NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

仮想の狭間(12)

2010-04-13 11:18:25 | 仮想の狭間
 夏の花から秋の花へと移り変わる9月、真理は花壇の手入れに余念がない。
昨日 園芸店へ花の苗を買いに行った。
夫も付いてきて、あれこれと選んでいる真理の横で、
「適当にしておけ。」だの
「早くしろ。」だのと煩く口を出すのでしっかり選べなかった。
案の定 苗が足りなかったり、配色が上手くいかない。
不満だらけの植え替えを終えて、リビングでお茶を飲みながらパソコンを開いた。
コミュサイトの友達の一人であるYが毎日メールを送ってくる。
彼の年齢ははっきりは分からないが、真理より少し上の定年を迎えたばかりのようだ。
お互いに その日にあった取り留めのない出来事を書いてメールを交換している。
毎日これといった変化のない生活の中で、Yとのメールの交換に真理は新鮮さを感じ、刺激を受けている。
朝パソコンを開いて、彼からのメールが入っていると嬉しさが込み上げてくる。
不思議な感情だと思う。
別に彼に恋をしているのでもなく、彼を好きになったわけでもない。
しかし彼からのメールがない時には、寂しくて何度もメールボックスを開いて見ている。
夫を嫌っているわけでもないが、ただあまり干渉されたくないと思う。
定年になって家にいることの多くなった夫は意識的ではないかもしれないが、妻の行動を監視しているように真理には思える。
何かにつけて口を出してくる夫と少しでも離れて、自由な時間を持ちたいと願うのであった。
そんな心の自由を許してくれるところ、それをコミュニティサイトに求めていた。
 今朝、Yが自分が入っている写真のサークルに入ってみないかと誘ってきた。
彼のフォトアルバムには何時も美しい自然の景色や街並みの写真が載せられている。
このサークルに参加して撮ってきたものであろう。
真理は奈良県に住んでいるが、Yは京都府だという。
サークルに入ると、撮影会に参加してYに会うことになる。
秋絵のように、いそいそと詳しくも知らない男に会いに行くほど気乗りはしない。
しかし彼が実際どんな人間なのか見てみたい気もする。
写真のサークルなので、二人きりではなく、何人かの仲間で行動するようなので安心ではあるが、問題はカメラである。
写真のマニアのサークルなら、皆それなりの立派なカメラを持っていると想像されるが、真理は小さなデジカメしか持っていない。
Yにそれを言うと、
「カメラなどはどうでもよい。写す人の心だ。」
と答える。
これは真理を誘う口実であることは明確だ。
見え透いた言葉でも信じた振りをして、とにかくそのサークルに入ることにした。
9月の撮影会はびわ湖の西だという。
少し遠いが思い切って参加することにした。
久し振りに子供の頃に返ったような遠足気分になり、服装や弁当などあれこれと今から考えてウキウキしている真理であった。
しかし参加するに当たって、夫にどのように話を切り出そうかと悩んだ。
まさか夫に秘密にしているメル友の誘いだともいえず、高校の同級生K子がびわ湖に遊びに行こうと誘ってくれるので、行ってくると嘘をつくことにした。


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