みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1311「ひも付け」

2022-09-26 17:40:23 | ブログ短編

 彼女は、とある神社(じんじゃ)で短く切られた赤い毛糸(けいと)を拾(ひろ)った。なぜそんなことをしたのか彼女にも分からない。ほとんど無意識(むいしき)に、彼女はそれを鞄(かばん)に入れてしまった。それ以来(いらい)、彼女に不思議(ふしぎ)なことが起きた。あの運命(うんめい)の赤い糸が見えるようになったのだ。
 初めのうちは戸惑(とまど)ってしまった。そこら中に赤い糸が伸(の)びていて、歩きづらさを感じてしまった。まあ、赤い糸は身体(からだ)をすり抜(ぬ)けていくので何の問題(もんだい)もないのだが…。だんだん慣(な)れてくるとあることに気がついた。自分(じぶん)の意志(いし)で赤い糸を使(つか)えるのだ。彼女が赤い糸でひも付けすると、付けられた人は彼女の願(ねが)いを叶(かな)えてくれた。彼女は大いにそれを利用(りよう)した。仕事(しごと)の実績(じっせき)も上がり、彼女が気に入った男性とお付き合いも――。
 でも時には、期待外(きたいはず)れの人にひも付けしてしまったこともあった。その人は、彼女に付きまといストーカー行為(こうい)を繰(く)り返した。困(こま)った彼女は、思い切ってその人に付けた赤い糸をハサミで切ってみた。すると、その人は以前(いぜん)のように戻(もど)った。彼女に付きまとっていたことも忘(わす)れてしまったみたいだ。
 彼女は思った。「これ、いいじゃない。付き合った相手(あいて)が嫌(いや)になったら、簡単(かんたん)に別れることができるじゃない。それも、後腐(あとくさ)れがまったく無(な)いんだから…」
 彼女の赤い糸はどんどん増(ふ)えて、今では束(たば)になって彼女に重くのし掛(か)かっている。
<つぶやき>あまり欲張(よくば)りすぎてはいけませんよ。ほどほどがちょうどいいんですから。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする