MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

文学と映画 ソフィーの選択

2005年04月18日 16時10分54秒 | 映画
今日は久しぶりにのんびりと過ごす。
片付けなくてはならない仕事が山のように残ってはいるのだが、疲れたので今日は何もしないことに決めた。

午前中は自宅でボーっとし、午後から日本食材店に買い物に出かけ、お菓子とお茶を購入する。
帰ってきてソファーに寝そべりながらアラン・J・パクラの傑作「ソフィーの選択」を鑑賞する。

さすが巨大な市場を抱えるアメリカだけあって、日本ではなかなか入手できないだろうと思われるDVDが、比較的容易に手に入るのがうれしい。
もちろん日本語字幕はないので英語のキャプションをつけながら必死で筋を追いかけるのであるが、これも英語の鍛錬だと思えばさほど苦にもならない。

ウイリアム・スタイロンによる“ソフィーの選択”の原作を読んだのは高校生のときだ。それまでも、ジョン・アービングやカート・ボネガットなどをちょこちょこ読んだりはしていたが、あの日本文学にはない英米文学独特の描写と文体に当時の僕はすっかり夢中になった。

映画“ソフィーの選択”はメリル・ストリープが“クレイマー・クレイマー”に続き二度目のオスカーを獲った彼女の代表作の一つである。
公開当時、なんとなく観る機会を逸してしまった僕は、はるか20年以上の時を経てこの作品と再会することとなったのである。

舞台は第二次大戦直後のアメリカ。ソフィーはアウシュビッツにおける大量虐殺を生き抜いてアメリカに渡ってきたポーランド移民。愛する肉親をアウシュビッツで失った天涯孤独の彼女はあらたな人生を求めてやってきたアメリカの地でハンサムな生物学者ネイサンと出会い恋に落ちる。彼らを結びつけたのものはアメリカの詩人エミリ・ディキンソンの詩集であった。(ちなみに、作品中にたびたび登場するディキンソンの詩はどれも秀逸で素晴らしい)そして、やがて二人の住むアパートに、若き文学者スティンゴが引っ越して来る。
映画は、この3人の深い友情をじっくりと描きながら、やがて、ソフィーの辿ってきた忌まわしい戦争の記憶を一つ一つ掘り起こしてゆく。

これは、現代における“悲劇”である。
“悲劇”が文学における力の根源たり得る理由のひとつは、それが決して徒らに人間の醜い業を糾弾することがないからだと僕は思う。
“悲劇”は観るものに内省を迫り、怒りや、悲しみや、絶望や、孤独といったあらゆる感情を綯い交ぜにする。そして、この葛藤の中から文学が生まれる。

時代に翻弄されつづけたある女性の人生を通して、物語は静かに、しかし圧倒的説得力をもって戦争の不合理を浮き彫りにしてゆく。
そこにはいかなる挑発も、扇動的イデオロギーも存在しない。
ただ、ソフィーが駆け抜けたありのままの人生があるだけだ。

約二時間の上映時間のあと、観るものにさまざまな感情を残しつつ“ソフィーの選択”は静かに終わる。
彼女が行った選択はいずれも絶望的なものだ。
しかし、その一つ一つは間違いなく彼女自身が下したものであったし、その結論の果てにこそ終に彼女は永遠の住処を見つけ得たに違いない。


百年あとには
この場所を知る人は誰もいない
ここで演じられた大きな苦悩も
平和のように静かだ

雑草がわがもの顔にはびこり
見知らぬ人々が散歩にきて
もう遠い死者の
さびしい墓碑の綴字を判読する

夏の野を通り過ぎる風だけが
この道を回想する
記憶の落としていった鍵を
本能が拾い上げて—

(エミリー・ディキンソン、百年のあとには 中村浩一 訳)
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kazu-n)
2005-04-22 03:11:42
なるほど、うわさには聞きますが、どんなもんなんでしょうね。アメリカではすでにDVDが発売になっていて、ときどき見かけますが、、。

是非観てみたいと思います。
返信する
そうだなぁ・・・ (ダイアン)
2005-04-21 03:37:39
観たら良い映画という言い方しかできない気もするんですよね・・・



一人の男性の心の動きがとっても良く描かれていると思います。優しいってことは強いことなんだなって思った映画です。そして、女としてこんな風に愛されたいなって思いましたね。他の事はきっと感想を言うとネタばれになりそうなので、言えないけど・・・

かなり強烈ですよ。

私はしばらく体が硬直したままでした・・・・
返信する
hotel rwanda (kazu-n)
2005-04-20 08:17:34
こんにちは。

コメント有難うございます。



ダイアンさん、押さえてますねー。

Hotel Rwanda。未見です。

どうでした?

ネタばれしない程度に感想などちょこっと教えて欲しいです。
返信する
この映画 (ダイアン)
2005-04-20 06:57:12
観た後、とっても苦しかったので良く覚えています。

どうしてそうなっちゃうんだろう・・って思いながら観たんです。それ以来メリル・ストリープのファンになりました。



そうそう、kaz-nさんHotel Rwanda観ました?

先日観て、まだ考え中の私です。
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