とね日記

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量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士

2012年06月06日 00時56分18秒 | 物理学、数学
Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士

内容紹介:
私たちの身体は膜でできている!?大きな魅力と柔軟な応用性をもち、これまでの固定観念をくつがえすべく、物理学の新しい扉を開くDブレーン。すべての素粒子と力の相互作用を統一する究極理論の完成をめざし最先端で活躍する著者が活き活きと語る。


大栗先生の講座を受講したこともあって、先月から超弦理論の本を集中的に読んでいる。

本書が出版されたのは2006年10月のこと。すぐ購入して読み始めたのだが最初の2章で投げ出してしまっていた。当時の僕にとってはあまりに突拍子もないことばかり書かれていたので心理的に受け入れられなかったのだ。それまでに学んだ物理学と全く違う。まるで100年後の物理学のようでSFや妄想と区別できない。高次元空間にそんなものがあってたまるか!という感じだった。

それ以後、ニュートン力学、解析力学、熱力学・統計力学、電磁気学、相対性理論、量子力学を経て場の量子論の入口まで勉強が進み、素粒子物理学が抱えている問題もようやく理解できるようになってきて、超弦理論の重要性がようやくわかり始めてきた。

本書は読み物形式で200ページあまり。一般読者向けの啓蒙書よりも若干レベルが高く、数式もちらほら挿入されていて、学部3、4年から院生あたりを対象読者としている。

これまでに紹介してきた「はじめての〈超ひも理論〉:川合光」と「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」の超弦理論について説明している事柄を具体的に詳しく解説し、頭の中にしっかりイメージできるようにしてくれる本である。その上で「素粒子論のランドスケープ:大栗博司」を読めば理解はいっそう深まるに違いない。本書はこれらの3冊ととても相性がよいし、啓蒙書と専門書の間の橋渡しとなる数少ない1冊なのだ。


各章の内容は後述する目次でご覧いただくとわかると思う。前半の第4章までは超弦理論を構成する弦やDブレーン、そして高次元空間でそれらがどのような関係で存在しているか、素粒子物理学との関係についての説明だ。ここまでは太田先生や大栗先生の本ではほとんど取り上げられていない内容だ。前半のキーワードは「ソリトン」である。

後半の第5章から超弦理論の応用例が紹介される。太田先生や大栗先生の啓蒙書で取り上げられた事柄がより詳細に解説される。つまり「標準模型との関係」、「ブレーンワールド」、「インフレーション宇宙論」、「S双対性とT双対性」、「ブラックホールのエントロピー問題」、「重力理論、QCD(量子色力学)とホログラフィー理論」、「M理論」、「マトリックス理論」などについてである。


本書全体を通じ、僕の理解度は7~8割止まり。理解できない部分はおそらく内容そのものの本質が数式できちんと導出されないと伝わらないのだとも思える。本書で紹介されている数式の箇所は理解を助けるものの、手順を追って導出されたものではないから「はぁ、そういうふうに表されるのだな。」と鵜呑みにするしかない。

また、超弦理論の難しさは、その「多次元性」によるだけでなく「対称性」や「双対性」にもあると思う。2次元の「膜」として紹介されたDブレーンは、すぐD0~D9で表される高次元の「Dnブレーン」にもなると説明され、それにとどまらずそれらは実は「素粒子」や「ブラックホール」と同じなのだよと続く。

初めて読むと多次元物体として存在する「それ」が何であるのかわからなくなり、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。読み進むうちに「何でもあり」のような気分になってくるのだ。

それでも、本書は数多くの図版が掲載されているおかげで、説明の難しい箇所でもイメージしながらなんとか読み切ることができる。たとえ全部理解できなくても、一歩か二歩前進できるはずだ。超弦理論に興味をお持ちの方はぜひお読みいただきたい。

著者の橋本先生は、ネット上に次のようなPDF文書を公開されている。こちらも合わせてお読みになるとよいだろう。(このPDF文書は本書よりも少しレベルが高い。)

弦理論のDブレーン ― 超弦理論の描く新しい高次元物理学―
2009年度原子核三者若手夏の学校素粒子論パート講義A 講義録
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~sansha.wakate/particle/2009/SSS2009LecA.pdf


