「ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版)
内容紹介:
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!
最新テーマまで驚くほどわかる!
暗黒なのに宇宙一明るい! いずれ地球も吸い込まれる? ジェットの超絶パワーの理由! ホーキング放射とは?
ゼロから最先端まで一気読み!
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。
超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!
まずざっくりと……次にくわしく
大須賀流の解説とシミュレーションでブラックホールが頭の中にできあがる!
2011年6月21日刊行、272ページ。
ブラックホールに関する本: Amazonで検索
著者について:
大須賀健(おおすが けん)
研究者紹介ページ: https://www2.ccs.tsukuba.ac.jp/people/ohsuga/index.html
1973年秋田県生まれ。北海道大学工学部卒業。筑波大学大学院物理学研究科修了。理学博士。日本学術振興会特別研究員(京都大学)、立教大学理学部助手、理化学研究所基礎科学特別研究員を経て現在、筑波大学 計算科学研究センター 教授、国立天文台理論研究部・天文シミュレーションプロジェクト助教。専門は理論およびコンピュータ・シミュレーションを駆使したブラックホール宇宙物理学、超巨大ブラックホール形成論。初の著書『ゼロからわかるブラックホール』講談社ブルーバックスで、第28回(平成24年)講談社科学出版賞を受賞。
理数系書籍のレビュー記事は本書で405冊目。
NHK BSプレミアム で放送された『「コズミックフロント☆NEXT」 史上初!ブラックホール直接観測』をみなさんはご覧になっただろうか?再放送は4月17日(水)午後11時45分からあるので、ぜひご覧になってほしい。
記者会見でEHTプロジェクト日本チームリーダーの本間先生が登壇されたのは、記者会見動画開始から4分30秒後だ。
史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4
「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹」を紹介したばかりだが「ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版)も読んでみた。本書は講談社ブルーバックスで、第28回(平成24年)講談社科学出版賞を受賞している。
著者の大須賀先生は先日の史上初のブラックホール画像公開のタイミングでAbemaTVに出演され、解説を行っている。無料なのでぜひご覧いただきたい。
人類史上初!これがブラックホールの姿だ ”穴”の大きさは米粒ほど? (19/04/10)
https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p1021
また4月14日(日)早朝(つまり明日だ)には日本テレビの「シューイチ」という番組に出演される。僕が急いで紹介記事を書いたのはこの放送に間に合わせるためだ。
本間先生が観測天文学者であるのに対し、大須賀先生は理論天文学者である。降着円盤の構造や運動について本間先生の本では省略されているので、大須先生の本をお勧めになっている。第3章までは理論面、観測面で一般相対性理論やシュヴァルツシルト解、チャンドラセカールの白色矮星から中性子星、クェーサーの発見などブラックホール史が解説される。ブラックホール周囲の降着円盤やジェットに関して詳しく知りたい方は、こちらもお読みになるとよい。本間先生の本と重複するところがあるだろうが、第6章以降は大須先生のご専門の領域の話として新鮮に楽しめると思う。なお大須先生の本のKindle版は固定レイアウトである。刊行されたのは2011年、「連星ブラックホールの合体による重力波が初観測」が発表された2016年より前であることにご注意いただきたい。
第1章 ニュートン力学のブラックホール
第2章 一般相対論のブラックホール
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
第4章 超巨大ブラックホールの発見
第5章 超巨大ブラックホールの謎
第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
第7章 ガス円盤2 磁場の役割
第8章 ブラックホール・ジェット
第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
第10章 ブラックホールを見る
