『バルサの食卓』というのは、守り人シリーズを中心に、上橋さんの著書に出てきた料理を、紙上で再現したもの。
その荒業に挑んだのは、いま上映中の映画「南極料理人」の原作エッセイを書いた、南極料理人の西村淳氏を中心に、チーム北海道の面々。
上橋さん描く異世界の食物を、いま日本で手に入る食材で、再現したというわけです。
ちなみに、この西村さんは、
「マイナス何十度という極寒の地、食材の補充は一切無し、気圧が低いためお湯も沸騰しないという苛酷な世界で、『14カ月間毎日、違う料理を食べさせてくれた』と隊員たちが驚く料理のヴァリエーションを見せた人」
なんだそうです。(「」内は上橋さんのエッセイの文章)
料理の写真とレシピ、上橋さんのエッセイ付き。
この世にありもしない料理を再現して文庫化するなんて、何でこんなことを考えつくかなあ。
新潮社の編集者の人は面白い。
で、本をつらつらと読み、料理の写真を見て、上橋菜穂子という作家に、やおら興味を覚えました。
上橋菜穂子とは、こんな人です。
1962年、東京都生まれ。立教大学文学部卒業。専門は文化人類学。同大学大学院博士課程終了。女子栄養大学助手などを経て、現在は川村学園女子大学児童教育学科教授。
20年にわたり、オーストラリアのアボリジニの研究に従事しているということです。
●父親は九州生まれ、母親は長野生まれで東京育ちながら。本人は10歳まで下町の根岸で育ったといいう、チャキチャキの江戸っ子。
●中学の頃にイギリス児童文学と出会い、その豊潤な世界に魅せられた。コーヒーよりは紅茶を、紅茶ならミルクティを好む。
●研究のフィールドであるオーストリアには、頻繁に通い始めて20年。
短期間では、19カ国ほどの国をめぐってきた。
●オーストラリアのブッシュで、アポリジニの若者たちとキャンプをしたことがある。
●西オーストラリアのポートヘッドランドという町で暮らしたことがある。
あるドイツ系オーストラリア人の家庭に居候していたことがある。
●オーストラリアのアウトバック(広大な原野)を、車で走ることがある。あるとき、ブッシュの途中でガソリンが切れ、付近の牧場で働いている人が通りかかるまで、ブッシュにポツンと佇んで、長時間を過ごした苦い経験がある。
●子供の頃に作家になろうと思った。
作家にならない私は、私ではないと思ったそうです。
そして、幸せな家庭で幸せに育ったので、経験をつまないといけない、というので文化人類学の研究に身を投じたのだということでした。
上橋さんは言います。
「その土地の料理を口にしたとたん、それまでは見慣れぬ、どこか浮ついた「風景」に過ぎなかった異国が、ふいに、ぴたりと焦点が合ったように、生きた土地に感じられる。食べるということは、それほどリアルで、それほど強い力をもっています」
只者ではない履歴。
だから、現実世界とは異にする創造の世界なのに、リアルな実感が、行間から迫ってくるんですかねぇ。
それにしても、料理をレシピつきで再現するだなんて。
その試みは大変愉快。
ただ、勝手にいろいろ想像する楽しみを、奪わないでほしかった気もしますねぇ。
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