記憶をなくした私 ~側頭葉てんかんを経て~

仕事で、家庭で、忙しくストレスをかかえていたある日、家に帰る駅も道も、わからなくなってしまいました。あれから10数年。

私が忘れたこと その2~旅したこと

2011年12月29日 | 病気のこと
私が忘れたことで、もったいないなぁと思うのは、あちこち旅したことを、ちっとも覚えていないこと。
旅行好きで、国内も海外も、本当にいろいろなところに行ったのに、行ったことも、行った場所も、覚えていない。蘇ってこない。

病からだいぶ回復して記憶も残るようになった頃、新聞や雑誌の名所紹介記事を見て、夫に「行きたいなぁ」と言ったら、「行ったことあるよ、覚えてない?」と言われれた。ここも、そこも、あそこも。
それからは、「ここ、私行ったことある?」と聞くようになった。たいてい、あるよ、と言われた。
独身の頃から旅好きであちこち行ってた。それは覚えてる。旅先で夫と出会ったこともちゃんと覚えてる。でも、そのあとを覚えていない。

旅先であったエピソードのことは、断片的に覚えていることがある。でも、それと、旅したことを覚えているということとは、ちょっと違うんだ。

旧友に話したら、「もったいない」と言われた。そのとおり。行って、見て、経験した、たくさんのことを何も覚えていないなんて、本当にもったいないと思う。
もう一度、行きなおせばいいじゃないか? 新たに思い出を作っていけばいいじゃないか? 
でも、過去の私が見て、体験して、感じたことは、未来の私は感じることはできない。
それは、別の私だから。

そう。私は病気を境に生まれ変わったのだ。違う私になった気がする。
でも、過去の私を中途半端にひきずっていて、それが今の私を生きづらくさせている。
そんなふうに感じている。


最近、昔馴染みの北海道の宿に泊まりに行ってきた。数年前にも行ったらしいのだけど、それは全然覚えていなくて、もうずっと長らく行ってない気がして、行きたくなったんだ。
その宿に初めて泊まったのは結婚前かと思っていたけれど、夫がアルバムの日付を確認したら、結婚してすぐの頃だったって。てことは、結婚後のこともちょっとは覚えてるんだな。
宿に着いてから、夫が「初めて来たのはちょうど20年前、20周年だから来たかった」と宿のオーナーに話していた。20年前のオーナーと、その時食べた料理の写真も添えて。オーナー、若かったな!



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私が忘れたこと その1~子どものこと

2011年12月15日 | 病気のこと
何を忘れたかって、一番大きなものは、子どものことを忘れてしまったこと。

夫のことは、覚えていた。出会って、結婚したところまでは、覚えている。
でも、その後、子供を生んだ記憶がない。育てた記憶もない。4人も生み育てたのに、1人も覚えていない。顔は知ってる。同じ屋根の下に住んでいるから。でも、ある日突然私の子になってしまったような感じ。いや、違うかな。よくわからないけどいつの間にか私の子として同居してる、という感じか。

夫は、「でも、全部忘れたわけじゃないよ。○○(子ども)が○○したこととか、覚えてるでしょ?」と言う。確かに、言われたそのことは覚えていた。というより"知っていた"というのか。他にもエピソード記憶で、覚えていることはあると思う。話の中で、ぽろっと蘇る。でも、それが本当に体験としての記憶なのか、過去に、繰り返し繰り返し話題にのぼっていたり、写真で見たことによる後付けの記憶なのか、わからない。ま、そんなことは、正常な人でもわからないことかもしれないけれど。
それと、記憶だと思っている、そのことが事実なのかどうか、わからないこともある。私の中の過去の記憶は、混迷しているから。

ただ、過去のことを部分的に、断片的に覚えていたとしても、あの子どもたちのことは、記憶の中にない。私が生んで、今まで育ててきたんたという実感は出てこない。我が子としての愛情が持てない。末っ子が甘えてくるのは鬱陶しいし、上の子達が生意気だったりすると腹が立つ。
腹が立つと、「私の」家に住まわしてやって、養ってやってるのに生意気言うんじゃない!と思う。

夫に、昔は私が子ども達のことを怒っていても、根底に愛情があったと思うけど、今は感じられない気がすると言われた。それも、自分の子としての気持ちがないからなんだろうな。
子どもは嫌いだと言っていたという独身時代の私に戻っているのだろうと思う。

独身時代と言えば、自分の名前を書くとき、無意識に旧姓を書いてしまったことがあった。しばらく前と、最近と。もう、20年以上も今の名前を使ってきたのに。そういう面でも、私の中で、結婚後の、家族との歴史が消えてしまっていると言えるのだろう。

忘れてしまったことでも、言われて思い出したり、後からふっと思い出したりすることも多いのだけれど、子どものことは、病から回復して1年近くたつのに蘇ってこない。

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