ブラックホール本は初めてという方には第1章からお楽しみいただける。本間先生の本をすでにお読みの方には、第3章までは重複している。第4章「超巨大ブラックホールの発見」も本間先生の本と重複しているが、話の展開のしかたが違うので新鮮な気持ちでお楽しみいただけるだろう。
第5章「超巨大ブラックホールの謎」は同じ意味の章が本間先生の本にもあるが、それほど重複は見られない。つまり超巨大ブラックホールは謎だらけなのだ。そしてこの章の中には「2つのブラックホールが合体するようなことはあるのだろうか?」という疑問が投げかけられているが、本書執筆時にはこの事象が実際に観測された2016年に発表された「重力波の直接観測に成功!」より前だったことを考えるともっともな話である。しかし2つのブラックホールがなぜ合体するのか、どれくらいの頻度でおこるのかはまだわかっていない。
本書の醍醐味は第6章から第8章で解説されるブラックホール周辺のガス円盤(降着円盤)とブラックホール・ジェットの構造やその物理的な振る舞いについてだ。これらの形成過程はまだわかっていないことが多いのだが、スパコンを使ったコンピュータ・シミュレーションを行なって、その姿をダイナミックな再現CGとして紹介している。白黒画像ではあるもののこれを見て解説を読むだけでも本書を読む価値はある。コンピュータ・シミュレーションにはもちろん一般相対性理論、アインシュタイン方程式が使われている。
アインシュタイン方程式(重力場の方程式): 解説動画
ガス円盤はその物理的条件により3種類存在すると予想され、ブラックホール周囲の磁場により影響を受けて複雑な回転運動をする。ブラックホール・ジェットは磁気圧駆動型のものと放射圧駆動型のもの、そしてそれらが合成されたハイブリッド型のものが予想され、それぞれCGとして再現されている。
第9章の「ホーキング放射とブラックホールの蒸発」も読む価値がある。ホーキング博士がお書きになった本よりも、各物理量(温度、面積、質量、エントロピー)の間の関係式が解説とともにたくさん紹介されている。
第10章の「ブラックホールを見る」だが、2011年刊行の本だけにさすがに「EHTプロジェクト」には触れられていない。そのかわりに電波干渉計でブラックホールの影を見れる可能性があること、X線望遠鏡によるブラックホール近傍の観測、赤外線望遠鏡でブラックホールの成長過程を見れる可能性があること、重力波検出器でブラックホール誕生時の姿を観測できる可能性があることなどが述べられている。
つまり第6章以降は本間先生の「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る」とまったく被っていないので、安心してお買い求めいただきたい。理論物理学者がお書きになるブラックホール本と大須賀先生のような理論天文学者がお書きになるブラックホール本は、また違うものだなというのが印象に残った。
人類が初めて目にしたブラックホールの姿
大須賀先生は本書を刊行後、2017年に次の本をお書きになっている。合わせてお読みいただきたい。Kindle版は格安である。
「ブラックホールをのぞいてみたら: 大須賀健」(Kindle版)
内容紹介:
本当にあるの? 吸い込まれたらどうなる? 不思議に満ちた天体を大解剖!
光さえも吸い込み、真に黒いブラックホール。そもそもなぜできるの? 宇宙を吸い込みつくしたら? この不思議な天体を多くのイラストを使いながらやさしく紹介。しかも数式はゼロ! 宇宙の魅力に酔いしれよう。
猛烈な勢いであらゆるものを吸い込みつづけるブラックホール。一度のみ込まれたら、抜け出すことは決してできないというSFのような天体はアインシュタインによって予言され、2015年、重力波の検出で存在が証明されました。でも、そもそも、なんで、どうやって吸い込んでいるの?吸い込むものがなくなったときの宇宙の姿は?やさしい文章とたくさんのイラストで不思議な天体の魅力とメカニズムを紹介。
2017年7月28日刊行、256ページ。
第1章 ブラックホールってなんだろう
ブラックホールに地面はない
ブラックホールが黒いわけ
ブラックホールの黒は本当の黒
事象の地平面は一方通行
事象の地平面の外も危険
特異点の謎
ブラックホールの作り方
まとめ
事象の地平面をもっと理解しよう
ブラックホールで時間が止まる
宇宙船が事象の地平面で止まる?
ブラックホールとタイムマシン
第2章 アインシュタインは何をしたの?
アインシュタインの功績
一般相対性理論の予言する空間のゆがみ
空間のゆがみと重力の関係
正しいのはどっち?
一般相対性理論とブラックホール
色のズレと時間の遅れ
重力波ってなに?
アインシュタインの間違い
第3章 ブラックホールは本当にあるの?
ブラックホールは山ほど見つかっている!
ブラックホールの予言
チャンドラセカールの大活躍
理論物理学がブラックホールを認める
ブラックホールの発見
今世紀のブラックホール天文学
第4章 光り輝くブラックホール?
