ガバメント北海道 ・Government...英語で行政府、政治、統治者の意味
「核物質防護の観点から回答は差し控える」
室蘭港に停泊する1隻の船について取材すると、担当者は物々しい「核物質防護」という言葉を繰り返すだけだった。
JR本輪 西駅に近い、その船が接岸する埠頭には、2重のフェンスと複数の監視カメラが設置され、近づこうとすると警備員に制止された。
船の名は「開栄丸」。全長約100m。 総重量4924トン。操舵室の外壁には「特別管理物」という表記も見える。
核兵器の原料にもなるプルトニウムを一定量以上含む核燃料や、使用済み燃料を運べる国内唯一の特殊な船だ。所有するのは原燃輸送(東京)。 使用済み燃料からまだ使えるプルトニウムなどを取りだして再利用する「核燃料サイクル」を回そうと、原発を持つ全国の電力会社などが出資してつくった会社だ。
もとは、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構が2006年に建造した。福井県敦賀市の新型転換炉「ふげん」で使い終えたプルトニウムを含む燃料を、茨城県東海村の核燃サイクル施設に運ぶためだった。船籍港は東京。なぜか当初から、航路と全く関係のない室蘭港に係留された。
06~09年度にふげんの使用済み燃料などを計4回運んだ後は、核燃サイクルのめどが立たない中、09年11月以降の運搬実績はゼロ。07~18年度の12年間、毎年300日以上は室蘭港に停泊している。昨年度は340日も室蘭港に停泊し、港を出たのは、 道外のドックでの定期点検など計4回にすぎない。
過去10年、運搬実績がないにもかかわらず、膨大な維持費がかかっていた。15年度までは毎年12億円前後。文科省が原子力機構を通じ原燃輸送に支払う仕組みだった。 船の管理運航は原燃輸送が別の民間海運会社に委託し、停泊する埠頭は室蘭の民間埠頭会社が20年契約で貸しているという。
15年当時の資料によると、原燃輸送が原子力機構に出した見積もりで、13~17人の乗組員の平均月給は123万円とされていた。 実際の給料や岸壁使用料など維持費の内訳は、当時も今も、どの会社に尋ねても 「民間契約なので答えられない」との返事だ。
文科省を含む中央省庁の事業の無駄を点検するため、政府が15年11月に行った行政事業レビューで、現外相で当時行政改革担当相の河野太郎氏は、 開栄丸を「原子力政策の無駄を象徴する船」と痛烈に批判。原子力機構はようやく17年度末で手放した。 とはいえ、分割払いが残る20年度末までは 年間約6億円を支払う。
税金の投入は解消されたとしても、原燃輸送の得意先は北海道電力など全国の電力会社。つまり維持費は回り回って私たちの電気代から支払われる。 室蘭の民間埠頭会社に入る接岸料や乗組員の飲食で落ちるお金を除けば、地元に恩恵があるわけでもない。 昨年度、室蘭市に入ったのは年4回の 入港料計2万2844円だけだ。
河野氏の側近で、開栄丸の無駄をいち早く指摘した秋本真利(まさとし)衆院議員は「回らない核燃サイクルの象徴が開栄丸だった。その状況は今も変わらない」と話す。
開栄丸はいつまで室蘭港に居座るのか。今後の予定や方針について原燃輸送に問い合わせたが、答えはやはり同じだった。「核物質防護の観点から回答できない」
(関口裕士)
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「核物質防護の観点から回答は差し控える」
室蘭港に停泊する1隻の船について取材すると、担当者は物々しい「核物質防護」という言葉を繰り返すだけだった。
JR本輪 西駅に近い、その船が接岸する埠頭には、2重のフェンスと複数の監視カメラが設置され、近づこうとすると警備員に制止された。
船の名は「開栄丸」。全長約100m。 総重量4924トン。操舵室の外壁には「特別管理物」という表記も見える。
核兵器の原料にもなるプルトニウムを一定量以上含む核燃料や、使用済み燃料を運べる国内唯一の特殊な船だ。所有するのは原燃輸送(東京)。 使用済み燃料からまだ使えるプルトニウムなどを取りだして再利用する「核燃料サイクル」を回そうと、原発を持つ全国の電力会社などが出資してつくった会社だ。
もとは、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構が2006年に建造した。福井県敦賀市の新型転換炉「ふげん」で使い終えたプルトニウムを含む燃料を、茨城県東海村の核燃サイクル施設に運ぶためだった。船籍港は東京。なぜか当初から、航路と全く関係のない室蘭港に係留された。
06~09年度にふげんの使用済み燃料などを計4回運んだ後は、核燃サイクルのめどが立たない中、09年11月以降の運搬実績はゼロ。07~18年度の12年間、毎年300日以上は室蘭港に停泊している。昨年度は340日も室蘭港に停泊し、港を出たのは、 道外のドックでの定期点検など計4回にすぎない。
過去10年、運搬実績がないにもかかわらず、膨大な維持費がかかっていた。15年度までは毎年12億円前後。文科省が原子力機構を通じ原燃輸送に支払う仕組みだった。 船の管理運航は原燃輸送が別の民間海運会社に委託し、停泊する埠頭は室蘭の民間埠頭会社が20年契約で貸しているという。
15年当時の資料によると、原燃輸送が原子力機構に出した見積もりで、13~17人の乗組員の平均月給は123万円とされていた。 実際の給料や岸壁使用料など維持費の内訳は、当時も今も、どの会社に尋ねても 「民間契約なので答えられない」との返事だ。
文科省を含む中央省庁の事業の無駄を点検するため、政府が15年11月に行った行政事業レビューで、現外相で当時行政改革担当相の河野太郎氏は、 開栄丸を「原子力政策の無駄を象徴する船」と痛烈に批判。原子力機構はようやく17年度末で手放した。 とはいえ、分割払いが残る20年度末までは 年間約6億円を支払う。
税金の投入は解消されたとしても、原燃輸送の得意先は北海道電力など全国の電力会社。つまり維持費は回り回って私たちの電気代から支払われる。 室蘭の民間埠頭会社に入る接岸料や乗組員の飲食で落ちるお金を除けば、地元に恩恵があるわけでもない。 昨年度、室蘭市に入ったのは年4回の 入港料計2万2844円だけだ。
河野氏の側近で、開栄丸の無駄をいち早く指摘した秋本真利(まさとし)衆院議員は「回らない核燃サイクルの象徴が開栄丸だった。その状況は今も変わらない」と話す。
開栄丸はいつまで室蘭港に居座るのか。今後の予定や方針について原燃輸送に問い合わせたが、答えはやはり同じだった。「核物質防護の観点から回答できない」
(関口裕士)
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