みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1309「恋落ち」

2022-09-20 17:32:37 | ブログ短編

 彼は某大学(ぼうだいがく)の准教授(じゅんきょうじゅ)。今、証明不可能(しょうめいふかのう)な問題(もんだい)に向き合っていた。それは、ある特別(とくべつ)な瞬間(しゅんかん)にだけ、心の中に流(なが)れるというバックミュージックの解明(かいめい)だ。彼は真剣(しんけん)に研究(けんきゅう)していた。
 ある日、彼の研究室に女学生がやって来た。彼女は、彼の研究にはまったく興味(きょうみ)を示(しめ)さなかった。たまたま暇(ひま)つぶしに、目に入った研究室を覗(のぞ)いただけだったようだ。
 准教授は彼女の前まで来ると、まじまじと彼女の顔を見つめた。彼女は睨(にら)まれていると感じて、准教授を睨み返(かえ)した。
 しばらく顔をつき合わせていた准教授はため息(いき)をつくと、「ダメだ。君(きみ)は使えないなぁ」
 自分(じぶん)のことを否定(ひてい)されたと思った彼女は、「何なんですか? 失礼(しつれい)しちゃうわ」
 准教授は苦悶(くもん)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて言った。「君は、恋(こい)に落ちたことはあるか?」
 突然(とつぜん)の質問(しつもん)に彼女は、「こ、恋って…。そ、そりゃ、それなりに…」
「答(こた)えになってない! 君は、付き合ってる男はいるのか? その男と――」
「そ、そんなこと…、何で答えなきゃいけないんですか? あたしは…、言えません」
「いないのか…。ならいい。とっとと出てってくれ。研究の邪魔(じゃま)だ」
「いないなんて言ってないでしょ。たまたま…、今は…、いないだけで…」
「そうか。なら、わしを手伝(てつだ)わんか? 今わしは、男女が見つめ合い、初めて恋に落ちる瞬間、どんな音楽(おんがく)が流れるのか研究してるんだ。君も、恋に落ちてみないか?」
<つぶやき>研究のために、彼女に恋をさせようというのかい? これは大変(たいへん)なことに…。
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