びぼーろぐ

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グロテスク

2012-10-10 | レビュー
グロテスク 上・下  桐野夏生 初出2001年

「東電OL殺人事件」で、誰も真相を知りえなかった被害者女性の心の闇。著者は、実にまことしやかな状況を設定して複眼的にグロテスクなるものを描き出す。
 事件そのものは今から15年前の1997年。1958年生まれの主人公が高校生になったのが1973年頃と思われる。女子高の中でのやり取りは克明で、まるで古さを感じさせない。エリートを排出することで有名なQ大学付属女子高校。そこはまさしく、社会の縮図、美醜・貧富・学力のヒエラルキーに支配された世界である。
 主人公が企業に就職するのが「男女雇用均等法」前夜の1980年。まだまだ世の中が悪しき慣習にとらわれていた時代である。キャリアウーマンとして生きるには、いくつも乗り越えるべき壁が立ちはだかっていたに違いない。男性社会の論理によって疎外され、次第に人格を崩壊させていく。つまり「昼は堅気の会社員、夜は娼婦」という二つの顔を持つことで、自分の存在意味を見出す。
 歪んだ魂をを巨大化させ、男と交わることで、虚しさを暴き出し、男性の作ってきた戦後資本主義社会そのものに復讐する物語である。果たして、主人公は「怪物」なのか、はたまた「聖女」なのか。

ヒトラー・ユーゲントの若者たち

2012-10-10 | レビュー
ヒトラー・ユーゲントの若者たち―愛国心の名のもとに
スーザン・キャンベル バートレッティ 日本初版2010年
ノンフィクション

 1930年代から第2次大戦中に、ヒトラー・ユーゲントとして活動した少年少女たちがいかに行動し、考えていたかを 膨大な研究資料と当事者達へのインタビューをもとにまとめられたもの。証言者が高齢になり、語らずして亡くなった方も多い中、生の声を個人レベルで聞ける最後のチャンスであるかもしれない。

 第三帝国の未来を「希望にあふれる10代の若者に託す」やり方は、その純粋さゆえに、あまりにも痛々しい。驚くべきは、子をして親を密告させるような状況である。ユーゲントの教育の徹底ぶりがうかがわれる。戦闘においても、無私の精神で総統のために命をささげる一途さは、まさに殉教者のイメージですらある。

 著者は、戦後彼らがどのように生きてきたかにも焦点を当てる。騙されたとはいえ、大量殺戮に加担した加害者としての苦しみの方が、彼らの魂を大きく損なったという。

 経済の低迷からファッショへ、ナショナリズムに至る道のりは、当時の日本の状況と恐ろしいほど酷似しており、止めように止められない人間の定めのようなものが見えてくるだけに、現代にも通じる空恐ろしさを感じる。どうやったら、この「他罰的」心性のスパイラルから国民全体が抜け出せるのか。解決は、経済にのみゆだねられることなのだろうか。経済でいう「景気」とはまさに人の気分のことを言ううらしいけれど、それはつまり「いい気分・いい機嫌」を作り出すことで、ブレイクスルーできたりするのか。