ブラックホールを取り巻くガス円盤
ガスに吸い込まれるには摩擦が必要
ガス円盤が輝く秘密
ガス円盤はどれほど明るいのか?
ブラックホールはいつでも明るいわけではない
謎の天体クェーサー
クェーサーの正体
ブラックホールを見る
第5章 大質量ブラックホールはどうやってきたの?
大質量ブラックホールの急速成長問題
エディントン限界
エディントン限界とブラックホールの成長の関係
エディントン限界を突破して
ブラックホールの合体と超大質量星の崩壊
大質量ブラックホールと銀河の美しすぎる関係
ブラックホールによる星形成への影響
ブラックホール ジェット
大質量ブラックホールの謎に挑む
第6章 宇宙の未来はブラックホールだらけ?
ブラックホールだらけの宇宙
ホーキング放射とブラックホールの消滅
宇宙の死
関連記事:
史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4
巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370
ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04
ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22
ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab
ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106
ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315
一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c928268aab686a527be93385b45402c2
一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50d12fda1c0e59132d6f5f2e73d9e302
ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f
神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881
映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58
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「ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版)
はじめに
第1章 ニュートン力学のブラックホール
- 脱出速度から考えるブラックホール
- 地球をブラックホールにするには?
- サイズを決めるシュヴァルツシルト半径
- 現実のブラックホールのサイズ
- この章のまとめ
第2章 一般相対論のブラックホール
- ミッチェルとラプラスの方法の問題点
- ニュートン重力と一般相対論の違い
- ニュートン重力の弱点
- 光は曲がるか?
- 一般相対論の完全勝利
- 一般相対論が予言するブラックホール
- 重力赤方変位と時間の遅れ
- この章のまとめ
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
- ガスの圧力で支えられる恒星
- 電子の縮退圧で支えられる白色矮星
- 恒星の最期は白色矮星
- チャンドラセカールとエディントンの師弟対決
- ホイーラーとオッペンハイマーの論争
- ブラックホール候補天体の発見
- 光り輝くガス円盤
- ガス円盤は宇宙最高性能のエネルギー変換施設
- この章のまとめ
第4章 超巨大ブラックホールの発見
- 謎の電波源
- 電波銀河とクェーサー
- 世紀の大発見「クェーサーの正体は超巨大ブラックホール」
- 超巨大ブラックホールと活動銀河中心核
- この章のまとめ
第5章 超巨大ブラックホールの謎
- 超巨大ブラックホール形成のタイムリミット
- 超巨大ブラックホール形成仮説
- 光の力がガスの吸い込みを妨げる?
- エディントン限界とブラックホールの成長
- エディントン限界を超えて
- ブラックホールの急速成長
- 超巨大ブラックホールと銀河の共進化問題
- この章のまとめ
第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
- ガス円盤理論の鍵:標準円盤
- 暗くても高エネルギー放射:ライアフ
- エディントン限界を超えた円盤:スリム円盤
- コンピュータ・シミュレーションで再現した3種のガス円盤
- この章のまとめ
第7章 ガス円盤2 磁場の役割
- ガスを吸い込むのは簡単か?
- 磁力線に引っかかってガスが落下
- 乱雑な磁場の形成メカニズムその1:垂直成分から水平成分へ
- 乱雑な磁場の形成メカニズムその2:水平成分から垂直成分へ
- この章のまとめ
第8章 ブラックホール・ジェット
- すさまじいジェットのパワー
- 磁気圧駆動型ジェットの加速メカニズム
- 磁気圧駆動型ジェットの収束メカニズム
- 磁気圧駆動型ジェットを生み出す円盤
- 放射圧駆動型ジェットの加速メカニズム
- ハイブリッド・ジェットの発見
- 銀河系最強のジェット
- まだ残されている謎
- クェーサーの円盤風
- この章のまとめ
第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
- ホーキング放射の大まかな説明
- ホーキング放射とブラックホール質量の関係
- ブラックホールが蒸発するまでの時間
- ミニブラックホールの蒸発
- この章のまとめ
第10章 ブラックホールを見る
- ブラックホールはどう見えるか
- 電波干渉計でブラックホールの影を見る
- X線望遠鏡でブラックホールの近傍を見る
- 重力波検出器でブラックホール誕生の瞬間を見る
- この章のまとめ
あとがき
内容紹介:
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!
