ある日のこと。
何かのメッセージなのでしょうか……
無事に仕事を終え社長が領収書をきる間、
社員たちはお客さん宅で一休みしていました。
お疲れさまでした、と。
1人1人に飲み物を渡してくれるお客さん。
終始、和やかなムードが漂います。
仕事の出来映えに満足してくれる姿に、
社員たちもやり遂げた感たっぷりの笑顔。
平和でした。
確かに平和でした。
この時までは。
「ところで、ミルさん
民族風のアクセサリーをつけてますけど、
こういう雰囲気がお好きなの?」
「ええ、まぁ」
「それは良かった
丁度、博物館で国宝の展示があるの
今度2人で見にいきません?」
「え」
お客様、困ります。
同僚たちからの視線が辛いです
それから、ひとつ言わせてください。
エスニック好き=考古学好き、
という方程式は少々強引です……
まぁ、自分は嫌いではありませんが。
「お客さん困りますよ‼︎
社員へのナンパはご遠慮下さい‼︎
デートのオプションは扱ってないんで‼︎」
領収書を握りしめながら、
自分とお客さんの間に入ってくれる社長。
誰かが呼びに行ってくれたようです。
「ミルくん、土器とか土偶とか、
好きそうだと思ったんだけどなー……」
お客様……
自分は土偶では釣れません。
「土器?土偶?」
「ええ、国宝が来ているのよ
かの有名な縄文のビーナスとかが」
「ええ⁉︎
それは行きたい‼︎」
まさかの社長が釣れた
そんなわけで
何故なのか。
本当に何故そうなったのかわかりませんが。
自分は本日、
社長とお客さんを伴って博物館に来ました。
「社長……」
「だってミルくんがいないと、
交通アクセスとかわかんないし
電子マネーの使い方も教えて欲しかったし」
「今日はオフだと思って頂戴‼︎
お仕事のことは忘れて楽しんで‼︎」
お客様。
もう少し落ち着いてください。
せめて声のボリュームを下げて‼︎
まぁ、これも接待。
お得意さまに対する接待だと思えば──……
「ほらミルくん‼︎
教科書で見たやつと同じ‼︎」
社長も落ち着け‼︎
これはもう、接待というより、
問題児を抱えた引率の教師気分だね。
ちっともオフモードになれません……
むしろ、仕事している方が楽まである。
何度も何度も注意しても、
すぐに声のボリュームを上げる客。
ちょっと目を離した隙に、
どこかへと行ってしまう社長。
果たして自分1人で、
この問題児2人の面倒を見きれるのか。
……。
よし、現実逃避しよう。
わーい
土偶だー
わーい
土器だー
わーい
なんか人型っぽいー
わーい何か注意されてるー
──……って‼︎
ちょっ……
待って‼︎
待ってください2人とも‼︎
なに逆走してるんですか……‼︎
ちゃんと順路を守って見学してください‼︎
「いやー危うく迷子になるかと思った」
「博物館の人に注意されちゃった」
もう、いっそのこと。
他人のフリして見捨てて帰りたい……
「あっちにお土産コーナーがある‼︎」
「ミルくん、何か欲しいものある?」
胃薬かな
とは言え、ここに薬局はないし
次からは予め用意しておこう……
「土器や土偶のクッキー型がある‼︎」
雰囲気は出そうですが、
それは果たして美味しそうなのか。
作る度に思い出がよみがえって、
それはそれで良い記念になるのかも。
「ミルくんなら土偶を齧る姿も似合うわ」
どんな褒め方だ
「ミルくんは良く食べるからね」
流石に土偶は食べないよ……‼︎
せっかくだから、
食事をしてから解散しましょう、と。
そんなお客さんの提案で、
3人連れ立って飲食店へ。
さも当然とばかりに、
タブレット注文がわからない2人。
うん、そんな気はしてた。
まぁ、食事は美味しくいただきました。
駅の近くということもあり、
ここで解散となるのですが──……
「はい、ミルくん
今日はお疲れさま」
今日の記念に、と。
社長がお土産を買ってくれていました。
土偶柄の手ぬぐいと、
土器のクッキー型。
なかなか渋い。
ハロウィンに焼いてみようか、土器クッキー。
「私もプレゼントを用意したの
信頼できるお店で注文したから、
ちゃんと本物の石よ、安心してね」
「え」
ラピスラズリのブレスレット。
なんか最近、パワーストーンをよくもらう。
何かのメッセージなのでしょうか……
「ミルくんの手、
華奢なイメージがあったから心配だったの
でもサイズも大丈夫そうね、良かったわ」
何故か自分、手が細いと思われがちです。
以前、自分用のブレスレットを作る際に、
手首周りを測ったら17cmでした。
特に細くはないはず。
ちなみに手長のサイズは19cm。
これも、そこまで小ぶりではないはず……
似合うかな?
身につけると、
わりと大粒で存在感があります。
練物や染色など、
ラピスラズリには偽物も多いそうです。
これは天然石とのことですが、
自分には説明されても違いがわからない……
でも、綺麗なのはわかります。
ラピスラズリって濃い青の中に、
金色の小さな粒がキラキラしていて。
なんだか星空のようです。
まぁ……ちょっと大変だったけれど、
国宝も見れたし、お土産ももらえたし。
なかなか充実した1日を過ごせました。