それは私達がフランスをドライブ旅行していたある日のこと。「ここにしよう」と夫が車を停めたのは村はずれの家族経営らしきバー兼レストランだった。清楚でチャーミングな若いマダムが最初に運んできたのは鴨肉のパテ。たっぷりの生野菜に載ったパテは野趣溢れる個性的な味が際だっていた。次に「とても熱いので気を付けて」と給仕してくれたのがサーモンのバターソース。パリパリに揚がったジャガイモや煮込んだ野菜とともに、大きな鮭が美味しいソースをたっぷりかぶっていた。チーズや田舎風のパンはとびきりの味だし、デザートも青リンゴやレモンのシャーベットにケーキなど、食事を締めくくるにふさわしい上品な甘みであった。素朴な料理だが洗練された素晴らしい味で、誠意と親切と勘の良さが表れるのが料理だといった人があるが、まさにその言葉通りの料理だ。
若いマダムがおぼつかない手つきでワインを開けている。その手元を心配そうに見守る銀髪の大マダムの様子も微笑ましい。大マダムは「料理はどう?楽しんでいる?」と各テーブルに声をかけながら気を配っており、レストランは単に食事をするだけはなく、楽しい時を過ごすための空間であることを実感した。人を不幸にするのは小指の先を動かすほどたやすいが、幸せにするのは難しい。感動や幸福は、この店の人達のように誰に対しても変わらぬ誠意を地道に積み重ねることから生まれることを私達はこの旅で教えられた。
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