MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

イーストウッドとリバタリアンとミスティック・リバー

2005年06月07日 16時23分39秒 | 映画
なんやかんやと忙しい最近のささやかな愉しみの一つは、週末に近所のBlockbusterでDVDを借りて観ることである。(なんと慎ましい愉しみだろう!)
しかし、近所のBlockbusterは大して品揃えが多くない上に、日本のビデオ屋同様、最新作はあっという間に品切れになってしまうので、夕方にのこのこ出かけてゆく僕のような気合の入っていないお客は、必然的にやや流行の過ぎた一昔前の作品ばかりを借りるはめになる。

ということで今日も映画の話だ。
前回、前々回に引き続き、またもや重ーいテーマの映画を観た。。。
そして、例によって映画終了後には、しばしズーンと腹の奥に響きわたるような重苦しい余韻にとらわれずにはいられなかった。

クリントイーストウッドの一昨年の監督作品である“ミスティック・リバー”は、アメリカの作家デニス・ルヘインの同名小説を映画化したものである。このルヘインの原作も傑作の呼び声が高いらしいが、残念ながら僕は読んでいない。

そして昨年度のアカデミー賞において、この“ミスティック・リバー”はショーン・ペン(主演男優賞)とティム・ロビンズ(助演男優賞)に二つのオスカーをもたらした。(日本においてはむしろ“ラストサムライ”の渡辺謙がオスカーを逃したことのほうがニュースになったようだが。。。)

舞台はボストン郊外のIrish Catholicの貧しい労働者たちが住む小さな町。
町の外れには、この映画の象徴ともなるMystic Riverが生気なく濁水を湛えながら流れている。
ジミー、ショーン、デイヴの3人はこの町で生まれ育った幼馴染みである。
映画の冒頭、この3人が子供時代に経験した忌まわしい事件の顛末が描かれる。
ある日、3人が道端で遊んでいると一台の車が通りかかる。止まった車の中から身なりのよい男が現れ、遊んでいた3人に車に乗るように命じる。3人は抵抗するが、結局デイヴだけが車に押し込められ連れ去られてしまう。
デイヴは男達に監禁され性的虐待を受ける。
数日後、デイヴは自力で脱出に成功するが、その事件以降、彼の心の中には二度と消すことの出来ない惨たらしい虐待の記憶がトラウマとなって残るのである。

その後3人は成長しそれぞれの道を歩み始める。しかし、事件の生々しい記憶が3人を互いに遠ざけてしまう。
そんなある日、ジミーの娘が行方不明になり、公園の茂みの中から惨殺死体となって発見される。
そして事件の捜査を担当することになったのは、成長したショーン少年であった・・・

ところで、ネット上で公開されている様々なレビューを読むとよくわかるのだが、この映画は日米ともに賛否両論が乱れ飛んでいる。いうなれば絶賛と酷評のオンパレードなのだ。
これらのレビュー(特に低評価のレビュー)を読むと「犯人がすぐに分かっちゃうのでつまらない」などという箸にも棒にもかからない評価に混じって、“ラストがimmoralすぎて納得できない”という批判が目立つ。
確かに、この映画のラストは典型的な座りのよいハリウッドのそれとは趣を異にしているように思う。その意味で、鑑賞後に残るなんとも歯切れの悪い感覚を、徹底的なモラルの欠如と結びつけて論じようとする人が多いのはある意味理解できる。
かくいう僕も映画の結末にある種の違和感を感じなかったといえば嘘になる。

しかし、その他の多くのレビューがこの作品に惜しみない賞賛を与えているのと同様、僕もこの映画にはMasterpieceと呼ぶにふさわしい価値を感じる。

この作品で描かれている町の住人たちは皆、警察に対して懐疑的だ。
主人公のジミーも警察を無視し、自らの手で犯人を捜し出し自らの掟に則ってその者を罰しようとする。
娘の死を知ったジミーの吐く台詞が印象的だった。
「家族は俺がこの手で守らなきゃならない。だから俺はこの手で娘を殺した奴を捜し出してぶっ殺す」と。

この台詞を耳にした僕の頭になんの脈絡もなくふと“リバタリアン”という言葉が浮かんだ。
この映画に登場する人物は、彼ら自身そうとは気がついていないだろうが、ある意味皆アメリカの右派である。
彼らは警察権力を忌避し、いうなれば完全な自由意思と、その一方で共同体的な掟とに自らを委ねている。
そしておそらく、イーストウッドがのめり込んだ物語も実はこの部分ではないかと想像する。
彼は、ジミーという男に強いシンパシーを抱いていたに違いない。
そして、彼自身熱烈なリバタリアンでもあるイーストウッドは、あたかもシェークスピア悲劇でもなぞるかのように、ジミーの悲劇を描きだそうとしたのではなかったか。

つまり、この映画は多くのレビューアーが誤って捉えているようないわゆるパルプ・スリラーなどではない。いうなれば、現代アメリカ版シェークスピア悲劇なのだ。

たまには、どんよりと暗い映画もいいなーとお考えの向きは是非。
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4 コメント

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こんにちは (kazu-n)
2005-06-08 03:44:12
ダイアンさん

“Shadowlands”ですね。

分かりました。今度見かけたら借りてみます。

そうそう、そういえばこの間“Central Station”観ましたよ。切なくていい映画でした!

それ以降、実は結構ブラジル映画付いているんですよー。
返信する
こんにちは (kazu-n)
2005-06-08 03:31:42
o_sole_mioさん

コメントどうも。

他にも書きたい話題はいくつかあるんですがそれほど時間を割いてる暇がないので、最近観た映画の感想などをちょこちょこ書いております。



しかし、オンデマンドで好きなだけ映画が観られるって言うのはたのしそうですね。

って、それってひょっとしてビジネスクラスのお話なのかな?

返信する
いよっ!!社会派!!(笑) (ダイアン)
2005-06-08 03:25:23
そうこなくっちゃね、社会派!!(笑)

この映画、凄く観たいのの一つなんですよね。

なにせティム・ロビンスのファンだし・・・

そうなんだ、歯切れの悪い終わり方なんだ・・・

ますます興味をそそられます!



家ではちょっとShadow Landブームが・・・

アメリカ版も観て、またまた

「うーん・・・」

是非観てください!!
返信する
映画を見るチャンス (o_sole_mio)
2005-06-07 22:55:24
kazu-nさん、早速のコメントありがとうございました。



おかげさまで無事帰って参りました。



アメリカやヨーロッパ便などの長距離フライトの楽しみの一つは、最近の映画を道中で見ることができることです。特に往路の飛行機は最新のB777でしたので、オンデマンドで好きな映画(しかも相当な種類)を見ることができました。そこで"Shall we dance?(ハリウッドリメイク版)"と"Bridget Jones's Diary 2"を見ました。本当はもっと見たかったのですが、行く前に手渡された約50ページの文書(英文)を機内で読まなければならなかったので、残念ながら時間がありませんでした。帰りのはもっと見ることができると張り切っていたのですが、飛行機がB747で、映画の数も限られていたので"Constantine"一本でした。



3本吹き替えなし、字幕なしなので(その点"Shall we dance?"はオリジナルを見ており、ストーリー展開が前もって分かるのため楽でした)、日本で自分の解釈が正しかったかチェックしなくてはと思っています。
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