「高次元空間を見る方法: 小笠英志」(Kindle版)
次元が増えるとどんな不思議が起こるのか (ブルーバックス)
内容紹介:
現代科学を理解するために不可欠な「高次元」を感覚的に捉える超入門書!
科学の入門書やニュースだけでなく、SF小説や映画、アニメなどで目や耳にする高次元や4次元の世界。世界中で研究されている摩訶不思議な世界の入り口を、我々にとって身近な1次元、2次元、3次元から1つずつ次元を増やして解説していきます。
我々の暮らしている3次元空間の中では絶対にほどけない「結び目」が、4次元を使えば「ほどけてしまう」という数学的手品も、本書で実演します。また、4次元の中ではほどけないものがあるという具体例もお見せします。想像力をフル稼働させて、「4次元」や「高次元」を具体的に見て感じて、さらに、「高次元の図形」を作って動かしていきます。
2019年9月19日刊行、240ページ。
著者について:
小笠 英志(おがさ えいじ):
ホームページ: http://ndimension.g1.xrea.com/
Twitter: @E43051281
数学者、作家、大学教員。東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了。博士(数理科学)。元Brandeis大学visiting scholar(客員研究員)。研究テーマは、高次元結び目、1次元結び目およびその周辺。著作は『異次元への扉』(日本評論社)、『4次元以上の空間が見える』『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』(いずれもべレ出版)など。高次元の図形を見る、作る、動かすことがライフワーク。
小笠先生の著書: 単行本検索 Kindle版検索
小笠先生の論文: arXiv.orgで新着順に検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で433冊目。
9月に発売され、ブルーバックス本ではいきなり人気1位になっていたのでずっと気になっていた。タイトルのインパクトが強かったためだろう。あと、表紙を紺色にして目立たせたのも正しい判断だと思った。
今日現在のランキングを見てみると、書籍版が2位、Kindle版が7位である。ランキングは書籍版とKindle版の売り上げ数が同じ土俵で集計される。
拡大: 今の時点でのランキングを見てみる
読む前に気になっていたのは、大学レベル以上の理数系本を読みこんでいる僕でも楽しめる本なのか、ワクワクできる本なのかということだった。高い次元の数学は、これまでいくつか学んできたし、一般向けに書かれた本で満足できるのかというのがひっかかっていた。
結果から書いてしまうと、読んで大正解だった。前半は中学生でもわかる初歩的なことばかりで、ざっと眺めるだけで何が書いてあるかすぐわかるのだが、理系大学生が読むと面白くなるのは後半の「Part 5 4次元で結ばれる」あたりからだと思う。
本書の全体構成はこのようになる。「Part X」というのが「第X章」のようなものだ。
Part 1 高次元空間とは
・高次元空間という言葉を、数学的にきちんと説明しておきましょう
Part 2 高次元の出てくる例
・日常レベルのことを調べることから、経済や自然観測まで、かなり多くのところで、高次元空間は基本事項である
Part 3 宇宙について
・我々の存在している宇宙について、少しばかり
Part 4 結び目がほどける?