最新テーマまで驚くほどわかる!
暗黒なのに宇宙一明るい! いずれ地球も吸い込まれる? ジェットの超絶パワーの理由! ホーキング放射とは?
ゼロから最先端まで一気読み!
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。
超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!
まずざっくりと……次にくわしく
大須賀流の解説とシミュレーションでブラックホールが頭の中にできあがる!
2011年6月21日刊行、272ページ。
ブラックホールに関する本: Amazonで検索
著者について:
大須賀健(おおすが けん)
研究者紹介ページ: https://www2.ccs.tsukuba.ac.jp/people/ohsuga/index.html
1973年秋田県生まれ。北海道大学工学部卒業。筑波大学大学院物理学研究科修了。理学博士。日本学術振興会特別研究員(京都大学)、立教大学理学部助手、理化学研究所基礎科学特別研究員を経て現在、筑波大学 計算科学研究センター 教授、国立天文台理論研究部・天文シミュレーションプロジェクト助教。専門は理論およびコンピュータ・シミュレーションを駆使したブラックホール宇宙物理学、超巨大ブラックホール形成論。初の著書『ゼロからわかるブラックホール』講談社ブルーバックスで、第28回(平成24年)講談社科学出版賞を受賞。
理数系書籍のレビュー記事は本書で405冊目。
NHK BSプレミアム で放送された『「コズミックフロント☆NEXT」 史上初!ブラックホール直接観測』をみなさんはご覧になっただろうか?再放送は4月17日(水)午後11時45分からあるので、ぜひご覧になってほしい。
記者会見でEHTプロジェクト日本チームリーダーの本間先生が登壇されたのは、記者会見動画開始から4分30秒後だ。
史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4
「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹」を紹介したばかりだが「ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版)も読んでみた。本書は講談社ブルーバックスで、第28回(平成24年)講談社科学出版賞を受賞している。
著者の大須賀先生は先日の史上初のブラックホール画像公開のタイミングでAbemaTVに出演され、解説を行っている。無料なのでぜひご覧いただきたい。
人類史上初!これがブラックホールの姿だ ”穴”の大きさは米粒ほど? (19/04/10)
https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p1021
また4月14日(日)早朝(つまり明日だ)には日本テレビの「シューイチ」という番組に出演される。僕が急いで紹介記事を書いたのはこの放送に間に合わせるためだ。
本間先生が観測天文学者であるのに対し、大須賀先生は理論天文学者である。降着円盤の構造や運動について本間先生の本では省略されているので、大須先生の本をお勧めになっている。第3章までは理論面、観測面で一般相対性理論やシュヴァルツシルト解、チャンドラセカールの白色矮星から中性子星、クェーサーの発見などブラックホール史が解説される。ブラックホール周囲の降着円盤やジェットに関して詳しく知りたい方は、こちらもお読みになるとよい。本間先生の本と重複するところがあるだろうが、第6章以降は大須先生のご専門の領域の話として新鮮に楽しめると思う。なお大須先生の本のKindle版は固定レイアウトである。刊行されたのは2011年、「連星ブラックホールの合体による重力波が初観測」が発表された2016年より前であることにご注意いただきたい。
第1章 ニュートン力学のブラックホール
第2章 一般相対論のブラックホール
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
第4章 超巨大ブラックホールの発見
第5章 超巨大ブラックホールの謎
第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
第7章 ガス円盤2 磁場の役割
第8章 ブラックホール・ジェット
第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
第10章 ブラックホールを見る
ブラックホール本は初めてという方には第1章からお楽しみいただける。本間先生の本をすでにお読みの方には、第3章までは重複している。第4章「超巨大ブラックホールの発見」も本間先生の本と重複しているが、話の展開のしかたが違うので新鮮な気持ちでお楽しみいただけるだろう。
