量子カオスを現れにくくしたりする逆の効果をもたらします。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/11/192142
また、熱力学がミクロな情報を無視して粗視化した状態を扱う以上、ある時点で最適な情報無視が時間のずれにより最適でなくなり無視されたミクロ情報がマクロ情報に影響してくるでしょう。
これが時間経過によるエントロピー増大じゃないですかね?
今夜と明日は家の雑用が激しく、落ち着いて考えたり返信したりする時間がとれません。申し訳ございません!
ですので取り急ぎいただいたコメントを公開させていただきました。
Quantum Universeさん
僕の記事を取り上げていただき、ありがとうございました。僕のほうの記事の末尾でもその記事を紹介させていただきました。しかし、美しい説明図(挿絵)も含めてよく短い時間にこれだけの記事をお書きになれるものだと驚かされました。
> 古典論のこのパチンコ玉の例でも、エネルギーは熱として外部に散逸しているのですよね。これまで含めれば、ある時間スケールではもちろん非可逆になりますよね。古典論でも。
はい、おっしゃるとおりパチンコ玉のはねかえり係数は1より小さいですからエネルギーは熱として散逸するので不可逆になると僕も理解しています。現実にはありえない話ですがはねかえり係数が1に等しい場合は(古典論では)可逆になると思っています。
>古典論は決定論的理論ですが、一方ポアンカレの再帰定理というのがあるので、宇宙時間より長くなるかもしれませんが、パチンコ玉とその周囲の環境系はある時刻からエントロピーが減少をする過程に入ります。
ポアンカレの再帰定理は学んでいませんでした。教えていただきありがとうございます。
> 結局、エントロピーの低い状態からスタートした古典多体系はべらぼうに長い時間スケールの前半にエントロピーが増加する非可逆性が見えるのだと、私は理解しています。
なるほどそのように考えればよいわけですね。
> 不確定性関係はとくに非可逆性に関係ないと思われます。むしろ量子カオスを現れにくくしたりする逆の効果をもたらします。
そのあたりのことも僕は勉強不足のようです。教えていただきありがとうございました。
コメントありがとうございます。
なるほど、エントロピー増大のからくりはそのように理解されているわけですね。
最初に、立てた方程式が古典力学によるものなので、「エーレンフェストの定理」から、この解は期待値(平均値)の時間発展を表すものではないか?と考えられます。よって、 t=0 のときの x(0) と p(0) も期待値(平均値)で演算子ではなく、これらの交換関係はゼロではないか?という疑問があり違和感となっています。
コメントいただきありがとうございます。
僕は素直にこの解答を信じてしまいましたが、そういわれてみるとxもpも期待値のような気がしてきますね。でも、もしそうだとすると不確定性原理はどこに現れるべきかという問題もでてくると思うのです。
Quantum Universeさんによる記事も含め、この問題にはいろいろ考えさせられるところが多いです。
ですから古典的方程式を解いて、その後でx(0)やp(0)をシュレーディンガー演算子に置きかえれば、x(t)、p(t)はそのハイゼベルグ演算子に厳密に一致します。
分散の時間発展も、そのハイゼンベルグ演算子から計算ができます。
ご説明いただき、ありがとうございました!
x"=-kx というのが調和振動子モデルで、 x"=+kx というのはそれではないと思っていました。
コメントありがとうございます。めまいがしてしまいましたか!
記事を気に入っていただけたようで、うれしいです。
演習書もお買い求めになられたようで。。。この問題の他にもたくさん良問が掲載されているので読むだけでもためになると思いますよ。