・高次元空間を見るとはどのような精神状態か、体験させてさしあげましょう
Part 5 4次元で結ばれる
・4次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。4次元空間を直感力で念想しよう
Part 6 高次元で結ばれる
・高次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。高次元空間を気合いで直覚する
Part 7 次元を1つ上げる
・次元を1個上げれば、右手系、左手系は区別できない。次元を1個上げることを想像して直観する
Part 8 高次元空間で操作する
・高次元空間の中の図形を、局所の操作だけで変形するようすを観照する
Part 9 3次元だけでも高次元が必要
・3次元空間R^3の中だけ考えていても高次元の、しかも、複雑な図形が出現する
本書はトポロジーという数学分野の中のひとつ「結び目理論」、「高次元結び目理論」をテーマにした本だ。もちろん専門的に学ぶわけではなく、その世界の入り口まで読者をいざない、少しだけ覗いてみようという本だった。「少しだけ」と言いつつ、頭脳駆使してイメージすることが要求されるから、理系大学生でも楽しめる本である。素人には「少しだけ」がちょうどよい。
6年ほど前に「多次元空間へのお誘い」というタイトルで18回にわたる連載記事を書いたことがあるが、僕は結び目理論を学んでいないし、この連載記事は「ヒモが絡まりやすいのは3次元空間特有の現象である。」をテーマにして書いたものだ。厳密に言うとヒモが絡まるのと結ばれるのは違う。だから高次元をあつかう点では共通しているが、本書は僕の書いた記事と重なるところがあるものの、テーマや方向性が違う。
また、9年前に書いた「エキゾチックな球面: 野口廣」という本の紹介記事は、7次元球面の不思議な世界をテーマにしたもので、数学分野としては微分位相幾何学、微分トポロジーの領域である。結び目理論とは関係ない。
本書を読むのに必要な前提知識は中学や高校の数学で学ぶ2次元、3次元空間(ユークリッド空間)を座標であらわす方法、円や球面の方程式の意味を理解していることくらいだ。一か所「雑記」としてオイラーの公式や数学IIIレベルの積分が解説されているが本論とは関係ない。
「Part 4 結び目がほどける?」は、中学生や高校生が授業で学んだことを復習しながら本書の解説の流儀に慣れておくのにちょうどよいだろう。
本書はとにかく図版や2次元、3次元のグラフが多い。人間が知覚、認識できるのは3次元空間までであり、4次元空間は(著者の小笠先生を含めて)知覚できないことはわかりきっているから、先生がどのような工夫をして4次元以上の空間や図形を表現しているかが、本書の最大の価値であり、見所である。通常、予想できる高次元のイメージのさせかたとは違うので、楽しみにしていただきたい。
であるから「Part 5 4次元で結ばれる」や「Part 6 高次元で結ばれる」から面白くなる。4次元で結ばれるヒモ、5次元以上で結ばれるヒモの状況をあなたはイメージできるようになるだろうか?ここでいう「イメージ」するということは、そのものの姿を思い浮かべることではなく、低い次元の図形の組み合わせや移動をつかって高い次元での状況を想像することである。
「Part 7 次元を1つ上げる」では、右手系と左手系の話。3次元空間では目の前に手の甲を向けてかざした両手をそのままスライドさせても、右手と左手の5本の指は重ならない。また、フレミングの右手の法則の形と左手の法則のときの手の形は、どのように手を移動させても重ねることができない。けれども4次元空間だとこれが重なるようにできるのだ。この事実は知っていたが、どのように説明すればよいのかということが、僕には参考になった。
「Part 8 高次元空間で操作する」は、僕が予想していない内容だった。高次元空間の中の図形を局所の操作だけで変形する様子が紹介される。もちろん3次元空間の例から順を追って解説されるからいきなり難しくなるわけではない。また、この章は結び目理論で使われる専門用語や数学表記が多くなってくる。局所操作でいちばん大切なのは「交叉入れ替え」であり、このほかには「スパン結び目」、「リボン操作」、「k-ツイストスパン結び目」などの用語を使った解説がされる。この章から理解が追いていかない人がでてくるかもしれない。ゆっくり時間をかけて読むべきである。
「Part 9 3次元だけでも高次元が必要」が、いちばん萌える章だ。3次元空間内の結び目やヒモの現象を数学的に証明するために、高次元空間が自然に必要になる例が紹介される。高校までの数学では、そのような例はひとつもなかったから、すごく不思議なことに思えてくるのである。
この章になると専門用語は増えるし、専門家が研究するレベルの話になるのでさすがに解説は一般向けの概要にとどまり「詳しくはXXの論文に書かれています。」という記述にとどめている。もちろん一般読者は論文を読めないわけだが、はぐらかされた気持ちにはならない。それ以前の解説が十分難しくて、頭の体操になるからだ。
本書では現代物理学で使われる高次元空間に関して、超弦理論の10次元や11次元の話、そして生物学や経済学の理論でも高次元空間の数学が使われていることを紹介しているが、詳しくは踏み込まず、ごくあっさりと紹介するにとどめている。あくまでも数学書、結び目理論の本なのだ。
読んで当たりの本である。ぜひお読みいただきたい。
以下は本書の宣伝動画ということなのだが、本書の内容はこれを見てもまったくわからない。ともかく読めば驚くのだということを遊び心をこめて強調しているのである。
A girl is surprised at my book 拙著「高次元空間を見る方法」小笠英志 関連動画
以下は小笠先生のその他の著書である。
