ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

迷宮ごっこ

2006-02-06 | Weblog
よく迷子になる。単に方向感覚がないだけなのだが、知らないうちに知らない場所に迷いこんでいる。詩人萩原朔太郎にもそういうことがよくあったようで、彼はその迷子の時間を「風変わりな旅行」と名づけて楽しんでいたようだ。「猫町」は、私の好きな作品のひとつだ。いつもと同じように街を歩いているつもりなのに、突然、不思議な場所が出現する。
稽古場のある放出の街。駅前の商店街をひとつ横にそれる。と、知らない場所だ。放置された洋風の会館。シャッターの下りたアーケード。剥げ落ちた看板の文字。千切れたポスター。そんな道の奥に、古ぼけたアパートがある。鉄の階段は錆びついて、壁には蔦が絡まっている。窓のひとつががらりと開いて、住人が顔を覗かせる。ふと見上げるとそれは確かに知っている誰かだ。「パセリの木」の草子さん?それとも「絵葉書の場所」の菜摘さん?不思議なデジャブ。
「猫町」は、この次にはただの町にかわっているのかもしれない。