![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/7f/4d1b79c1411b7864c7f18d50495c3d65.png)
「現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳」
内容紹介:
現代でも読み継がれている天文学、宇宙論の教科書。第1部:古典天文学、第2部:太陽と恒星(個々の恒星の天体物理学)、第3部:恒星系(銀河系とギャラクシー、宇宙論と宇宙生成論)
初版:1968年8月刊行、381ページ。(原著刊行は1966年)
第2版:1978年10月刊行、494ページ。(原著刊行は1974年)
著者について:
アルブレヒト・オットー・ヨハネス・ウンゼルト(Albrecht Otto Johannes Unsöld):ウィキペディア
1905年4月20日- 1995年9月23日
ドイツの天体物理学者。恒星大気の研究や、『恒星大気の物理学』『現代天文学』の著者。バーデン=ヴュルテンベルク州のボルハイム (Bolheim) に生まれた。テュービンゲン大学、後にミュンヘン大学でアルノルト・ゾンマーフェルトなどに物理学を学んだ。1932年にキール大学の教授となり1973年までその職にあった。恒星大気のスペクトル線のプロファイルから、恒星大気の運動等を求める方法を提案し、1939年にB0型の恒星のスペクトル線についての研究を発表。これは太陽以外の恒星の大気についての最初の研究であった。
訳者について:
小平桂一(元総合研究大学院大学学長、元国立天文台長) :ウィキペディア
1937年生まれ。専門は銀河物理学。理学博士。東京大学理学部物理学科卒業後、キール大学に留学。カリフォルニア工科大学、東京大学、ハイデルベルク大学での研究・教育職を経て、1982年に東京天文台(現・国立天文台)教授。銀河での定量分類の研究を進めると同時に、大型望遠鏡「すばる」計画を統括する。1994年から2000年まで、国立天文台長(歴代天文台長)としてその建設推進や環境整備に力を尽くす。2001年から2008年まで総合研究大学院大学学長。(歴代学長)著・訳書に『現代天文学』(A.ウンゼルト著)『現代天文学入門』『宇宙の果てまで』『大望遠鏡「すばる」誕生物語』などがある。2017年5月、瑞宝重光章受章。
小平桂一先生の著書: Amazonで検索
僕が高校生活を送っていたのは1979年から1981年にかけてのこと。本書は高校時代に夢中になって読んでいた天文学書のうちの1冊。すばる望遠鏡の生みの親、小平桂一先生が翻訳された天文学の教科書である。
すばる望遠鏡
https://subarutelescope.org/j_index.html
25年ほど前の日曜の昼間に、僕は小平先生のご自宅にお邪魔して先生とドイツ人の奥様から直接お話を聞いたことがある。うちから徒歩20分のところに先生のお宅があった。1990年代の一時期、僕はたまたま先生の娘さんと職場が一緒で、高校時代に天文が好きだったことを話したところ、ご自宅に招待してくださったのだ。
父親が天文学者だということはおそらく知らされていたと思うが、記憶がどうもはっきりしない。結婚しているのになぜ僕を招待したのだろうと不思議に思っていたのも事実。ご自宅にうかがって彼女の父親が小平先生だと知って僕はとても驚いた。娘さんはすでに結婚されていて姓が小平ではなかったから、僕は気がつかなかったのだろう。先生がすばる望遠鏡の建設のための準備を始めていらっしゃった頃だと思う。
高校時代に本書を読んでいたことを先生に伝えると、とてもよろこんでくださり、ドイツで研究されていたころの師匠だったウンゼルト博士や奥様との思い出がたくさん詰まった本であることをお話しくださった。以下のPDF文書にウンゼルト博士や本書のこと、奥様のことが詳しく書かれている。
科学者の夢は共有してこそ:小平桂一
(銀河の本質を求め、人類の目「すばる望遠鏡」をつくる)
https://www.soken.ac.jp/file/disclosure/pr/publicity/journal/no01/pdf/08.pdf
その後、すばる望遠鏡の建設に尽力され、昨年瑞宝重光章を受章されていたことを最近になって知って、とてもうれしかった。
2017/05/18
小平桂一名誉教授が平成29年春の叙勲 瑞宝重光章を受章
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/5393/
第2版は1978年刊行と相当古いわけだが、現代でも読み継がれている教科書である。もちろん1978年以降、「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」で紹介したように、あらたな事実がいくつも発見されているから、本書だけでは不十分なわけだが、学ぶ価値はじゅうぶんにある。次のページでは「宇宙物理学全般(学部生向き)」として勧められている。
宇宙物理学の教科書・参考書
http://www-kn.sp.u-tokai.ac.jp/~kyoshi/edu/books_ap.html
また、1994年に書かれた次のPDF文書でも「大学・大学院向けテキスト」として使われていたことがわかる。
天文学ミニマム(宇宙物理学教程)の理想と現実
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1994/pdf/19941103c.pdf
この時代、天文学はどこまで進んでいたのだろうか?