「4次元以上の空間が見える: 小笠英志」(Kindle版)(紹介記事)
「異次元への扉―はさみと紙から始めてトポロジーの達人に: 小笠英志」
「相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう: 小笠英志」(Kindle版)
まず気になるのは2006年に刊行された「4次元以上の空間が見える: 小笠英志」である。今回紹介したブルーバックスの本と内容がほとんどかぶりそうなタイトルであるが、購入して内容を見たところ重複しているところはほとんどないことがわかった。ブルーバックスの本よりも高度で、高校卒業程度か理系大学生以上が対象読者である。
そして「異次元への扉―はさみと紙から始めてトポロジーの達人に: 小笠英志」であるが、この本には「ボーイサーフェス」と「クラインの壺」が解説される。これらについて小笠先生は次のような動画をお作りになっている。
Make your Boy surface
ボーイサーフェスのそのほかの動画: YouTubeで検索する
Klein bottle can be made quickly
Klein bottle=2×Möbius band
小笠先生がアップロードした動画: YouTubeチャンネル
また先生は、ボーイサーフェスについて次の論文をお書きになっている。
Make your Boy surface
https://arxiv.org/abs/1303.6448
関連記事:
4次元以上の空間が見える: 小笠英志
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fd308631ded4bb5dff7dd274d0a23f57
多次元空間へのお誘い(1):はじめに
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3c2bacd624695dcad7dd2fa9feadd5bd
高次元空間の隙間の大きさ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d65a6811aa35998e6246bb57025a974
エキゾチックな球面: 野口廣
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3f1abb0ae2b139d53580261b22b9c87
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「高次元空間を見る方法: 小笠英志」(Kindle版)
次元が増えるとどんな不思議が起こるのか (ブルーバックス)
はじめに
Part 1 高次元空間とは
・高次元空間という言葉を、数学的にきちんと説明しておきましょう
- 直線、平面、空間
- 板チョコ、羊羹
- 0次元空間R^0、1次元空間R^1、2次元空間R^2、3次元空間R^3、4次元空間R^4、...、n次元空間R^n
- 高次元が見たいですよね
Part 2 高次元の出てくる例
・日常レベルのことを調べることから、経済や自然観測まで、かなり多くのところで、高次元空間は基本事項である
- 地球上でいつでも無風状態地点が1個はあるという話を聞いた人もいることでしょう
- 複素関数
- 経済
- 物理
- 高次元が自然な発想なのはわかった。高次元が「見える」のもわかった。しかし、では、高次元に「行ける」のか?
Part 3 宇宙について
・我々の存在している宇宙について、少しばかり
- 幕間:時間について
- 我々の住む宇宙の形
- 幕間:標準理論
- 我々の世界が実は高次元だ:超弦理論
Part 4 結び目がほどける?
・高次元空間を見るとはどのような精神状態か、体験させてさしあげましょう
- 3次元空間R^3の中の円周
- 3次元空間R^3の中では結ばれていた円周が、4次元空間R^4の中では必ずほどける
Part 5 4次元で結ばれる
・4次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。4次元空間を直感力で念想しよう
- 4次元空間R^4の中の球面S^2
- 球面S^2は4次元空間R^4の中で結ばれる
Part 6 高次元で結ばれる
・高次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。高次元空間を気合いで直覚する
- 3次元球面S^3、n次元球面(nは4以上の整数)
- (n+2)次元空間R^(n+2)の中でn次元球面S^nは結ばれる(nは3以上の自然数)
Part 7 次元を1つ上げる
・次元を1個上げれば、右手系、左手系は区別できない。次元を1個上げることを想像して直観する
- 右手系、左手系
- 次元を1つ上げれば、右手系、左手系は区別できない
- 雑記:オイラーの公式を、高校数学で納得する一方法
Part 8 高次元空間で操作する
・高次元空間の中の図形を、局所の操作だけで変形するようすを観照する
- 1次元結び目に施す局所操作:交叉入れ替え
- 2次元結び目に施す局所操作
- n次元結び目に施す局所操作(nは3以上の自然数)
Part 9 3次元だけでも高次元が必要
・3次元空間R^3の中だけ考えていても高次元の、しかも、複雑な図形が出現する
- 高次元の図形いろいろ
- 3次元を調べるために高次元が必要になる数学の例:3次元空間R^3の中の各結び目に対応するコバノフ(・リプシッツ・サーカー)・ステイブル・ホモトピー・タイプという高次元の図形
参考文献について
参考文献
動画の紹介と謝辞
さくいん
次元が増えるとどんな不思議が起こるのか (ブルーバックス)
内容紹介:
現代科学を理解するために不可欠な「高次元」を感覚的に捉える超入門書!
