とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎

2021年06月06日 16時28分04秒 | 物理学、数学
フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎」(Kindle版

内容紹介:
21世紀の現代の善と悪の原点こそ、フォン・ノイマンである。彼の破天荒な生涯と哲学を知れば、今の便利な生活やAIの源流がよくわかる!
「科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことにしてもだ」
彼は、理想に邁進するためには、いかなる犠牲もやむを得ないと「人間性」を切り捨てた。

2021年2月17日刊行、272ページ。

著者について:
高橋 昌一郎: ウィキペディアの記事
Twitter: @ShoichiroT
note: https://note.com/logician
1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。現在は、國學院大學教授。専門は、論理学・科学哲学。主要著書に『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』などがある。

高橋先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で459冊目。

今売れている人気本である。表紙に書かれている「人類史上最恐の頭脳」や「人間のフリをした悪魔」という宣伝文句につられて、Kindle版をポチってしまった。ノイマンはそれほど悪辣な科学者だっけ?と書店で見るたびに気になっていた。

20世紀の数学者フォン・ノイマン(ウィキペディア)の業績が、とても多岐にわたっていること、超天才であることは知っていたが、どのような人生を送ったのかについては知らなかったので、読んでみることにした。これまで僕が読んでいたのは「量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン」(紹介記事)だけだった。ちなみにこの歴史的な名著は先月に新装版が刊行されている。ノイマン自身による著作を読み進めるのがいちばんよいことは言うまでもない。幸い、ちくま学芸文庫から彼の代表的な著作(専門書)を読むことができる。(ノイマンの著作検索

本書が売れているのは、数式が苦手な一般読者でもたやすく読むことができるからだ。そして、彼が遺した論文や著作に挑戦しようとしている理系読者にとっても「ノイマン入門」として最適な一冊に仕上がっている。各章の概要は次のとおり。

はじめに 人間のフリをした悪魔
ノイマンの生涯を概説している。

第1章 数学の天才
オーストリア・ハンガリー帝国のブダペストに生まれたノイマンの少年時代について書かれている。

第2章 ヒルベルト学派の旗手
ワイマール共和国のベルリン大学時代とスイスへの転校。ゲッチンゲン大学の研究員、ベルリン大学講師。ゲーム理論。マリエットとの結婚。

第3章 プリンストン高等研究所
プリンストン大学の講師となりアメリカへ脱出。

第4章 私生活
プリンストンでの私生活。妻マリエットと不仲となり、離婚。アメリカ市民権取得。船のカジノで知り合ったハンガリーのユダヤ人クララと再婚。量子力学。

第5章 第二次大戦と原子爆弾
米軍の爆弾研究の第一人者となり、第二次世界大戦では原爆開発のマンハッタン計画に参加。原爆を完成し、ノイマンは京都への原爆投下を主張。

第6章 コンピュータの父
第二次世界大戦戦後。コンピューター開発、ゲーム理論。

第7章 フォン・ノイマン委員会
ソ連との冷戦下で水爆開発。核兵器委員会委員長。53歳で死去。

類まれな超人的な天才ぶりがよくわかる伝記本だ。表紙に書かれている「人類史上最恐の頭脳」や「人間のフリをした悪魔」という言葉だけで判断するとNHKの「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」や「ダークサイドミステリー」で取り上げられそうな科学者だが、読み終えてみると人道上、彼が非難されるような人物だという印象は持たなかった。マンハッタン計画に参加した科学者は、多かれ少なかれ不幸な時代に戦争協力を余儀なくされた「消したい過去」を持っている。

本書を読んでいちばん想像力を掻き立てられたのは「もし、ノイマンが生まれていなかったとしたら?」と考えてみたときのことだった。おそらくアメリカの原爆やコンピュータの開発は遅れていただろう。第二次世界大戦の勝敗は逆になっていた可能性が高い。そして戦後の世界はまったく現在とは違ったものになっていたはずだ。私たちが今使っているパソコンやスマートフォンの開発もどうなっていたかわからない。たった一人の人間の存在が、世界の行く末をこれほどまで左右できる可能性を秘めていることに僕は身震いした。

理系かどうかに関わらず、私たちが知っておくべき20世紀の偉人だ。ぜひお読みいただきたい。


関連記事:

量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/09b65f36119894f5b852bbf38421af45


 

 


フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎」(Kindle版


はじめに 人間のフリをした悪魔

第1章 数学の天才
―ママ、何を計算しているの?
 獅子は爪跡でわかる!

