これほどまでに「人はどうあるべきか」を示した本を、サラは知りません。
『消えた王子』では、人物像そのものが物語になっています。
本を読みながら、少年少女は、あるいは大人でも、「どうあるべきか」「どのように振舞うべきか」を具体例を通じて学んでいくのです。
面白い。とても面白いので、頭ごなしの胡散臭さや堅苦しさ、うっとおしさは、まったく感じられません。
なのに、そうか、こういうときはこうすればいいんだ。
あるいは、こんなふうにして、自分を磨いていけばいいのだ。
子どもを育てるキモはここにあるんだ。
と妙に説得されてしまうのです。
前に言ったように、子どもの本が「偉大なる意思からのメッセージである」とすると、『消えた王子』に示されたふんだんな「人としてのありよう」「学び方」は、すばらしい教育書になっています。
ジャン・ジャック・ルソーの書いた膨大な教育書『エミール』と比べても、その端的な表現、具体的な内容、ブレない思惑からいって、まさるとも劣らないといえます。
なんたって『エミール』は長すぎるし、くどすぎるし、微にいり細にいりで、要点がだんだんぼやけていくのです。
ところが『消えた王子』は物語の展開という制限があり、サマヴィア国の再生という熱い思いが充満しています。
止むにやまれぬ帝王学という側面もあります。
無駄がなく、説得力もあり、それに「なるほどー」と納得できます。
だから、『エミール』と比較してもいいくらいの教育書であると、ここに提言しておきたいと思います。
訳者の中村妙子さんは、あとがきでこう述べています。
「『消えた王子』には、少年たちが共感をいだき、あこがれを寄せる少年像をのこしたいという作者の気持ち、自分の息子たちにあたえることができなかった、頼りになる父親像をステファン・ロリスタンに投影した、“ロマンチックな女性”、フランシス・ホジソン・バーネットの心情がうかがえるような気がします」
そうなんです。ロマンチックです。
というわけで、この後、主人公マルコと父親に分けて、その描かれるところの人物像を列挙していこうと思います。
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