科学の入門書やニュースだけでなく、SF小説や映画、アニメなどで目や耳にする高次元や4次元の世界。世界中で研究されている摩訶不思議な世界の入り口を、我々にとって身近な1次元、2次元、3次元から1つずつ次元を増やして解説していきます。
我々の暮らしている3次元空間の中では絶対にほどけない「結び目」が、4次元を使えば「ほどけてしまう」という数学的手品も、本書で実演します。また、4次元の中ではほどけないものがあるという具体例もお見せします。想像力をフル稼働させて、「4次元」や「高次元」を具体的に見て感じて、さらに、「高次元の図形」を作って動かしていきます。
2019年9月19日刊行、240ページ。
著者について:
小笠 英志(おがさ えいじ):
ホームページ: http://ndimension.g1.xrea.com/
Twitter: @E43051281
数学者、作家、大学教員。東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了。博士(数理科学)。元Brandeis大学visiting scholar(客員研究員)。研究テーマは、高次元結び目、1次元結び目およびその周辺。著作は『異次元への扉』(日本評論社)、『4次元以上の空間が見える』『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』(いずれもべレ出版)など。高次元の図形を見る、作る、動かすことがライフワーク。
小笠先生の著書: 単行本検索 Kindle版検索
小笠先生の論文: arXiv.orgで新着順に検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で433冊目。
9月に発売され、ブルーバックス本ではいきなり人気1位になっていたのでずっと気になっていた。タイトルのインパクトが強かったためだろう。あと、表紙を紺色にして目立たせたのも正しい判断だと思った。
今日現在のランキングを見てみると、書籍版が2位、Kindle版が7位である。ランキングは書籍版とKindle版の売り上げ数が同じ土俵で集計される。
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読む前に気になっていたのは、大学レベル以上の理数系本を読みこんでいる僕でも楽しめる本なのか、ワクワクできる本なのかということだった。高い次元の数学は、これまでいくつか学んできたし、一般向けに書かれた本で満足できるのかというのがひっかかっていた。
結果から書いてしまうと、読んで大正解だった。前半は中学生でもわかる初歩的なことばかりで、ざっと眺めるだけで何が書いてあるかすぐわかるのだが、理系大学生が読むと面白くなるのは後半の「Part 5 4次元で結ばれる」あたりからだと思う。
本書の全体構成はこのようになる。「Part X」というのが「第X章」のようなものだ。
Part 1 高次元空間とは
・高次元空間という言葉を、数学的にきちんと説明しておきましょう
Part 2 高次元の出てくる例
・日常レベルのことを調べることから、経済や自然観測まで、かなり多くのところで、高次元空間は基本事項である
Part 3 宇宙について
・我々の存在している宇宙について、少しばかり
Part 4 結び目がほどける?
・高次元空間を見るとはどのような精神状態か、体験させてさしあげましょう
Part 5 4次元で結ばれる
・4次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。4次元空間を直感力で念想しよう
Part 6 高次元で結ばれる
・高次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。高次元空間を気合いで直覚する
Part 7 次元を1つ上げる
・次元を1個上げれば、右手系、左手系は区別できない。次元を1個上げることを想像して直観する
Part 8 高次元空間で操作する
・高次元空間の中の図形を、局所の操作だけで変形するようすを観照する
Part 9 3次元だけでも高次元が必要
・3次元空間R^3の中だけ考えていても高次元の、しかも、複雑な図形が出現する
本書はトポロジーという数学分野の中のひとつ「結び目理論」、「高次元結び目理論」をテーマにした本だ。もちろん専門的に学ぶわけではなく、その世界の入り口まで読者をいざない、少しだけ覗いてみようという本だった。「少しだけ」と言いつつ、頭脳駆使してイメージすることが要求されるから、理系大学生でも楽しめる本である。素人には「少しだけ」がちょうどよい。
6年ほど前に「多次元空間へのお誘い」というタイトルで18回にわたる連載記事を書いたことがあるが、僕は結び目理論を学んでいないし、この連載記事は「ヒモが絡まりやすいのは3次元空間特有の現象である。」をテーマにして書いたものだ。厳密に言うとヒモが絡まるのと結ばれるのは違う。だから高次元をあつかう点では共通しているが、本書は僕の書いた記事と重なるところがあるものの、テーマや方向性が違う。