僕が中学2年だった1976年7月と9月にはNASAが打ち上げたバイキング1号と2号が相次いで火星表面に着陸し、鮮明なカラー写真を地球に送ってきていた。今から40年以上前のことだが、惑星科学はそこまで進歩していた。
人類が初めて目にした火星表面のカラー写真
(写真クリックでこの翌日に撮られた写真を表示?)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/8c/d08d9e3433a84c56b63ad14411da9106.png)
本書の原書の第2版が刊行されたのは1974年だから、火星表面のこの写真は間に合わなかった。掲載されているのはマリナー9号(1971年)による火星と衛星のフォボスの白黒写真である。火星の小さな衛星のフォボスとダイモスは1877年に発見されていたことも書かれている。日本は西南戦争、西郷隆盛が亡くなった年だ。以下、画像クリックで拡大表示するようにしておいた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/73/e29319aa08759a49c86a60c57432d9b9.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/2b/4c701b0d129862300295e8fbdb4bbf96.png)
また、先日紹介した「ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング」に書かれているブラックホールから発する熱(ホーキング放射)が提唱されたのも、本書の原書第2版が刊行されたのと同じ1974年のことである。そして2015年9月には連星ブラックホールの合体による重力波が直接観測され、ブラックホールと重力波の存在が初めて確認された。(参考記事:「重力波の直接観測に成功!」)本書ではブラックホールや重力波に関して、次のように書かれている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/df/b8ff47487a0fc68684803a8c4f37750d.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/5b/9d2100f16e8b68bd9e7830899b5d3ef0.png)
ここには1958年頃からおこなわれたJ.Weberによる実験で使われた検出器で「10の14乗分の1cmの空間の変形が検出可能」と書かれているが、2015年にLIGOで検出された重力波による空間の変形量は10の19乗分の1cmだった。検出装置の長さの比(1.53 m: 4 Km)を考慮すると、当時の限界の2.6億倍もの検出精度が必要だったわけである。重力波が当時の技術で検出できなかったのは無理もない。
そしてビッグバンや宇宙マイクロ波背景放射についてはこのような記述だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/8c/8bb776f7c33745d06c11f018b4749d49.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/ed/c481bf5255e6c28fd9abff7898965ea6.png)
このような時代の本なのだ。物理学を本格的に学んでいたわけではないから、僕には理解できないことがたくさんあったはずだ。それでもワクワクしながら熟読していたことを思い出す。
本書のウンゼルト博士による「序文」や小平先生による「訳者あとがき」を読むと、当時の天文学の研究内容や本書が書かれた背景がわかる。
第1版への序(1966年)、日本語版への序(1968年)、第2版への序(1974年)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/0d/2c1d6b6ff8eb8b744a08e917c92f6d1d.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/35/00183780bb1a433a6a0588fe1e10777e.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/3e/3b89f9d138caf15439a25e432b0600b4.png)
訳者あとがき(1968年)、第2版訳者あとがき(1978年)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/75/14768417ea568be4fbec4a469bc541bb.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/03/ca606bb0b96e59b621bbcdc0072d48f5.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/4e/70103965a227e2ab7c1983ab43bc7013.png)
小平先生がウンゼルト博士の弟子であったことは、次のページを見るとわかる。中学、高校時代にむさぼり読んだ天文学書の著者の先生方のお名前が見つかるとうれしい。
日本の天文学者の系図
http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/~fukue/keizu96.htm
小平先生の著書では、次の2冊がお勧めである。
「宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡」
「大望遠鏡「すばる」誕生物語―星空にかけた夢」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/c8/491482a59bc6bfa84f1d982dc66cdaec.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/53/09126fafed6f75a8b5f2582ac8cb30c7.png)
関連記事:
ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22
ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106
宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20
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![](http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/5e/157793b1991ce3b9948609d4f5bc40fd.png)
「現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/80/8701f97632aea21cceed8f56341c314e.png)
日本語版への序
第1版への序(1966年4月)
第2版への序(1974年8月)
第1部:古典天文学
1 星と人間--観察と思索(古典天文学の歩み)
2 天球、天文座標、地理的経緯度
3 地球の運動--四季と獣帯--時刻、日、年と暦
4 月、日食と月食
5 惑星系
6 力学と万有引力の法則
7 惑星と衛星の物理的性質
8 彗星、流星と隕石、惑星間塵;その構造と組成
第1部から第2部に進むにあたって
9 天文学および天体物理学の器械
第2部:太陽と恒星(個々の恒星の天体物理学)
10 天文学+物理学=天体物理学(天体物理学の歩み)
11 輻射の理論
12 太陽
13 星の見かけ等級と色指数
14 恒星の距離、絶対光度、半径
15 恒星スペクトルの分類、Hertzsprung-Russel図と色・等級図
16 二重星と星の質量
17 スペクトルと原子;熱励起と熱電離
18 恒星大気、星の連続スペクトル
19 Fraunhofer線の理論;恒星大気の化学組成
20 太陽大気中の流れと磁場;太陽活動の周期性
21 変光星--恒星における流れと磁場
第3部:恒星系(銀河系とギャラクシー、宇宙論と宇宙生成論)
22 宇宙への進展(20世紀天文学の歩み)
23 銀河系の構造と力学
24 星間物質
25 恒星の内部構造とエネルギー生成
26 銀河星団と球状星団の色、等級図;恒星の進化
27 ギャラクシー
28 ギャラクシーの電波輻射、ギャラクシーの中心核、宇宙線と高エネルギー天文学
29 ギャラクシーの進化
30 宇宙論
31 惑星系の誕生、地球および生物の進化
自然定数と諸数値
文献
挿図引用
訳者あとがき
第2版訳者あとがき
索引