P.L.トラヴァースが書いたメアリー・ポピンズのシリーズを読んだことはありますか?
『風にのってきたメアリー・ポピンズ』
『帰ってきたメアリー・ポピンズ』
『とびらをあけるメアリー・ポピンズ』
『公園のメアリー・ポピンズ』(以上、岩波書店)
この4冊は、いまでも広く愛されている児童文学の定番ですよね。
(このほかに『さくら通りのメアリー・ポピンズ』『メアリー・ポピンズとお隣さん』というのも出ているそうですよ。)
サラ☆も子どものとき、何度も読みました。
ここ1週間で、またこの4冊を読み返し、楽しい時間を過ごしたばかりです。
物語の舞台は20世紀の前半、第二次世界大戦前のロンドンです。
大きい通りの交差点のところから、最初の角を右に曲がって、こんどは左に曲がり、それから急に右に曲がると桜町通りにぶつかります。
その通りの17番地にあるのがバンクスさんの家。
そして、バンクス家の子供部屋、あるいはその周辺では、とにかく愉快で不思議な出来事が次々に起こるのです。
(なぜ桜町通りって呼ばれているかというと、通りの反対側は公園になっていて、道の真ん中には、桜の木がずらっと植わっているからです。)
ことの発端は、外套を2枚も着たくなるような寒い日に、東風が吹いたこと。
バンクスさんのところでは、子どもたちの世話をしてくれる女の人を募集するために、新聞社に手紙を書きました。
そおしたら、その日の夕方に、なんと!!風の乗って1人の女の人が、バンクス家の前にやってきたのです。
それがメアリー・ポピンズ。
バンクスさんの奥さんに雇われて、子どもたちの世話をすることになりました。
さて、ここであいまいなのが、メアリー・ポピンズの職業。
食事やお風呂、寝る仕度、洋服の繕いまで、メアリー・ポピンズは忙しく働きます。
急に雇われて、子どもたちの世話全般をするというのが、なかなか理解・納得できないのだけど、平凡社新書の『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(新井潤美著)を読んでみると、なるほどとうなづけます。
抜粋します。
「イギリスのナニーの黄金時代は19世紀半ばごろから、第二次世界大戦の始まるころだった。
ただし、『ナニー』という呼び名そのものが一般的になったのは、1920年代だと言われている(それまでは『ナース』[乳母]と呼ばれていた)。
イギリスでは子ども部屋のことをnurseryと呼ぶが、それは家の中で1つの独立した空間であり、ナニーがその支配者であった。
子どもは生まれたころからナニーの手に渡され、食事からトイレの躾まですべてがナニーの手に任される。
ナニーは子どもたちと一緒に子ども部屋で寝て、朝起きると子どもたちの洗顔を手伝い、服を着せ、朝食をとらせ、その後、一日中彼らにつきそう。
それもたんに使用人としてついているのではなく、テーブル・マナー、口のきき方、身のこなし、部屋のあとかたづけなど、彼らの躾のすべてを行う。
つまり彼女たちは完全に両親の代わりとなるのである。」
さらに
「子ども部屋は完全にナニーの支配下にあり、したがってナニーは、子どもが家庭教師をつけられるか、学校に行くようになるまでの、きわめて重要な時期に、子どもを育てるという重大な任務を負うことになる。」
そして
「ナニーは、子どもにとって、家庭教師をつけられたり、学校に行く年齢になるまでの、限られた期間の存在にすぎない。
大人の間では、話し合いがあって、子どもたちがもう大きくなったので解雇するといった過程があっても、子どもにとっては、ある日いきなり、自分を育ててくれたナニーがいなくなるということが起こるのである。
子どもが年ごろに達していなくても、ほかの雇い人や雇い主とのいざこざ、あるいはその人の事情によって、突然ナニーが替わるということもありうる。」
メアリー・ポピンズの職業はまさしく、このナース、あるいはナニーと呼ばれる乳母の仕事です。本の中でもそのように描かれています。
なるほど、なるほど。
それで、子どもの服装を整えたり、オートミールをつくったりというようなことまで、何くれとなく面倒を見ているんですね。
納得しました。
そして、「だから」メアリー・ポピンズは、いつかはいなくなるのですね。
いずれにしても、ナースはやがていなくなる。
そういう必然なんです。
なんという妙なシステムなんでしょうねぇ。
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