第2章 ヒルベルト学派の旗手
―フォン・ノイマンに恐怖を抱くようになりました!
 君も僕もワインが好きだ。さて、結婚しようか!

第3章 プリンストン高等研究所
―ジョニーはアメリカに恋していた!
 朝食前にバスローブを着たまま、五ページの論文で証明したのです!

第4章 私生活
―ゲーデルを救出すること以上に、重大な貢献はありません!
 そのうち将軍になるかもしれない!

第5章 第二次大戦と原子爆弾
―どうして自分には、彼にできたことが見通せなかったのか!
 我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない!
 我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!

第6章 コンピュータの父
―ようやく私の次に計算の早い機械ができた!
 もし彼を失うことになれば、我々にとって大きな悲劇です!
 彼は少し顔を出しただけで、経済学を根本的に変えてしまったのです!

第7章 フォン・ノイマン委員会
―明日爆撃すると言うなら、なぜ今日ではないのかと私は言いたい!
 彼は、人間よりも進化した生物ではないか?
 
おわりに
参考文献

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5 コメント

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Kindle版をポチッと... (やす(Krtyski))
2021-06-08 10:10:40
とねさん

記事を拝見する限り、徹底した合理主義者で、物事の優先順位を明確にするからこそ、多彩な領域で活躍で板のではないかと、その性格に興味を持ちました。

自分自身のリアルライフを考えれば、必ずしも合理的な優先度だけで行動することは、容易ではありません。人付き合い、忖度、何らかのフリをする必要性、経済的理由などの多くの要因に絡め取られています。その中でできる限り、合理的かつ効率的に考え、行動するようにはしています。

その対比として、フォンノイマンの人生に興味を持ちました。

自分の仕事に直結しない話題は、とても良い脳への刺激になります。面白そうな書籍をご紹介頂き、ありがとうございます。

Kindle版をポチッとしたので、今日から読み始めようと思います。
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幼少期の環境 (やす(Krtyski))
2021-06-09 19:22:34
とねさん

一気に読んでしまいました。

とねさんがお書きになっているように、人道上非難されるような人物とは私も感じませんでした。

瓦礫のヨーロッパからプリンストン高等研究所に呼んでくれたことに恩義を感じているといった記述や、オッペンハイマーの公職追放に反対したりといった下りから、他人に対する悪意が基本的に無い人だったのだろうと想像できます。

家族の深い愛情を受けて、大家族で育った幼少期が、基本的な人格形成に大きな良い影響を与えていたに違いないと思います。
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やす(Krtyski)さんへ (とね)
2021-06-12 12:04:10
やす(Krtyski)さんへ

1日で読み切ってしまわれたのですね!w

やすさんがお書きになっているように、他人に対する悪意が無い人だと思います。反面、祖国を苦しめたナチスドイツやソ連に対する憎しみが、結果的に彼を人道的ンに非難されやすい立場に追い込んだのでしょう。

日本が降伏していなかったら、さらに何発もの原爆が落とされていたことになりますが、その圧倒的な破壊力と殺傷力が天皇陛下の決断を促したことは間違いありません。人間感情を排除して考えると、なるべく早く相手を叩きのめしたほうが最終的には失われる人命は少なくて済みます。無差別に一般市民を殺傷した広島・長崎への原爆投下は非難されるべきものだと思いますが、ノイマンの言うところにも一理ありますし、それを否定したくてもできない自分がいることに気がつきました。
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右翼やて (hirota)
2023-08-10 22:45:42
作用素環の歴史
https://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~hiroshima/take.pdf
てのを読んだら
「フォン・ノイマンの極端な右翼的性格による負の遺産でプリンストンやフランスで作用素環論に冷淡になった。日本でも中断した。」なんて書かれてたよ。
知らんかったなー。
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Re: Re: (とね)
2023-08-11 16:50:08
hirotaさん

知りませんでした。たしかにこの資料にはそのように書かれていますね。彼がそのようになった背景、理由を知りたいものです。
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