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ゴールデンウィークに筑波大学内にある「朝永記念室」を見学した。博士がたどった足跡や研究成果をミーハーな興味からながめてきたわけだ。
この「量子力学(1)第2版」は名著として名高い教科書だ。物理学を専攻しているならば知らない学生はまずいない。
この第1巻では比熱や空洞輻射、熱力学の古典理論からエネルギーが量子として存在するというプランクの仮説がでてきたこと、光の粒子性、前期量子力学、ハイゼンベルクのマトリクス力学による前期量子力学の記述までを初心者向けに解説している。初心者といっても大学教養課程の学生くらいが対象であるが。
いわば量子力学の誕生ストーリーと言ってもよい。この時代の量子力学が扱う対象は光や電子、原子の性質であった。光や電子が粒子なのかそれとも波動なのかとか、エネルギーや運動量などに最小単位があるのではとか、エネルギーの変位というものが電子の離散的な状態変化によるものであるとかなどの仮説を検証していった時代である。物理学者たちが直面していたさまざまな困難をどのように解決し、仮説と仮説が結びついて理論となっていった過程がよくわかる。原子核内部の素粒子を扱う素粒子物理学や量子色力学などはもっと後の時代のことである。
この本を読み終えて、やはり名著と言われるだけのことはあるなと思った。「ファインマン物理学(5)量子力学」とはまた違った切り口で、より多くの数式を使って丁寧に説明している。研究の時代的経過という点では朝永先生の本のほうが、実際の順番に近い。
説明に使われている数学も三角関数、指数関数、微積分や2階までの微分方程式、複素関数、行列の演算など大学の教養課程で学ぶ数学で事足りる。数式の展開について込み入った箇所も見られるが、丹念に追っていけばどのように古典力学から量子力学の発想が生まれてきたのか、それが仮説以上のものであることが数学的に実感できるはずだ。
教科書は一般につまらないものである。しかし、この本は文章のうまい朝永先生だけあって、まるで「物理物語」を読んでいるようである。ファインマン物理学のワクワク感とはまた違った真面目な誠実さと几帳面さを兼ね備えた本だ。同じ量子力学でもいろいろな切り口があるものだ。良書にめぐり合うことの大切さ、いろいろな著者の本で同じ分野を学ぶことのおもしろさを知った。
ともあれ、この第1巻の目次は以下のとおりである。(第2レベルまでの目次)
第1章:エネルギー量子の発見
事のおこり
比熱の理論
「真空」の比熱
Rayleigh-Jeansの公式
Wienの「ずれ」の法則
Wienの公式
Planckの公式
エネルギー量子
比熱の量子論
第2章:光の粒子性
光量子仮説
空洞エネルギーのゆらぎ(Rayleigh-Jeansの場合、Wienの場合、Planckの場合)
光電効果
Compton効果
光子ガス
粒子性と波動性
第3章:前期量子力学
原子の構造
原子のスペクトル
Bohrの理論
量子条件
水素原子の定常状態
方向量子化
定常状態の実験的証明
Bohrの対応原理
回転運動および並進運動の量子化
第4章:原子の殻状構造
光学的スペクトルの理論
X線スペクトル
原子の殻状構造と周期律
スペクトル・タームの多重構造と内部量子数
電子のスピンと固有磁気能率
Pauliの原理
第5章:マトリックス力学の誕生
困難解決の糸口
Heisenbergの発見
マトリックス力学
正準運動方程式とBohrの振動数関係
固有値問題
付録
Boltzmannの原理
簡単な結晶モデル
連続的な弦の横振動
光の振動を力学的に取り扱うこと
弦の横振動の圧力
振動系の断熱不変量
弦の振動におけるエネルギーのゆらぎ
T=dJ/dWの別証
関連リンク(というより僕の記事のほうが関連リンクなのだが。):
みすず書房HPの「量子力学I」のページ
http://www.msz.co.jp/book/detail/02551.html
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
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この「量子力学(1)第2版」は名著として名高い教科書だ。物理学を専攻しているならば知らない学生はまずいない。
この第1巻では比熱や空洞輻射、熱力学の古典理論からエネルギーが量子として存在するというプランクの仮説がでてきたこと、光の粒子性、前期量子力学、ハイゼンベルクのマトリクス力学による前期量子力学の記述までを初心者向けに解説している。初心者といっても大学教養課程の学生くらいが対象であるが。
いわば量子力学の誕生ストーリーと言ってもよい。この時代の量子力学が扱う対象は光や電子、原子の性質であった。光や電子が粒子なのかそれとも波動なのかとか、エネルギーや運動量などに最小単位があるのではとか、エネルギーの変位というものが電子の離散的な状態変化によるものであるとかなどの仮説を検証していった時代である。物理学者たちが直面していたさまざまな困難をどのように解決し、仮説と仮説が結びついて理論となっていった過程がよくわかる。原子核内部の素粒子を扱う素粒子物理学や量子色力学などはもっと後の時代のことである。
この本を読み終えて、やはり名著と言われるだけのことはあるなと思った。「ファインマン物理学(5)量子力学」とはまた違った切り口で、より多くの数式を使って丁寧に説明している。研究の時代的経過という点では朝永先生の本のほうが、実際の順番に近い。
説明に使われている数学も三角関数、指数関数、微積分や2階までの微分方程式、複素関数、行列の演算など大学の教養課程で学ぶ数学で事足りる。数式の展開について込み入った箇所も見られるが、丹念に追っていけばどのように古典力学から量子力学の発想が生まれてきたのか、それが仮説以上のものであることが数学的に実感できるはずだ。
教科書は一般につまらないものである。しかし、この本は文章のうまい朝永先生だけあって、まるで「物理物語」を読んでいるようである。ファインマン物理学のワクワク感とはまた違った真面目な誠実さと几帳面さを兼ね備えた本だ。同じ量子力学でもいろいろな切り口があるものだ。良書にめぐり合うことの大切さ、いろいろな著者の本で同じ分野を学ぶことのおもしろさを知った。
ともあれ、この第1巻の目次は以下のとおりである。(第2レベルまでの目次)
第1章:エネルギー量子の発見
事のおこり
比熱の理論
「真空」の比熱
Rayleigh-Jeansの公式
Wienの「ずれ」の法則
Wienの公式
Planckの公式
エネルギー量子
比熱の量子論
第2章:光の粒子性
光量子仮説
空洞エネルギーのゆらぎ(Rayleigh-Jeansの場合、Wienの場合、Planckの場合)
光電効果
Compton効果
光子ガス
粒子性と波動性
第3章:前期量子力学
原子の構造
原子のスペクトル
Bohrの理論
量子条件
水素原子の定常状態
方向量子化
定常状態の実験的証明
Bohrの対応原理
回転運動および並進運動の量子化
第4章:原子の殻状構造
光学的スペクトルの理論
X線スペクトル
原子の殻状構造と周期律
スペクトル・タームの多重構造と内部量子数
電子のスピンと固有磁気能率
Pauliの原理
第5章:マトリックス力学の誕生
困難解決の糸口
Heisenbergの発見
マトリックス力学
正準運動方程式とBohrの振動数関係
固有値問題
付録
Boltzmannの原理
簡単な結晶モデル
連続的な弦の横振動
光の振動を力学的に取り扱うこと
弦の横振動の圧力
振動系の断熱不変量
弦の振動におけるエネルギーのゆらぎ
T=dJ/dWの別証
関連リンク(というより僕の記事のほうが関連リンクなのだが。):
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http://www.msz.co.jp/book/detail/02551.html
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