「ねえ、聞いた?」コートの隅(すみ)で部員(ぶいん)たちのおしゃべりが始まった。
「今度(こんど)入った娘(こ)、コーチに言ったんですって。あたし誉(ほ)められて伸(の)びるタイプなんですぅ」
「何それ? ちょっと可愛(かわい)いからってね、そんなことで手加減(てかげん)してもらえるなんて」
「それ、あたしも見た。コーチったら鼻(はな)の下のばしちゃって、ありゃ間違(まちが)いなく手加減するわよ。あたしたちには容赦(ようしゃ)ないくせに」
「もしもよ、そんなことになったら絶対(ぜったい)抗議(こうぎ)よ。私たち団結(だんけつ)して待遇改善(たいぐうかいぜん)を訴(うった)えなきゃ」
そばで無関心(むかんしん)にしていたチームのエースが呟(つぶや)いた。
「別にいいんじゃない。実力(じつりょく)のない人はすぐに消(き)えていくんだから。ほっときなさいよ」
「あの、あたし聞いちゃったんだけど…。あの娘(こ)、前のチームでエースだったんだって。それで、全国大会とかにも出たことあるって」
エースの顔色が変わった。もしそれが本当(ほんとう)なら、エースの座(ざ)を奪(うば)われるかもしれない。
「私も、言ってみようかしら」エースはちょっと首(くび)を傾(かし)げて可愛く言ってみた。
「私、誉められて伸びるタイプなんですぅ。どう? 私、負(ま)けてないよね」
「今さらそんなことやって無駄(むだ)じゃない? それに、あなたって誉められて伸びるタイプじゃなくて、誉められるとつけ上がるタイプでしょ。みんな知ってるわよ」
<つぶやき>チームの中で切磋琢磨(せっさたくま)することは大切(たいせつ)です。でも、これは違(ちが)うと思います。
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