びぼーろぐ

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東電OL殺人事件

2012-08-22 | レビュー
東電OL殺人事件 佐野 眞一  新潮文庫

ノンフィクション
1997年、渋谷区円山町のアパートの一室で、東京電力女性社員が何者かによって絞殺された。被害者の女性が、昼間は東電の女性管理職社員でありながら、夜は娼婦であったことから、ワイドショー的に注目を浴びた。その事件を追う。
 原発事故以来、何かと注目される東京電力の裏側や話題の人物が登場することから、再度脚光を浴びている本だ。同時に、当時容疑者として逮捕されたネパール人のマイナリ氏が、つい最近15年ぶりに冤罪が認められ、釈放されたことでも話題になった。いずれにしてもホットな話題満載である。
 渋谷区円山町からネパールの山奥まで、まさに体を張った著者の取材には説得力がある。著者の執念とも言うべき取材活動に比べて、警察・検察・裁判所のお粗末なこと。人権も守られない、公正な判断もない。うっかり捕まったら、終わりだ、これは、と思った。
 土地の歴史・近現代史として読んでも興味をそそられる。そして何よりも気になるのは、依然謎のままの被害者女性の心の闇。著者は取材と同時に、戦後及び狂乱の時代に光を当てることで、想像するに足るファクターを与えてくれている。

私家版・ユダヤ文化論

2012-08-22 | レビュー
私家版・ユダヤ文化論 内田 樹 文藝春秋

今、日本でもっとも信頼のおける思想家と言われる著者。「下流志向」「14歳の子を持つ親たちへ」(名越康文氏と共著)他
ユダヤ人はなぜ知性的なのか、なぜ迫害されるのか。サルトル・レヴィナスらの思想を追いながら考証する。

以下、抜粋

 ユダヤ人差別には現実的な根拠が無い。あるのは幻想的根拠であり、その根拠が存在する限り差別は無くならない。
ここでいう幻想的根拠とは「ユダヤ人がイノベーティヴな集団であり、イノベーティヴな知的思考傾向を伝統的に持つ民族である」と非ユダヤ人からは見えてしまう、いうこと。(イノベーティヴとは、懐疑し、改める知的努力)
 たとえば19世紀、革命後の動乱期のフランスあるいはドイツには、近代化の不安があらゆる階層に渦巻いており、近代化の象徴ともいえる職業を持つユダヤ人をスケープゴートにすることで、溜飲を下げる反ユダヤ主義が起こった。この反ユダヤ主義はファシズムの台頭に少なからず影響を及ぼした。

誰かをスケープゴートにする構図。ナショナリズムな世論。ファシズムに向かう流れが、今日も繰り返される。

非ユダヤ人的人間とユダヤ人的人間の違い
「私はこれまでずっとここにいたし、これからもここいる生得的な権利を有している」と考える人間と
「私はここに遅れてやってきたので<この場所に受け入れられる者>であることをその行動を通じて証明して見せなければいけない」と考える人間の、アイデンティティの成り立たせ方の違い。

どう考えてもユダヤ人的思考の方が実存主義的だし、現代的だ。結局どちらも普遍的な、人間の矛盾する両面ということか。