★「おとなしい女の子」と「心臓の強さ」
小さいころ、フサコさんはどんな女の子だったか、ということについてお話しましょう。
意外に思われるかも知れませんが、フサコさんは「おとなしくて、とても内気な子供」でした。
人前でしゃべることもままならなくて、自分から意見を述べるなど、とんでもない!
女学校を出たあと、教員免許を取得できる旧制の女子専門学校に進んだのですが、「もしも教壇に立つことがあったとして、いったい自分はちゃんとしゃべれるかしら」と危ぶんでいたそうです。
(もっとも、おとなしいからといって、気弱ということではありません。)
女学校のころは『少女世界』とか『令女界」といった、当時はやっていた少女向けの雑誌四、五冊を、お小遣いでぜんぶ買っては読みふけり、美しいものにあこがれていました。
習い事もして、まじめに勉強に打ち込む毎日。
可愛らしいこと、美しい物が大好きで、そういうものに出会うと無邪気によろこぶ素直な心の持ち主。でも芯の強さは持ち合わせている。
フサコさんはそういう女の子として成長していったようです。
ところで、後に未亡人になって会社勤めをしていたころは、「心臓の強い」女性と思われていた、というエピソードがあります。
フサコさんが「笑い話よ」といって話してくれました。
「戦後に地域婦人会やPTAの役員の仕事を重ねていくうちに、人前で話すのが、なんともなくなってきたんです。
それどころか、大勢の前で話すほうが張り合いがあると思うくらいに成長を遂げたのね。
会社でもね、平均年齢が五十九歳ぐらいのありがたい会社に務めていたのだけれど、思っていることは、何でも発言していました。
けっこうはっきり、ものをいうわけ。
そうしたら、最年少の四十歳くらいの男性から、『死んだら心臓の移植をさせてほしい』という妙な懇願をされちゃってね」
ここで、ちょっと笑ってから、
「心臓が強いというのはタフだってことだから、いいと思うのよ。自分の行動や発言に自信がもてるから、はっきり言えるんですよ」といって、また笑っていました。
たしかに、なんでもちゃんと自分の言葉にして、物おじせずに発言する老女のフサコさんはとても素敵でした。
(誰でも大人になっていくなかで、辛い経験をしたり、ギリギリのところで頑張らないといけなかったりして、タフさを身につけていくのでしょうね。
だから、おとなしい女の子も、タフな女性になるんです。)