ハリー・ポッターといえば『ハリー・ポッターと賢者の石』に始まる
全7巻の魔法界の物語。
(ハリーが魔法魔術学校ホグワーツに入学した第1学年から、
最上級生の第7学年までを学年ごとに描いた7つのタイトルの冒険ファンタジー。
一冊ずつ重ねていった成長物語でもある。)
目に見えない世界がこんなに面白いのなら、その世界もありとしようよ…
と世界中の人たちが夢中になった
時間と空間の裂け目から拡がる異世界ワールド。
普通に自分たちが訪れる動物園の、ガラスケースの大ニシキヘビが突然しゃべったり
ロンドンの地下鉄から出た通り沿いの、本屋とレコード店の間のパブ(普通の人間には見えないらしい)。そのパブを突っ切った奥に、魔法のグッズの店が並ぶ「ダイアゴン横丁」の入口が現れたり、
まったくの異世界ではなく、この現実世界のすぐ隣にあって、入り混じっているところが素敵だ。
両親を亡くし、
今までおじさんとおばさんの元でひどい扱いを受けて育ったハリーは、
11歳の誕生日を迎え、7年制の中等学校に進むタイミングで、
ホグワーツ魔法魔術学校から入学を許可される。
えっ、魔法?
えっ、ぼくの両親は魔法使いだった?
ぼくも魔法を使えるって…!?
…というところから、
魔法魔術学校にいかに入学し、
そこでいかに学び、いかに事件に巻き込まれ、
いかに子供たちだけで「賢者の石」を守り抜き、
闇の帝王である邪悪な魔法使い、ヴォルデモートの復活を阻止したか…
ということが第1巻に書かれている。(なんと大雑把な紹介…)
面白い要素は数えきれないほどあるのだけど、
ここではクリスマスの話を取り上げたい。
ハリー・ポッターはこれまで、誕生日が楽しかったことなんていちどもない。
10歳の誕生日にもらったのは、コートをかけるハンガーとおじさんのお古の靴下だけ。
(なんというひどい扱い! 自分の息子、つまり同居するいとこのダドリーには、
37個もばかげた贅沢なプレゼントをあげるというのに。)
クリスマスもそうだろう。
サンタもへったくれもない。
普段と変わらないつまらない日。
むしろ、まわりが浮き立っているだけに、もっとみじめだったかもしれない。
さて、全寮制の魔法魔術学校ホグワーツに入学後、
初めてのクリスマス休暇。
ハリーはプリペッド通りには帰らず、学校に残る。
そして、生まれてはじめて、ワクワクする、愉快で印象深いクリスマスを経験する。
なにしろ、友達になったロン・ウィーズリーとその兄弟も両親の都合で学校に残る。
楽しくないはずがない。
●クリスマス・ツリー
ホグワーツのクリスマスはこんなふうだった。
大広間には12本の大きなクリスマス・ツリーがそびえ立っている。
(ハグリッドが禁じられた森から切り出してきた樅の木。)
小さなツララでキラキラ光るツリー、
何百というろうそくで輝いているツリー、
フリットウィック先生が魔法の杖からフワフワした金色の泡を出して飾り付けたツリー。
●クリスマス・プレゼント
クリスマスの朝には、ベッドの足元に小さなプレゼントの山が置かれていた。
「ねぇ、これ見てくれる? プレゼントがある」
「メリークリスマス」の挨拶のあと、とハリーはロンにそういった。
きっと初めての体験で、意外だし、うれしかったに違いない。
プレゼントの内容は…
①森の番人ハグリッドから、自分で削った横笛
②プリベット通りのバーノンおじさんとペチュニアおばさんから50ペンス硬貨(日本円でいうと50円玉 )。ったく!
③ロンのお母さんから手編みのエメラルドグリーンのセーターとホームメイドのファッジ(キャンディの一種)
(ロンがお母さんに「ハリーはプレゼントをもらう当てがない」と知らせたので。)
④ハーマイオニーから蛙チョコレートの大きな箱
(ビックリマンチョコのように、有名な魔法使いや魔女の写真のカードが入っていて、みんなが集めている)
⑤透明マント
差出人の名前はなくて、こんな手紙が添えられていた。
(先にいっておくと、物語の最後のところで、ダンブルドア校長先生がくれたものだと判明する。)
君のお父さんが亡くなる前にこれを私に預けた。
君に返す時が来たようだ。
上手に使いなさい。
メリークリスマス
(これらのプレゼントのいくつかは、これから立ち向かうことになるとんでもない事件・冒険の重要なアイテムと謎を解き明かすヒントになる。
作者のJ・K・ローリングさんは、どこまでも緻密に物語を構成している。)
●クリスマスのご馳走
大広間で、先生たちや寮に残った仲間とテーブルを囲むクリスマスのご馳走は、それはそれはすばらしいもの。
12本の樅の木のクリスマスツリーに囲まれて、さぞや素敵だろうな…。
どんな内容かというと…
丸々と太った七面鳥のロースト100羽
山盛りのローストポテトとゆでポテト
大皿に盛った太いチポラータ・ソーセージ
深皿いっぱいのバター煮の豆
銀の器に入ったコッテリとした肉汁とクランベリーソース
ブランデーでフランベしたプディング
夕食の時間には…
七面鳥のサンドイッチ
マフィン
トライフル
クリスマスケーキ
きっと魔法だから美味しいに違いないし、ゼッタイにみんな満腹でしょう!!
