一口のおかゆ

「退院してきたものの、動けないんです。」ということを聞き、
夜の８時になってしまいましたが、お話を聞きに行きました。
かくしゃくとして、いつもダンディさんだったその方は、
入院をしてから、一気に体が動かなくなりました。
やせた手足、
ご自身が大変なのに、
わたしの顔を見たら、
「元気でがんばっているかい」と、声をかけてくださるその姿に、
私は、父を思い出しました。
思わず涙がこぼれ落ちそうになるのを、こらえて、
うんと明るい声で、お話ししました。

おなかをこわしてしまい、ご飯を食べると便が大変だから食べないと
言っているというのを聞き、
「きちんと食べないと、いい便にならないから、ちゃんと食べてくださいね。
ヘルパーさんにもすぐに来ていただいて、体もきれいにしていただきましょうね」
というと、「ありがとうね。頼むね。」と言って、手をのばし、
私をぎゅっとつかんでくださった。

介護保険を新規に申請をすると、約１ヶ月かかります。
しかし、事は緊急です。
奥さん一人では、この土日を乗り越える事ができないからと、
事業所の方と相談をして、緊急措置をとってもらいました。

この日、午前中に、事業所から5人で来てくださり、
介護ベッドをしつらえ、2階から1階の部屋への移動、
体の清浄などを行なってもらったのです。

外の景色も見る事ができるお部屋に移り、
からだもきれいにしてもらったMさんは、
退院して４日目になる今日、

ようやく、おかゆを口になさいました。

その後、往診の先生の手配もしていただきました。

「がんばるんだよ。あなたたちが、がんばらなければいけないよ」
Mさんは、私にそう言ってくださいました。心から励まされました。

そして、こんな大事な仕事であるのに、まだまだ少ない収入である
介護の現場の実態を、ほんとうに変えていかなければいけません。
ケアマネさん、ヘルパーさん、福祉用具のみなさん、
助けてくださり、ほんとうにありがとうございました。