とね日記

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トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著

2010年02月03日 22時56分04秒 | 物理学、数学
トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著

僕にとっては初めての数式入りのトポロジー(位相幾何学)入門書となった。著者は「多様体の基礎」を書かれた松本幸夫先生である。

読んでいくうちにどんどん惹き込まれていった。130ページほどの小型本ながらトポロジーの面白さ、奥深さを無駄のない展開で入門者に伝えることに成功している。

トポロジーの入門書にはメビウスの輪やクラインの壺を取り上げたものが多いが、この本はトポロジーの次元にまつわる不思議に焦点を当てている点のが特徴だ。コーヒーカップとドーナツの形がトポロジー的には同じだと聞いても「ああそうですね。」でしかない。それがどうして深遠な数学理論に発展していくのかがよくわかる本なのだ。

トポロジーは物や空間の「形」に共通な性質を研究する数学で、私たちがイメージできる3次元の物体だけでなく4次元以上の多次元物体の形もその研究対象に含まれる。次元が増えると何か面白いことがおこるのか?もちろんそうだからトポロジーは多くの数学者を熱中させているのである。

3次元空間だと簡単に絡まってしまう「ひも」は4次元以上の空間では絶対に絡まらない。どうしてそういうことが言えるのかがこの本を読めばよくわかるのだ。

大雑把に言えば大学2年までの数学や物理学で学ぶ多次元空間は、ただ次元の数が増えるだけ、法則や公式自体は一般的に拡張されるだけで、面白いには違いないが取り立てて不思議なことがあるわけではない。

ところがトポロジーの世界では1次元から無限次元まで数ある多次元の中で、3次元と4次元、7次元だけが特別不思議な性質を持った次元であることが解明されたのだ。3次元の特殊性を代表するのが「ポアンカレ予想」、4次元や7次元の特殊性が「エキゾチックな球面」なのである。

2次元の形としての円の周は1次元の球面、3次元の球の表面は2次元の球面であると見なすと、4次元以上の球にも球面というものを想像することができる。

常識的に考えるとどんな次元の球面であっても連続的につながっており、トポロジー的に伸び縮みさせると同じ形と見なされるはずだ。これを数学的には「同相である。」と言う。また球面全体に(正確には球面の各点の近傍に)座標を考えることにより、球面の点とすぐ隣の点の間に「微分」が成り立つこと、つまり球面が次元のどの方向にも滑らかに変化することが予想される。これを「微分同相である。」と言う。そして直観的には次元の数が何であっても微分同相な球面はそれぞれの次元に1種類ずつあると思われる。

ところが4次元と7次元だけは違うというのだ。これらの次元についてだけ微分同相な球面は何種類もあることが近年明らかになった。これを「エキゾチックな球面」と呼んでいる。次元の数というのは物や空間の性質にも影響を与えるのだという不思議な事実。トポロジーの大きな魅力のひとつである。

入門書とはいえ、そこそこ難しいので頭をフル回転して読むことになるだろう。高校生以上ならば理解できるはずだ。でもそれは第5章までの話。

第6章以降は近年発見された専門的な定理の解説ばかりなので、一般の読者に理解できるレベルをはるかに超えている。しかし、ほとんど理解できないながらもトポロジーが現代までどのように発展してきたかは十分わかるだろう。現代トポロジーのすごさ、奥深さは読者の好奇心を揺さぶり、もっと勉強してみたいという気にさせてくれるのだ。

初歩的なものは理解できても得られる感動は小さいが、難しいものほど挑戦意欲が沸くというものだ。

この世界が3次元空間ではなく多次元空間であることが近年明らかになってきている。また空間もその極限的に小さい部分に幾何学的な構造があることも明らかになってきた。そのことからも多次元のトポロジー(位相幾何学)は単なる数学理論ではなく、現実世界の最先端物理学と多次元の世界で密接に結びついているのだ。

今回の入門書はぜひ一読をお勧めする。

以下は同じ著者による本格的なトポロジーの本だ。大型本で250ページほど。最近復刊されたばかりなので、これまで欲しくても買えなかった方にとってはうれしい限りだろう。

4次元のトポロジー:松本幸夫著



今回紹介したのはこちらの本。

トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著


目次

まえがき

第1章:トポロジーと次元
- 1次元、2次元、3次元、etc.,...

第2章:偶数次元か、奇数次元か
- オイラー標数
- 単体とオイラー標数
- n次元球面 S^n

第3章:独立した空間
- 多様体とは
- 多様体と直積
- 多様体の代数的トポロジー

第4章:次元が4の倍数かどうか
- 曲面の向きと交わりの符号
- 交点数
- 偶数次元への拡張
- ベクトル場に関するホップの定理

第5章:高次元と低次元
- エキゾチック球面
- ヒルツェブルフの指数定理
- ミルナーの方法
- 4次元多様体の特異性

第6章:ベクトル束と特性類
- ベクトル束
- 特性類
- 特性数
- ヒルツェブルフの指数定理

第7章:その後の発展
- 3次元ポアンカレ予想

付録1:R^4上のエキゾチックな微分構造
- 高次元トポロジーと低次元多様体
- ドナルドソンの基本定理
- R^4上のエキゾチックな微分構造
- ヤン-ミルズ場の登場

付録2:断絶と連続 -- トポロジーにおける高次元と低次元
- 高次元と低次元
- まつわり数
- 4次元空間の不変量 R(K)
- ロホリンの定理
- キャッソン不変量
- 結論的に言うと


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