●クラッカー
ひもを引っ張るとパーンと破裂して、中身が飛び出すパーティ用のクラッカーのこと。
しかし、魔法界のクラッカーはようすが違っている。
クリスマスのご馳走のテーブルに、山のように置いてあったクラッカー。
本には、こんな風に描かれている。
ダーズリー家ではプラスチックのおもちゃや薄いペラペラの紙帽子が入っているクラッカーを買ってきたが、そんなちゃちなマグルのクラッカーとはものが違う。
ハリーはフレッドと一緒にクラッカーのひもを引っぱった。
パーンと破裂するどころではない。
大砲のような音をたてて爆発し、青い煙がモクモク周り中に立ち込め、中から海軍少将の帽子と生きた二十日ねずみが数匹飛び出した。
このほかにも、クラッカーからは、いろんなおまけが飛び出した。
いくらでも引っぱっていいらしい。
ハリーがもらったのは、破裂しない光る風船、自分でできるいぼつくりのキット、新品のチェスセットなど。
こんなクラッカーがあったら、ぜひ一回、試しにひもを引っぱってみたいものだ。
●「透明マント」と「みぞの鏡」
クリスマスの晩、ハリーはプレゼントでもらった透明マントを体に巻き付けて寮を抜け出し、
図書館の閲覧禁止の棚に行き、管理人のフィルチとスネイプ先生に見つかりそうになって、
あるドアの中に滑り込んだ。
そこで見つけたのが「みぞの鏡」。
「みぞの鏡」って、文字が逆になっていて、「のぞみ鏡」ってこと。
(英語では“The mirror of Erised”。もちろん「Erised」という言葉はなくて、「desire(欲望)」を逆にした文字列)
鏡の枠には「わたしはあなたのかおではなく あなたのこころののぞみをうつす」とという文章がさかさまに彫られている。
「みぞの鏡」は、鏡に姿を映す人の一番強い望みを鏡の映像として実現してくれるというもの。
ハリー・ポッターが強く望んでいたのは、両親や家族に会いたいということだったらしい。
ハリーが鏡の前に立つと映ったのは、母親と父親とポッター家の人々。
生まれた初めて、ハリーは自分の家族を見ていた。
ポッター家の人々はハリーに笑いかけ、手を振った。ハリーは貪るようにみんなを見つめ、両手をぴたりと鏡に押し当てた。鏡の中に入り込み、みんなに触れたいとでもいうように。ハリーの胸に、喜びと深い悲しみが入り混じった強い痛みが走った。
ハリーは3回めに「みぞの鏡」をのぞきにいったとき、ダンブルドア先生と会う。
何百人もの人がハリーとおなじように「みぞの鏡」のとりこになったそうだ。
「鏡が見せてくれるものは、一番心の奥底にある一番強い『のぞみ』だが、それ以上でもそれ以下でもない。」
「この鏡は知識や真実を示してくれるものではない」と諭され、鏡を別の場所に移すので、もう探してはいけないと告げられる。
いずれにしても、クリスマスはハリーが初めて心の通ったプレゼントをもらい、
クリスマスのお祝い気分を心底あじわい、喜び、そして、鏡の働きとはいえ両親と出会えた……
印象深いクリスマスだった。
この章の中で、ロンのお兄さんのジョージも「だってクリスマスは家族が一緒になって祝うものだろ」といっている。
クリスマスに両親の夢を見るというのも「あり」かなと思うのだ。
(ちなみに両親の写真については、この本の最後のところで、ハグリッドがアルバムにしてプレゼントしてくれた。
「あんたのご両親の学友たちにふくろうを送って、写真を集めたんだ。だってお前さんは一枚も持っていないし……気に入ったか?」
ハリーは言葉が出なかった。でもハグリッドにはよくわかった。)