また、9年前に書いた「エキゾチックな球面: 野口廣」という本の紹介記事は、7次元球面の不思議な世界をテーマにしたもので、数学分野としては微分位相幾何学、微分トポロジーの領域である。結び目理論とは関係ない。
本書を読むのに必要な前提知識は中学や高校の数学で学ぶ2次元、3次元空間(ユークリッド空間)を座標であらわす方法、円や球面の方程式の意味を理解していることくらいだ。一か所「雑記」としてオイラーの公式や数学IIIレベルの積分が解説されているが本論とは関係ない。
「Part 4 結び目がほどける?」は、中学生や高校生が授業で学んだことを復習しながら本書の解説の流儀に慣れておくのにちょうどよいだろう。
本書はとにかく図版や2次元、3次元のグラフが多い。人間が知覚、認識できるのは3次元空間までであり、4次元空間は(著者の小笠先生を含めて)知覚できないことはわかりきっているから、先生がどのような工夫をして4次元以上の空間や図形を表現しているかが、本書の最大の価値であり、見所である。通常、予想できる高次元のイメージのさせかたとは違うので、楽しみにしていただきたい。
であるから「Part 5 4次元で結ばれる」や「Part 6 高次元で結ばれる」から面白くなる。4次元で結ばれるヒモ、5次元以上で結ばれるヒモの状況をあなたはイメージできるようになるだろうか?ここでいう「イメージ」するということは、そのものの姿を思い浮かべることではなく、低い次元の図形の組み合わせや移動をつかって高い次元での状況を想像することである。
「Part 7 次元を1つ上げる」では、右手系と左手系の話。3次元空間では目の前に手の甲を向けてかざした両手をそのままスライドさせても、右手と左手の5本の指は重ならない。また、フレミングの右手の法則の形と左手の法則のときの手の形は、どのように手を移動させても重ねることができない。けれども4次元空間だとこれが重なるようにできるのだ。この事実は知っていたが、どのように説明すればよいのかということが、僕には参考になった。
「Part 8 高次元空間で操作する」は、僕が予想していない内容だった。高次元空間の中の図形を局所の操作だけで変形する様子が紹介される。もちろん3次元空間の例から順を追って解説されるからいきなり難しくなるわけではない。また、この章は結び目理論で使われる専門用語や数学表記が多くなってくる。局所操作でいちばん大切なのは「交叉入れ替え」であり、このほかには「スパン結び目」、「リボン操作」、「k-ツイストスパン結び目」などの用語を使った解説がされる。この章から理解が追いていかない人がでてくるかもしれない。ゆっくり時間をかけて読むべきである。
「Part 9 3次元だけでも高次元が必要」が、いちばん萌える章だ。3次元空間内の結び目やヒモの現象を数学的に証明するために、高次元空間が自然に必要になる例が紹介される。高校までの数学では、そのような例はひとつもなかったから、すごく不思議なことに思えてくるのである。
この章になると専門用語は増えるし、専門家が研究するレベルの話になるのでさすがに解説は一般向けの概要にとどまり「詳しくはXXの論文に書かれています。」という記述にとどめている。もちろん一般読者は論文を読めないわけだが、はぐらかされた気持ちにはならない。それ以前の解説が十分難しくて、頭の体操になるからだ。
本書では現代物理学で使われる高次元空間に関して、超弦理論の10次元や11次元の話、そして生物学や経済学の理論でも高次元空間の数学が使われていることを紹介しているが、詳しくは踏み込まず、ごくあっさりと紹介するにとどめている。あくまでも数学書、結び目理論の本なのだ。
読んで当たりの本である。ぜひお読みいただきたい。
以下は本書の宣伝動画ということなのだが、本書の内容はこれを見てもまったくわからない。ともかく読めば驚くのだということを遊び心をこめて強調しているのである。
A girl is surprised at my book 拙著「高次元空間を見る方法」小笠英志 関連動画
以下は小笠先生のその他の著書である。
「4次元以上の空間が見える: 小笠英志」(Kindle版)(紹介記事)
「異次元への扉―はさみと紙から始めてトポロジーの達人に: 小笠英志」
「相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう: 小笠英志」(Kindle版)
まず気になるのは2006年に刊行された「4次元以上の空間が見える: 小笠英志」である。今回紹介したブルーバックスの本と内容がほとんどかぶりそうなタイトルであるが、購入して内容を見たところ重複しているところはほとんどないことがわかった。ブルーバックスの本よりも高度で、高校卒業程度か理系大学生以上が対象読者である。
