ジョージィは自宅での洗濯を終えるとコインランドリーへ向かう。乾燥機を使う為だ。
もともとは自然乾燥、室内干しで満足していたが、米国で仕事をした時に使ってみて乾燥機の便利さを理解してからは、日本に帰ってからもずっとコインランドリーに行き乾燥機を使っている。
ただし近年は濡れた衣類を乾かす為ではない。干した衣類をふかふかにするためだ。干してから行くのでコインランドリーには終了間近の深夜前に店に入る。
そのコインランドリーであいつ(シロ助)に会える。
最初に見たのは5~6年ほど前だっただろうか。
洗濯した衣類を積んだバイク(125ccスクーター)をランドリーに続く路地に停めた時だった。バイク正面にある屋根付きの駐車場の中にからノッソリと大きな姿を現して、私に向かって「ニャァ!(何かくれよ)」と鳴いた。
私が「何だ?腹減ってるのか?」と尋ねると。「ニャァ!(そうだよ)」と何とも無愛想に答える。
私は「じゃぁちょっと待ってろ。動くなよ!」と念を押し、衣類を乾燥機に入れてからまた戻るとシロ助は確かにそのままで待っていた。
食べ物を買いに行こうとすると「なんだよ、行っちゃうのかよ」と言うような表情をして道路の奥へ歩き出そうとするので、私はもう一度「今から何か買ってくるからここから動くな。いいな。」と念を押して弁当屋に向かった。
弁当屋から戻るとシロ助は物陰に隠れながら(私の)帰りを待っていた。 唐揚げやらおにぎりを買ってきたが塩分は身体に悪いだろうと思い、一旦自分で食べ塩分を取り去ってから与えた。
(米国でネコみたいに大きなリスに(私の好物だった)フライドナッツを与えたときと同じ要領だ)
シロ助がガツガツと食べ始めたのを見て私はコインランドリーへ戻り乾燥機の完了を待った。20分ほどしてバイクのところへ戻ったときには、駐車場の奥のシロ助は満足そうに自分の毛繕いをしていた。その時からいつも私が忘れた頃にひょっこりと姿を見せては、そのたびに私が食べ物を買ってくるのをじっと待っていたのだ。
そのシロ助がここ一年以上姿を見せなかったのだ。
ところが先日、ひょっこりとその姿を現した。いつものようにバイクを停めライトが駐車場を照らしたときシロ助が物かげから出てきて「 ニャァ(よう)」 と鳴いた。
私は「おぉ!なんだお前まだ生きていたか?」と話しかけると、「ニャー(ああ)」と無愛想に答える。
私は衣類を乾燥機に放り込むと、バイクで買い出しに出かけた。
駐車場に戻り食べ物を与えたのだがシロ助には食べ物がどこにあるのか判らないらしい。
「えっ?おまえ目が見えなくなったのか?!」と話しかけながら地面に置いた食べ物のところへ鼻先を誘導してやった。その時、シロ助の薄汚れた白い毛はもうボロボロになった事を知った。
飲み込む力も衰えたようだ。ノドに詰まらせながら食べている。 私は哀れに思いながらその場を離れ乾燥機のところに戻った。
乾燥を終えバイクのところに戻ると、シロ助が実際に食べることが出来たのはわずからしい。それでもシロ助は駐車場の奥で ゲップ をしているのが見える。
乾燥した衣類をバイクに積み込みバイクのキーを回したとき(バイクのライトが点灯したとき)、シロ助はおもむろに駐車場の奥からバイクの前まで出てきたかと思うと、ゆっくりと顔を上げて「ニャァァ」とひと鳴きし、そのまま奥へと引っ込んで行った。
始めての事であったが、私には「(いままで)ありがとよ」と言ったように感じた。