第5章「超巨大ブラックホールの謎」は同じ意味の章が本間先生の本にもあるが、それほど重複は見られない。つまり超巨大ブラックホールは謎だらけなのだ。そしてこの章の中には「2つのブラックホールが合体するようなことはあるのだろうか?」という疑問が投げかけられているが、本書執筆時にはこの事象が実際に観測された2016年に発表された「重力波の直接観測に成功!」より前だったことを考えるともっともな話である。しかし2つのブラックホールがなぜ合体するのか、どれくらいの頻度でおこるのかはまだわかっていない。
本書の醍醐味は第6章から第8章で解説されるブラックホール周辺のガス円盤(降着円盤)とブラックホール・ジェットの構造やその物理的な振る舞いについてだ。これらの形成過程はまだわかっていないことが多いのだが、スパコンを使ったコンピュータ・シミュレーションを行なって、その姿をダイナミックな再現CGとして紹介している。白黒画像ではあるもののこれを見て解説を読むだけでも本書を読む価値はある。コンピュータ・シミュレーションにはもちろん一般相対性理論、アインシュタイン方程式が使われている。
アインシュタイン方程式(重力場の方程式): 解説動画
ガス円盤はその物理的条件により3種類存在すると予想され、ブラックホール周囲の磁場により影響を受けて複雑な回転運動をする。ブラックホール・ジェットは磁気圧駆動型のものと放射圧駆動型のもの、そしてそれらが合成されたハイブリッド型のものが予想され、それぞれCGとして再現されている。
第9章の「ホーキング放射とブラックホールの蒸発」も読む価値がある。ホーキング博士がお書きになった本よりも、各物理量(温度、面積、質量、エントロピー)の間の関係式が解説とともにたくさん紹介されている。
第10章の「ブラックホールを見る」だが、2011年刊行の本だけにさすがに「EHTプロジェクト」には触れられていない。そのかわりに電波干渉計でブラックホールの影を見れる可能性があること、X線望遠鏡によるブラックホール近傍の観測、赤外線望遠鏡でブラックホールの成長過程を見れる可能性があること、重力波検出器でブラックホール誕生時の姿を観測できる可能性があることなどが述べられている。
つまり第6章以降は本間先生の「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る」とまったく被っていないので、安心してお買い求めいただきたい。理論物理学者がお書きになるブラックホール本と大須賀先生のような理論天文学者がお書きになるブラックホール本は、また違うものだなというのが印象に残った。
人類が初めて目にしたブラックホールの姿
大須賀先生は本書を刊行後、2017年に次の本をお書きになっている。合わせてお読みいただきたい。Kindle版は格安である。
「ブラックホールをのぞいてみたら: 大須賀健」(Kindle版)
内容紹介:
本当にあるの? 吸い込まれたらどうなる? 不思議に満ちた天体を大解剖!
光さえも吸い込み、真に黒いブラックホール。そもそもなぜできるの? 宇宙を吸い込みつくしたら? この不思議な天体を多くのイラストを使いながらやさしく紹介。しかも数式はゼロ! 宇宙の魅力に酔いしれよう。
猛烈な勢いであらゆるものを吸い込みつづけるブラックホール。一度のみ込まれたら、抜け出すことは決してできないというSFのような天体はアインシュタインによって予言され、2015年、重力波の検出で存在が証明されました。でも、そもそも、なんで、どうやって吸い込んでいるの?吸い込むものがなくなったときの宇宙の姿は?やさしい文章とたくさんのイラストで不思議な天体の魅力とメカニズムを紹介。
2017年7月28日刊行、256ページ。
第1章 ブラックホールってなんだろう
ブラックホールに地面はない
ブラックホールが黒いわけ
ブラックホールの黒は本当の黒
事象の地平面は一方通行
事象の地平面の外も危険
特異点の謎
ブラックホールの作り方
まとめ
事象の地平面をもっと理解しよう
ブラックホールで時間が止まる
宇宙船が事象の地平面で止まる?
ブラックホールとタイムマシン
第2章 アインシュタインは何をしたの?
アインシュタインの功績
一般相対性理論の予言する空間のゆがみ
空間のゆがみと重力の関係
正しいのはどっち?
一般相対性理論とブラックホール
色のズレと時間の遅れ
重力波ってなに?
アインシュタインの間違い
第3章 ブラックホールは本当にあるの?
ブラックホールは山ほど見つかっている!
ブラックホールの予言
チャンドラセカールの大活躍
理論物理学がブラックホールを認める
ブラックホールの発見
今世紀のブラックホール天文学
第4章 光り輝くブラックホール?