そして「異次元への扉―はさみと紙から始めてトポロジーの達人に: 小笠英志」であるが、この本には「ボーイサーフェス」と「クラインの壺」が解説される。これらについて小笠先生は次のような動画をお作りになっている。
Make your Boy surface
ボーイサーフェスのそのほかの動画: YouTubeで検索する
Klein bottle can be made quickly
Klein bottle=2×Möbius band
小笠先生がアップロードした動画: YouTubeチャンネル
また先生は、ボーイサーフェスについて次の論文をお書きになっている。
Make your Boy surface
https://arxiv.org/abs/1303.6448
関連記事:
4次元以上の空間が見える: 小笠英志
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fd308631ded4bb5dff7dd274d0a23f57
多次元空間へのお誘い(1):はじめに
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3c2bacd624695dcad7dd2fa9feadd5bd
高次元空間の隙間の大きさ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d65a6811aa35998e6246bb57025a974
エキゾチックな球面: 野口廣
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3f1abb0ae2b139d53580261b22b9c87
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応援クリックをお願いします。
「高次元空間を見る方法: 小笠英志」(Kindle版)
次元が増えるとどんな不思議が起こるのか (ブルーバックス)
はじめに
Part 1 高次元空間とは
・高次元空間という言葉を、数学的にきちんと説明しておきましょう
- 直線、平面、空間
- 板チョコ、羊羹
- 0次元空間R^0、1次元空間R^1、2次元空間R^2、3次元空間R^3、4次元空間R^4、...、n次元空間R^n
- 高次元が見たいですよね
Part 2 高次元の出てくる例
・日常レベルのことを調べることから、経済や自然観測まで、かなり多くのところで、高次元空間は基本事項である
- 地球上でいつでも無風状態地点が1個はあるという話を聞いた人もいることでしょう
- 複素関数
- 経済
- 物理
- 高次元が自然な発想なのはわかった。高次元が「見える」のもわかった。しかし、では、高次元に「行ける」のか?
Part 3 宇宙について
・我々の存在している宇宙について、少しばかり
- 幕間:時間について
- 我々の住む宇宙の形
- 幕間:標準理論
- 我々の世界が実は高次元だ:超弦理論
Part 4 結び目がほどける?
・高次元空間を見るとはどのような精神状態か、体験させてさしあげましょう
- 3次元空間R^3の中の円周
- 3次元空間R^3の中では結ばれていた円周が、4次元空間R^4の中では必ずほどける
Part 5 4次元で結ばれる
・4次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。4次元空間を直感力で念想しよう
- 4次元空間R^4の中の球面S^2
- 球面S^2は4次元空間R^4の中で結ばれる
Part 6 高次元で結ばれる
・高次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。高次元空間を気合いで直覚する
- 3次元球面S^3、n次元球面(nは4以上の整数)
- (n+2)次元空間R^(n+2)の中でn次元球面S^nは結ばれる(nは3以上の自然数)
Part 7 次元を1つ上げる
・次元を1個上げれば、右手系、左手系は区別できない。次元を1個上げることを想像して直観する
- 右手系、左手系
- 次元を1つ上げれば、右手系、左手系は区別できない
- 雑記:オイラーの公式を、高校数学で納得する一方法
Part 8 高次元空間で操作する
・高次元空間の中の図形を、局所の操作だけで変形するようすを観照する
- 1次元結び目に施す局所操作:交叉入れ替え
- 2次元結び目に施す局所操作
- n次元結び目に施す局所操作(nは3以上の自然数)
Part 9 3次元だけでも高次元が必要
・3次元空間R^3の中だけ考えていても高次元の、しかも、複雑な図形が出現する
- 高次元の図形いろいろ
- 3次元を調べるために高次元が必要になる数学の例:3次元空間R^3の中の各結び目に対応するコバノフ(・リプシッツ・サーカー)・ステイブル・ホモトピー・タイプという高次元の図形
参考文献について
参考文献
動画の紹介と謝辞
さくいん