関連リンク:

超弦理論についての情報
http://www.h7.dion.ne.jp/~natsuume/japanese.html

SUPERSTRINGS!
http://www.sukidog.com/jpierre/strings/index.html

David Tong: Lectures on String Theory
http://www.damtp.cam.ac.uk/user/tong/string.html

Superstring Theory
http://universe-review.ca/R15-18-string.htm


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Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士


はじめに

第0章:素粒子、弦、そしてDブレーンへ

- 素粒子物理学の問題と弦理論
- Dブレーンとは?
- 本書の構成

第1章:ソリトンと素粒子物理学

- ソリトンとは?
-- 場の理論とソリトン
-- 素粒子物理学と場の理論
-- 素粒子とソリトンの違い

- 場の理論の対称性とソリトン
-- 対称性の破れとタキオン・真空凝縮
-- 自発的対称性の破れによるソリトンの出現
-- 渦:2次元空間のソリトン
-- 非可換ゲージ理論とモノポール:3次元空間のソリトン

- ソリトンの重要性:その観測と双対性
-- ソリトンを観測する:モノポールと大統一理論
-- 双対性とソリトン:場の理論の困難の解決に向けて

第2章:ソリトンの次元、弦理論の次元

- ソリトンの次元とブレーンワールド
-- ソリトンと次元
-- 宇宙ひも:3次元空間の渦ひも
-- ブレーンワールド
-- ソリトンの上に「住む」

- 弦理論における高次元時空の現れとコンパクト化
-- 弦理論の種類
-- 弦理論のスペクトル:われわれの世界の粒子と弦との関係
-- 時空のコンパクト化
-- コンパクト化と統一理論

第3章:Dブレーン

- 弦理論のソリトンはブラックホール
-- 電子と電磁場、弦とテンソル場
-- 弦理論の運動方程式
-- ブラックホール
-- 弦理論のソリトン=電荷を持ったブラックブレーン
-- 磁荷を持ったブラックブレーン

- Dブレーンの登場
-- Dブレーン:弦の端の乗る空間
-- ブラックブレーンとDブレーン
-- 弦理論のソリトンの意義:弦とDブレーンを入れ替える対称性

第4章:Dブレーンの力学

- 運動・合体するDブレーン
-- 運動するDブレーン
-- 合体するDブレーン

- Dブレーン上の非可換ゲージ理論とソリトン
-- 非可換ゲージ理論を生み出すDブレーン
-- モノポールを見る:Dブレーンによる新ソリトンの予言

- Dブレーンの消滅・生成とタキオン凝縮
-- Dブレーン・反ブレーンの対消滅
-- Dブレーンの生成
-- 交差するDブレーンの組み換え

第5章:ブレーンワールド:応用1

-- さまざまなDブレーンの応用
-- 「ブレーンワールド」:素粒子標準模型を超えて
-- 標準模型と階層性問題
-- ブレーンワールドとは
-- ブラックホールを実験でつくる
-- 曲がった余剰次元による階層性問題の解決
-- 弦理論とブレーンワールド

第6章:高次元インフレーション宇宙論:応用2

-- インフレーション宇宙論
-- Dブレーンの運動とインフレーション
-- インフレーションの終了とDブレーンの対消滅
-- この世界はなぜ4次元か?

第7章:ブラックホールのエントロピー:応用3

-- ブラックホールと量子力学
-- ブラックホールを表すDブレーンの配置
-- Dブレーンによるエントロピーの導出

第8章:ホログラフィーとQCD:応用4

-- QCDと弦理論
-- トフーフトのラージN極限:グルーオンから弦の世界膜へ
-- ゲージ/重力対応:非可換ゲージ理論と重力理論の等価性
-- 重力理論の有効性とラージN極限の出現
-- 重力を用いたクォーク間ポテンシャルの導出
-- ゲージ/重力対応における対称性の一致

第9章:究極理論の記述に向けて

-- 弦理論の定義?
-- Dブレーンとその次元
-- M理論:11次元時空の出現
-- マトリックス理論:D0ブレーンがつくるM理論
-- 弦理論のさらなる発展、そして究極理論の構築に向けて

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