扉だけが描かれた誰もいない空虚な部屋。強い存在感を放つ家具や楽器に比べ、ほとんどが後ろ姿に描かれた人物の背中から放たれる寂寞に、部屋の空虚はさらに増幅する。
ヴィルヘルム・ハンマースホイの絵に漂う共通した主題は「虚ーうつろ」ではないだろうか。
画面の人物達の視線は交わることもなく、同じ方向を見るわけでもない。それぞれが、異なる場所へ視線を投げかけている。さらには実際に何かを見ているのかも疑わしい。視線を漂わせながら、心は別のところにあるようにさえみえる。物理的には同じ空間に在りながら、精神のある人間としては何の共有もない世界は、時代を超え、現代の疎外感をあまりに如実に表している。
鋳物のストーブ、チェロなど、人の寿命を越えて存在しうる物を描くタッチは色彩と共に不自然なほど重厚感に溢れ、うつろいやすい人の営みを拒否しているかのようにさえみえる。それは、人との関わりを拒みながら生涯を終えた画家の内面を象徴しているかのようだ。
人が暮らている以上、現実にはありえない、がらんどうの部屋を描くことにより、画家は、生命のはかなさ、生きることの虚しさを想い、開け放たれた扉の向こうにさらに開け放たれた扉が続く絵には、現実を超えた世界に想いを馳せたのかもしれない。
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