牛ほめ
二十歳になる息子の与太郎。ちょっとたりない息子のことが
歯がゆくてならない父親は、一人で叔父の家へいかせてみようと考えた。
叔父は家を新しく建てたばかり。与太郎が普請の具合をきちんとほめれば、
少しは感心して見直してもらえるという親心だ。
与太郎を呼び、ほめ言葉をあれこれと教えはじめた。
感心させなければいけないので、せりふがむずかしい。
天井は薩摩のウズラ木理と教えると、与太郎は天井は薩摩芋にウズラ豆と
繰り返す。畳は備後表の五分縁は、畳は貧乏でボロボロ。左右の壁は砂ずりの
部分にいたっては、佐兵衛のかかあは引きずりとくる。叔父の名が佐兵衛だから、
こんなことを言ったら大変だ。
父親をからかっているのならまだしも、当の与太郎は大まじめだからどうにもならない。
そこで、紙に文句を書き、カンニングさせることにした。
父親がとくに力を入れて教えたのは、叔父が気にしていた台所の節穴と、かわいがっている
牛のほめ方。節穴は秋葉神社のお札で隠せば火の用心にもいい、牛は天角地眼、一黒馬鹿、
耳小歯違とほめろと言い聞かす。
地眼というのは眼が下をにらんでいること。一黒は体が真っ黒、歯違は乱杭歯という意味。
いずれも牛をほめるときの独特の表現。
書いたものを懐に入れて叔父の家に着いた与太郎。早速、普請をほめはじめる。
挨拶の仕方から、天井は薩摩のウズラ木理あたりまではそつなくこなし、まずは上々の
滑りだし。叔父も少し見直した様子だ。
「佐兵衛のかかあは」
「なに」
畳でちょっと失敗しそうになり、こっそりカンニングペーパー。まだ見せてもらっていない
庭石までほめてしまったのはご愛敬。
とにかくだいたいのところはうまくほめ、台所の節穴に秋葉様のお札も上出来。感心した
叔父は娘にも会わせようとする。
父親からは何も教えてもらっていない予想外の展開。しかし、与太郎は気にせずにほめだした。
「天角地眼、一黒馬鹿、耳小歯違。いい娘だ」
「何言ってんだ、与太郎。そりゃ牛ほめだ。牛ならあすこで遊んでる」
「いい牛だ。でも汚ねえなあ」
おやっと叔父が見ると、牛がちょうど糞をしているところ。尻の穴からボタボタ。
「あの穴が気になるなあ」
「秋葉様のお札をお貼んなさい。牛穴が隠れて、屁の用心がいい」
立川志の輔 古典落語100席引用
与太郎さん、もう一人前ですな。
与太郎といえば、ガキのころはユウシュウデぇ~♪親の来た伊勢に受けて♪
な~んてなぁ。
与太郎でもそら・あかね。