「古典場から量子場への道:高橋康著」を読み終えた。僕の理解度は以下のとおり。
第0章~第3章:95%
第4章~第6章:70%
第7章:80%
古典力学から相対論、量子力学に至るまでの物理学のあらゆる理論を「場の方程式」としてとらえなおし、理論物理学の歴史をコンパクトにまとめたような本である。力学、電磁気学をはじめとするそれぞれの運動方程式が場の方程式として書き直され、物理学の各分野のつながりがはっきりわかるようになる。最初から最後までワクワクしながら読むことができた。
第4章以降は「量子場の理論」を他の本で勉強してからでないと数式の部分は理解できない。僕の理解度が60%に落ちたのもそのためだ。しかしそこは高橋流。文章のところだけ読んでも理解できるようにしてくれているのだ。「頭の良くない学生を念頭に置いた。」だけあり、各所にに高橋先生の「語りかけ」や「考察」がある。
だから「量子場の理論」を全く知らなくても心配はいらない。この本でその概要をつかむことができるわけだから。「量子場の理論の入門書」としてしまおう。
量子場の理論はまだ完成していない分野だ。そこには未解決な部分、矛盾をはらんだ部分がある。こういうネガティブな部分にもしっかりスポットを当て、わかりやすく読者に提示してくれるのがありがたい。普通の教科書では「成果」や「効用」のみ紹介され、不都合な部分は隠されることが多いからだ。
量子場の教科書を読むのは自分の手に余るからもう少し先に延ばそうと思っていた僕だが、ついうっかりこの領域に踏み込んでしまったわけだ。でも全体的なことが理解できたから無用の心配をする必要がなくなったのがいちばんよかった。(笑)
以下、細かいことで僕が「へぇ」とか「なるほど」と思った箇所を列挙しておこう。
- 「泡立った時空」という量子場の啓蒙書的なイメージを脱却し、数式的なイメージを得ることができた。量子場でおきる粒子の生成消滅も数式で理解できた。
- 応力テンソル、テンソル場の説明がわかりやすかった。
- シュレディンガー場に特殊相対論を導入してできるクライン・ゴルドン場がよく理解できた。
- 「共変的」、「共変形式」という概念の説明がとてもわかりやすい。一般相対論の「共変微分」の意味も「ああ、そういう説明にすれば分かりやすいな。」という感じ。つまり「物理系の違いに影響されない形」へ微分演算を拡張するというのが共変微分なわけだ。
- 電磁気学の復習になった。(忘れっぽい人にはありがたい。)
- スピンの場である「スピノール場」の数式表現をはじめて知った。
- 遅延Green関数のフーリエ積分表示が複素積分表示になり、その解は複素平面上の「極」であらわされ、これが粒子的に見たクライン・コルドン場の伝播を意味していることに感動した。
- 反粒子も正のエネルギーを持っていることを知り「へぇ」と思った。
高橋先生は次のような姉妹書も書かれているので紹介しておこう。
「量子力学を学ぶための解析力学入門」
「量子場を学ぶための解析力学入門」
関連記事:
量子力学を学ぶための解析力学入門: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6518fc0926e35a657c148b9291ad7bf8
量子場を学ぶための場の解析力学入門: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e5ebbd29d17ffac8ce95d0ca8cc5e099
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「古典場から量子場への道:高橋康著」目次
第0章:これから「場」を学ぶ人への助言
第1章:近接作用の考え方
- Balance方程式と連続の方程式
- 連続物体中に働く力
(質量要素/長距離力/近距離力と応力/応力tensor/応力tensorの非対角項)
- 歪みの場
(変位の場/微小変位理論)
- 速度の場
(速度の場/物質のbalance/運動量のbalance)
- 速度場の性質
(流体の運動/渦なし運動、非圧縮運動/Vector potential)
第2章:場を決定する方程式
- 弾性体の方程式
(運動方程式/弾性体のenergy/等方性の弾性体/調和振動子)
- 流体の基本方程式
(連続体の角運動量/Navier-Stokesの方程式/音波)
- 電磁場の基本方程式
(Maxwellの方程式/時間によらない場/Faradayの法則/磁極間のCoulombの法則/変位電流/Lorentzの力/場のenergy/場の運動量/Vectorとscalar potential/Gauge変換)
- 電磁場と調和振動子
(完全直交関数系/不確定性/荷電粒子による電磁波の発射/調和振動子系のenergy/調和振動子系の運動量/空洞放射/場の量子化の問題)
第3章:物質場の波動方程式
- 電子の場
(電子場の方程式のたて方/自由度の問題/電子の粒子性/調和振動子/電子場のenergy/電子場の運動量)
- 電子場の性質
