新・日常も沖雅也よ永遠に

お引越ししました。

さよならは言わない、言えない

2013-06-27 00:20:00 | 沖雅也
木曜日に赤塚真人さんの舞台「さよならは言わない」を観て来た。
以前に沖雅也さんの思い出を本サイト「沖雅也よ 永遠に」に寄せて下さった水沢有美さんがご出演ということと、私にはあまりにも思い出が多い「小さな恋のものがたり」でサリーの親友山下くんを演じられた赤塚さんが脚本・演出・主演ということが私の足を劇場へ向かわせた。
おまけに、前回の沖雅也研究会で長谷直美さんが「ああいう綺麗な人好きだったみたい」と証言していらした青木英美さんもご出演ということで、正に「沖さんつながり」の舞台に思えた。

幕が開き赤塚さんのお顔が見えた瞬間に、私はもう「山下くん!」と叫びそうになっていた。
その仕草、その表情、山下くんじゃないの?
そうなのだ。私は「小さな恋のものがたり」は100回以上観ている。
毎年お誕生日とご命日には好きな作品を観ることにしているが、『スコッチ・イン・沖縄』と共にダントツで手にとることが多いのがこの「小さな恋のものがたり」の最終回だ。
なにしろ、初めて生の沖さんと出会ったのがこの作品だから、内容とはまた別の思い入れもあるし、あまりにもリピート率が高いので、沖さん演じるサリーだけでなく、岡崎友紀さんのチッチ、トン子ちゃん、サリーやチッチのご両親、恋敵の従妹のルミさんや意地悪な同級生たちまで出演者全員が大好きになってしまっていたのだ。
中でも山下くんは個性的で、その絶妙なトボけぶりはセリフを暗記するほど観ているのにもかかわらず、毎回笑わされてしまう。

舞台の内容はネタばれになるので詳しく書かないが、山下くん、いや赤塚さんが演じる男は、亡くした娘が今どこでどうしているか気になっている天使の役で、「死」や「縁」がテーマになっているから、こちらはますます涙腺が緩む。
あの山下くんが…と、ご本人にとってはきっと望ましくない想いで舞台をみつめた私だったが、人と人の出会いには何かの縁があり理由があるという大きなテーマは、大事な人を亡くした人が一度はめぐらせる発想だ。
原作の赤塚さんはもとより、生の舞台で大粒の涙を流す水沢さんも大事な人を亡くされているからこそ役に強い力が宿っているのだろう。
観ている私にしても、あの日沖さんと一緒にいた方々の舞台をこうして観られる機会が得られたことは、何かの必然だったのだろうと思えた。

終演後は出演者の方々がご挨拶のために出口に立っていらした。
まずは水沢さんにご挨拶をして、掲示板のコメントのお礼をする。

実年齢よりかなり上の老け役に挑戦された水沢さんだが、私の感想は「わっかーい!」だった。
この方は「さぼてんとマシュマロ」では沖さんより先輩の雑誌記者という役柄だったので年齢は沖さんより上なはずなのだが、可愛らしさはそのままだ。

水沢さんは、死に別れた夫と何十年後かに再会するという役柄だったので、最初は足取りも重く低い声で老女らしく、しかし再会した夫と話すうちに夫と年齢が合って行くという演技を自然にこなしておられた。
私にとってはかねてからの懸案事項だった「死後の再会時の年齢差」。
31歳で亡くなった沖さんに再会する時、自分だけおばあさんになっているのではないだろうかという心配は、没後30年の節目の今年になっても消えることはない。
というより、年々増えて行く自分のシワと衰える体力が、31歳の沖さんと再会した時の図を困難にしている。
水沢さんは、その見た目のギャップを、赤塚さん演じる天使と話して行くうちに演技で埋めて行く。死んだ時の年齢のままの夫と釣り合う若さを、老けメークのまま取り戻してしまうのだ。
ベテランの演技おそるべし。

ちなみに、沖さんと共演された頃の水沢さんはこんな感じ。

あれ?今の方がきれい?

続いておそるおそる赤塚さんにお声がけする。

赤塚さんも変わらないが、コミカルで優しい山下くんとは違い、目の前の赤塚さんは座長としての緊張感がみなぎっており、「いいお芝居をありがとうございました」というのが精一杯だ。
「山下くんをありがとう。天使の向こうに山下くんが見えました」
本当はそう言いたかったが、あまりに場違いなので大人の私はガマンした。
でも、ありがとう、赤塚さん。山下くんを演じてくれてありがとう。
天使になった山下くんが、私をここへ運んでくれた。


青木英美さんは、外に立っていらした。

青木さんはとにかく「ほっそーい!」(ボキャブラリの少ない表現が多くてすみません)
上腕が私の親指ほどなんじゃないかと思うほど細い。
しなやかな動きで微笑みかけるその姿は、ゲスト出演された「大追跡」の『女豹が跳んだ』というサブタイトルを今も背負って恥ずかしくない美しさだ。


そうか、沖さんは「豹のような女性がタイプ」とおっしゃっていたっけ。
若い頃の小悪魔的なわるーい雰囲気は消え、優しさが全身から漂った、しなやかな豹が目の前で微笑んでいる。
柏原寛司監督があのサブタイトルをつけたのも頷ける。
この方を前にしたら沖さんも「少年のよう」(長谷直美さん談)になってしまっても仕方ない。
先日青木さんの還暦パーティーがあったらしいが、私が子供の頃60代といえばお年寄りというのが常識だったのに、水沢さんにしろ青木さんにしろ一体どうなっているのだ。
常々熟女好きを公言する芸人をネタに違いないと思っていたが、これならアリだとやっとナットクした。
若さだけに寄りかかっている女性たちよ、気をつけなければいけませんぜ。


実は舞台に先立って、私はすでにタイムマシーンに乗っていた。

代官山は沖さんが22歳頃から数年間住んでいらした場所だ。

私は時間があればそのマンションに行き、歩道橋から盆栽の並ぶベランダをながめてため息をつく、夢みる夢子さんだった。

そのマンションも歩道橋もそのままで、歩道橋の前にある古い建物も現存しているのを発見した時、駐車場にあったキャディラックも、そっと立ったドアの前に出されていた店屋物の丼も一気に私の目の前に溢れて来ていた。


沖さん。

私は舞台を観る前から「さよならは言わない」の世界にいたのだ。

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