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刻塚-(NO-26)

2009-12-02 02:21:55 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-26)

「ほんとうだ、儂は最低な男だった。公子さん猿渡さん。本家は平野さんを殺したのは自分だと言って、警察に自首すると言ったんだ。それを止めたのは儂だ、儂等七人なんだ。本家は悪くない、皆には迷惑を掛けて済まなかった。この通りだ」。
山田太一は一人一人に頭を下げ、公子に向かって頭を下げたままだった。
すると、表が騒がしくなった。猿渡は来たかと部屋を出た、後に麻代や手島加奈が追って全員が表に出た。
筒井警部補を先頭に鑑識班が入って来た。
それを見た宿泊客が騒いでいたのだ。

「皆さん、この宿の事ではありません。ご存じと思いますが、この下の一時塚を調べに来ただけですから」と、主は客を宥めていた。
そして主は事務所に走り、社の鍵を手に戻って来た。「ではお願いします」と、筒井警部補に渡した。隣には篠ノ井署の増井警部補が浮かない表情を見せていた。
「増井さんお願いします」筒井警部補は増井の顔を立てて鍵を渡した。
納得した様に鍵を手に「さあ、調査に向かう」と、鑑識班を従えて下った。

「どうする、猿渡も来るか」。
「ええ、後から行きます。それと雑木林の中も調べて下さい。何処かに出入り口かなんかある筈ですから」。旅館の主や親戚たちは目を見開いて猿渡を見た。
「それはどう言う事でしょう」主はキョトンとした顔をして訊いた。
「アッ!十年前に地質探査した時に計器に出た放射状の空洞の事ですか」。
「ええ、ともかく発掘すれば何も可も明らかになりますよ。推理通りならね」。
「じゃあ先に行っているから、山田さん、お社の周りの雑木林を切り開く事になりますがいいですね」

「はい、あの一帯は私共の私有地ですからお好きにどうぞ」。
筒井警部補は頷くと額の汗を拭い、南田刑事と小走りに下って行った。
「さて、麻代着替えて俺達も行くか。手島、君も着替えた方がいいぞ」。
「私着替えなんかもって着てないわよ。こんな事になるとは思ってなかったもの」。「手島さん、私のがありますから良かったらどうぞ」。
「そうしろ手島、背丈も体系も麻代に似ているから貸して貰え」。
手島加奈は頷くと麻代と二人は部屋に戻った。間もなく二人は着替えて戻って来た。麻代は猿渡とペアのトレーナーの上下を着て来た。手島加奈はジーンズにピンクの長袖のポロシャツに着替えていた。

「なんか学生の頃に戻ったみたい、若過ぎないかしら」と、手島は照れていた。
「そうだな、おばさんには若いかな」と、猿渡はニヤッと笑った。
「そんな事ないよ、啓太さんと同い年とは思えないもん、若いですよ」。
「エッ・・・じゃあ俺はオジンってか」。麻代は世事の積もりだった。ペロッと舌を出して笑ってごまかした

「猿渡さん、私達も公子を連れて後から行きます。それから、お昼も用意させますから、警察の方々にはそうお伝え下さい」。
こうして猿渡は麻代と手島を連れて一時塚に向かった。宿の駐車場は警察車両で一杯になり、道路に停められ、巡査が五人が警備していた。
社へ通ずる山道に入ろうとすると制止された。
「失礼、ここは立ち入り禁止ですので」と、外の巡査も集まって来た。
手島加奈はジーンズのポケットから警察手帳を出し、頁をめくって掲示した。

「警視庁捜査一係りの手島です。聞いてないんですか」と、ムッとした顔を見せた。「失礼しまた警部殿。元警視正の猿渡さんご夫婦ですね、失礼しました。どうぞ」全くもうっ、ムッとした顔を見せた手島加奈は立ち入り禁止のテープをくくった。
「そう怒るなよ、ここは東京じゃないんだから。それに、その恰好じゃ警部殿には見えないから。アッハハハハ」
「それはそうだけどさ、制止する前にまず訊くのが当たり前でしょ。教育が成ってないからよ。あの巡査長いい年じゃない」。
「そう言うな、ああ言う警官がいるからお前がいるんだろ。警部さんよ」。
「もうっ、はいはい。何言われても二階級も上の警視正さんには逆らえないわね」
この二人、元は親密な間柄だったんだ。女の直感と言うのか、そんな二人の屈託のない会話で麻代は感じて取っていた。そして麻代は猿渡の手を握った。
猿渡は気にもせず、麻代の手を握り返した。そして肩に腕を回すと林の道を進んだ。「猿渡君、まだなの。なんて遠いんだろう」と、手島は足を停めて首に下げたタオルで額の汗を拭った。

「都会育ちには疲れるよな、後五分くらいだよ。頑張れ、直ぐだから」。そう言うと猿渡は左手を延ばし、手島の手を取ると少し上り勾配の道を歩き出した。
手島加奈はポッと頬を染めた、「ああッらくちんらくちん」と、手島は引っ張られる様に踏み固められた雑草の道を歩んだ。
NO-26-49