(Fermi-Dirac統計/電子場と電磁場の相互作用/電荷と電流/電子のspin/空間回転/Spinをもった電子場の電磁相互作用/全角運動量保存則/場の変換性とspin/まとめ)
- 相対論場の方程式
(Einstein-de Broglieの関係/Klein-Gordonの方程式/相対論的記号/Procaの方程式/Minimalな電磁相互作用/相対論的spinor/物理法則の共変性)
- Klein-Gordon場の伝播
(基本的な解/場の伝播/Green関数/Yang-Feldmanの式/場の伝播と粒子)
第4章:場の量子化
- 復習
- 調和振動子の代数学
(Heisenbergの運動方程式/2つの異なった解/まとめ)
- 電子場の量子化
(電子場/場の運動方程式/量子化された電子場と量子力学/量子化された電子場の物理的意味/電子の発生消滅/電子のspin/電子場のpropagator)
- Scalar場の量子化
(電磁場の量子化のむずかしさ/Klein-Gordonの場/場の運動量/発生消滅演算子/複素Klein-Gordon場/反粒子/Klein-Gordon場の伝播/相対論的因果律)
- 電磁場の量子化
(Coulomb gauge/Heisenbergの運動方程式/Hamiltonianと零点energy/光子状態/光子の運動量/消滅発生演算子/不確定性関係/Coherent状態)
第5章:場と物質
- 場の理論における物質像
(古典粒子/古典的場/量子力学的粒子/場の理論的粒子像/仮想粒子)
- 場の相互作用
(相互作用Hamiltonian/Feynman図形/相対論場の相互作用)
- Spinと統計および反粒子の問題
(Spinと統計/シュレディンガー方程式/相対論的場の場合)
- 場の量子論と量子力学との関係
(自由粒子の集まり/相互作用のある場合/場の理論の特徴)
- 固体中の素励起
(固体中の正孔/格子振動/秩序と素励起)
第6章:場の量子論sic et non
- 場の量子論の骨組み
(場の量子論の骨組み/場の量子論の性格)
- 場の量子論の成功
(定性的な成功/くりこみ理論)
- 場の量子論の困難
(発散の困難/異常項の問題/場の量子論の目的?/適用限界の問題/困難解決への試み/量子化の問題)
第7章:重力の場
- Newtonの重力理論から相対論的な重力理論への道
(Newtonの重力理論/記号の説明/Newtonの重力理論から相対論的な重力理論へ/Gauge変換/保存則/非相対論的な場合/より高次の項を含む理論へ)
- 一般相対性理論
(一般相対性理論の要約/厳密解の例/宇宙の時空構造/一般相対性理論の実験的な検証)
- 重力場の量子化に関するコメント
(自由重力場の量子化について/相互作用しているときの重力場g_uv(x)の量子化について/重力場の量子化に関する基本的な問題)
付録
参考書
あっという間ですね。
実は、私も読み始めたのですが、きっちり追わないと気がすまない性格とすぐに別のことをはじめたりなどで 数10ページ読んでほったらかし状態です。
見習わないといけないです。
通俗書(?)ですが 新潮選書の 光の場、電子の海(量子場理論の道)というタイトルの本が出ています。
それと最近知ったのですが物理エンジン(PhysX)なるものがあるそうですね。 工学者から PhysXプログラミングなる本が出ています。 買ってみたのですが、描画能力のあるPCでないと駄目なようで。
今月ほとんどブログの記事を投稿していないのはこの本に集中していたのが1つの理由です。(他にもいろいろ用事で忙しいこともありますが。)
僕は大雑把に読んでも気にならないので読み進めるのでしょう。(笑)わからないところはとりあえず放っておくわけでして。。。
紹介いただいた「光の場、電子の海(量子場理論の道)」のアマゾンでのレビューを読んでみましたが、よさそうな本ですね。今度書店で立ち読みしてみます。
物理エンジン(PhysX)はNVIDIA社のCUDAの世界、GPUコンピューティングの世界のことですね。僕もやってみたい分野ですがハードウェアを揃えるのにだいぶお金がかかるようで。。。物理系のプログラミングはとりあえず無料のLinuxで我慢しています。(笑)
同時期に購入したのに、私はまだ1~2章のあたりをうろうろしてます。
でも、読み始めてみると見かけよりもずっと分かりやすく、流れが見渡せるように思えます。
私が遅い理由の1つは、解析力学とか量子論の基本的なところが気になり始めて、行ったり戻ったりしているからです。本のせいではない。
物理エンジンも気になるものの1つですね。
気になるものばかり増えて、どれも一向に進まないのが歯がゆい。
> でも、読み始めてみると見かけよりも
> ずっと分かりやすく、流れが見渡せるように
> 思えます。
そうなのです。第3章までは読みやすいですよ。僕は第4章あたりから「急斜面を登る」ような感じになってきました。
僕も関連する分野の基本的なところが気になる場合がありますが、そういうときは「これはまた次に読む本で確認しよう。」と思うことにしてしまうわけです。(そうやって見逃してしまった大切な事柄も数多くあるのだろうと思いますが。)