歌織ちゃんの容態は日に日に悪くなっていきました。
輝いていた瞳もうつろな感じになていきました。
施設の担当者の話によると、この1週間が山場だということでした。
話は前後しますが、歌織ちゃんは大学卒業後、自分の育った施設の職員になりました。
入院してからは施設の人が身元保証人となりいろいろな世話をしてくれていました。
私は歌織ちゃんの食べたいもの観たいものを何でも準備してきましたが、
歌織ちゃんは何も話さなくなってしまいました。
私は可能な限りそばにいました。
そして、ちょうど今頃の季節で、蝉時雨の賑わしいころ、携帯に着信があり、
職場で私は歌織ちゃんの死を知りました。
残念ながら通夜には参加できず、葬儀の場で、薄化粧をした歌織ちゃんの顔を
見ました。
幸い苦しまずに安らかに息を引き取ったということで、寝ているような表情でした。
葬儀はしめやかに行われ、遺骨は施設を運営するお寺に納められました。
自分でも不思議なくらい涙が流れませんでした。
葬儀の帰りに施設の人から一通の手紙を受け取りました。
歌織ちゃんの筆跡でした。
「鶴添君。これを読んでいるということは私はもうこの世にいないんだね。
本当にいろいろありがとうございました。
お礼の意味を込めて正直に言うね。
大学時代、鶴添君のことが好きでした。
そう、これはラブレター。
でも、あなたは学校の先生になって素敵な女性と結婚して、
健康な子供を授かって幸せな人生を送るべき人だと思いました。
私と付き合うと鶴添君は優しいから私のために生きようとしたでしょう。
それが耐えられませんでした。
私は物質的にも精神的にもたくさんのものをもらいました。
この写真はお礼になるかな…。
でも奥さんには見せないでね。
もちろん部屋に飾ったりしないこと!(やりそうで心配)
最後に…。私と出会ってくれてありがとう。
再会してくれてありがとう。
これからは家族のためにピアノを弾いてね。
私は空の上でいつも聴いています。
さよなら。(オフコースの曲みたい)」
涙が止めどなく流れました。
手紙と写真が濡れないようにするのが精一杯でした。
私が結婚していて子供もいることを知っていたのです。
写真にはウエディングドレス姿の歌織ちゃんの隣に
タキシード姿の私が写っていました。
合成写真を合成されてしまいました。
家に帰ると妻の第一声は、
「写真はまたあなたのお友達に頼んだんだからね。お礼言っといて。
どっか好きなところに張ったら?」。
そう、合成の合成は妻の仕業でした。
歌織ちゃんには内緒で大学時代の友人に頼んだらしいのです。
でも写真は張らずに、大学時代のアルバムに付け足しました。
これからは家族のために生きよう。家族のためにピアノを弾こうと
決めました。
しかし、その時にはすでに私の心は崩壊していたのでした。
~第9回終わり~
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輝いていた瞳もうつろな感じになていきました。
施設の担当者の話によると、この1週間が山場だということでした。
話は前後しますが、歌織ちゃんは大学卒業後、自分の育った施設の職員になりました。
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私は歌織ちゃんの食べたいもの観たいものを何でも準備してきましたが、
歌織ちゃんは何も話さなくなってしまいました。
私は可能な限りそばにいました。
そして、ちょうど今頃の季節で、蝉時雨の賑わしいころ、携帯に着信があり、
職場で私は歌織ちゃんの死を知りました。
残念ながら通夜には参加できず、葬儀の場で、薄化粧をした歌織ちゃんの顔を
見ました。
幸い苦しまずに安らかに息を引き取ったということで、寝ているような表情でした。
葬儀はしめやかに行われ、遺骨は施設を運営するお寺に納められました。
自分でも不思議なくらい涙が流れませんでした。
葬儀の帰りに施設の人から一通の手紙を受け取りました。
歌織ちゃんの筆跡でした。
「鶴添君。これを読んでいるということは私はもうこの世にいないんだね。
本当にいろいろありがとうございました。
お礼の意味を込めて正直に言うね。
大学時代、鶴添君のことが好きでした。
そう、これはラブレター。
でも、あなたは学校の先生になって素敵な女性と結婚して、
健康な子供を授かって幸せな人生を送るべき人だと思いました。
私と付き合うと鶴添君は優しいから私のために生きようとしたでしょう。
それが耐えられませんでした。
私は物質的にも精神的にもたくさんのものをもらいました。
この写真はお礼になるかな…。
でも奥さんには見せないでね。
もちろん部屋に飾ったりしないこと!(やりそうで心配)
最後に…。私と出会ってくれてありがとう。
再会してくれてありがとう。
これからは家族のためにピアノを弾いてね。
私は空の上でいつも聴いています。
さよなら。(オフコースの曲みたい)」
涙が止めどなく流れました。
手紙と写真が濡れないようにするのが精一杯でした。
私が結婚していて子供もいることを知っていたのです。
写真にはウエディングドレス姿の歌織ちゃんの隣に
タキシード姿の私が写っていました。
合成写真を合成されてしまいました。
家に帰ると妻の第一声は、
「写真はまたあなたのお友達に頼んだんだからね。お礼言っといて。
どっか好きなところに張ったら?」。
そう、合成の合成は妻の仕業でした。
歌織ちゃんには内緒で大学時代の友人に頼んだらしいのです。
でも写真は張らずに、大学時代のアルバムに付け足しました。
これからは家族のために生きよう。家族のためにピアノを弾こうと
決めました。
しかし、その時にはすでに私の心は崩壊していたのでした。
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