帰り道。いきなり見ず知らずの女子高生が話しかけてきた。彼女は、僕(ぼく)のことを先生(せんせい)と呼んで、人懐(ひとなつ)っこくすり寄(よ)って来る。僕が人違(ひとちが)いだと言っても、まったく意(い)に介(かい)さない。
「もう。学校(がっこう)の外(そと)だからって、先生は先生でしょ。一緒(いっしょ)に写(しゃ)メしよっ」
彼女は持っているスマホで、ツーショット写真(しゃしん)を何枚も撮(と)って、
「ほら、これはもう恋人同士(こいびとどうし)だよね。みんなにも送(おく)ってあげようかなぁ」
僕は、その写真を見て愕然(がくぜん)とした。そこに写(うつ)っていたのは僕じゃない。まったく違う顔をした男だった。これは、どういうことなんだ?
僕はその娘(こ)と別れると、近くの公衆(こうしゅう)トイレに駆(か)け込んだ。そして、トイレの鏡(かがみ)を見た。そこに写っていたのは、確(たし)かに自分(じぶん)の顔だ。僕はほっと胸(むね)をなで下ろした。
トイレを出ると、また声をかけられた。今度は、強面(こわもて)のお兄(にい)さん! 僕に駆け寄ると、
「兄貴(あにき)、こんなとこで何してるんすか? 親分(おやぶん)が、捜(さが)してましたぜ」
僕は、思わず逃げ出した。必死(ひっし)に走って、後(うしろ)を振(ふ)り返る。さっきの男は追(お)いかけては来ないようだ。僕は息(いき)を整(ととの)えながら、また歩き出した。いったい何が起(お)こっているのか…。みんな、僕のことを他(ほか)の人と間違(まちが)えるなんて。どうなってるんだよ。
僕の前に、二人の警官(けいかん)が立っていた。僕の顔を見て、何かを話し合っている。僕は、思わず後(あと)ずさりした。警官たちは、それを見て僕に向(む)かって走り出した。
<つぶやき>これは、相手(あいて)の会いたい人の顔に見えてしまう現象(げんしょう)なのかもしれませんね。
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