ブラックホールを取り巻くガス円盤
ガスに吸い込まれるには摩擦が必要
ガス円盤が輝く秘密
ガス円盤はどれほど明るいのか?
ブラックホールはいつでも明るいわけではない
謎の天体クェーサー
クェーサーの正体
ブラックホールを見る
第5章 大質量ブラックホールはどうやってきたの?
大質量ブラックホールの急速成長問題
エディントン限界
エディントン限界とブラックホールの成長の関係
エディントン限界を突破して
ブラックホールの合体と超大質量星の崩壊
大質量ブラックホールと銀河の美しすぎる関係
ブラックホールによる星形成への影響
ブラックホール ジェット
大質量ブラックホールの謎に挑む
第6章 宇宙の未来はブラックホールだらけ?
ブラックホールだらけの宇宙
ホーキング放射とブラックホールの消滅
宇宙の死
関連記事:
史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4
巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370
ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04
ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22
ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab
ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106
ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315
一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c928268aab686a527be93385b45402c2
一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50d12fda1c0e59132d6f5f2e73d9e302
ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f
神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881
映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58
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「ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版)
はじめに
第1章 ニュートン力学のブラックホール
- 脱出速度から考えるブラックホール
- 地球をブラックホールにするには?
- サイズを決めるシュヴァルツシルト半径
- 現実のブラックホールのサイズ
- この章のまとめ
第2章 一般相対論のブラックホール
- ミッチェルとラプラスの方法の問題点
- ニュートン重力と一般相対論の違い
- ニュートン重力の弱点
- 光は曲がるか?
- 一般相対論の完全勝利
- 一般相対論が予言するブラックホール
- 重力赤方変位と時間の遅れ
- この章のまとめ
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
- ガスの圧力で支えられる恒星
- 電子の縮退圧で支えられる白色矮星
- 恒星の最期は白色矮星
- チャンドラセカールとエディントンの師弟対決
- ホイーラーとオッペンハイマーの論争
- ブラックホール候補天体の発見
- 光り輝くガス円盤
- ガス円盤は宇宙最高性能のエネルギー変換施設
- この章のまとめ
第4章 超巨大ブラックホールの発見
- 謎の電波源
- 電波銀河とクェーサー
- 世紀の大発見「クェーサーの正体は超巨大ブラックホール」
- 超巨大ブラックホールと活動銀河中心核
- この章のまとめ
第5章 超巨大ブラックホールの謎
- 超巨大ブラックホール形成のタイムリミット
- 超巨大ブラックホール形成仮説
- 光の力がガスの吸い込みを妨げる?
- エディントン限界とブラックホールの成長
- エディントン限界を超えて
- ブラックホールの急速成長
- 超巨大ブラックホールと銀河の共進化問題
- この章のまとめ
第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
- ガス円盤理論の鍵:標準円盤
- 暗くても高エネルギー放射:ライアフ
- エディントン限界を超えた円盤:スリム円盤
- コンピュータ・シミュレーションで再現した3種のガス円盤
- この章のまとめ
第7章 ガス円盤2 磁場の役割
- ガスを吸い込むのは簡単か?
- 磁力線に引っかかってガスが落下
- 乱雑な磁場の形成メカニズムその1:垂直成分から水平成分へ
- 乱雑な磁場の形成メカニズムその2:水平成分から垂直成分へ
- この章のまとめ
第8章 ブラックホール・ジェット
- すさまじいジェットのパワー
- 磁気圧駆動型ジェットの加速メカニズム
- 磁気圧駆動型ジェットの収束メカニズム
- 磁気圧駆動型ジェットを生み出す円盤
- 放射圧駆動型ジェットの加速メカニズム
- ハイブリッド・ジェットの発見
- 銀河系最強のジェット
- まだ残されている謎
- クェーサーの円盤風
- この章のまとめ
第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
- ホーキング放射の大まかな説明
- ホーキング放射とブラックホール質量の関係
- ブラックホールが蒸発するまでの時間
- ミニブラックホールの蒸発
- この章のまとめ
第10章 ブラックホールを見る
- ブラックホールはどう見えるか
- 電波干渉計でブラックホールの影を見る
- X線望遠鏡でブラックホールの近傍を見る
- 重力波検出器でブラックホール誕生の瞬間を見る
- この章のまとめ
あとがき