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小説・半日の花嫁-(NO-3-)

2010-11-27 11:17:57 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-3-)
「はい、もうマンションも家具も何も可も買って揃えてあるんです。それを誰が要子を、それに義母さんまで死に追いやったんだ。僕は許さない」。
「椎野さん、新田さん。本当にご愁傷様です。今夜は此れで失礼します。私達も全力を挙げて捜査をしています。明日にでも話を伺いにいきます」。
二人はただ頷くばかりだった。そして刑事が帰ると、看護師が来た。死亡診断書を書く為に住所など記入して欲しいと義父である椎野博幸を呼びに来たのだ。
三人は看護師に続いて医師の部屋に向かった。
「椎野さん、残念です。急性心不全です。もう搬送された時には既に心停止の状態でして、自発呼吸はありませんでした。色々やりましたが手の施しようがありませんでした、とても残念です」。
こうして説明を聞き、死亡診断書を貰うと病院が手配した葬儀屋が到着し、義母の遺体を柩に入れて搬送した。その後を三人を乗せて実家に連れて帰った。
実家のある城東町に着くと、明の母親が知らせた椎野家の親戚が既に家を開けて準備をして待っていた。そして夜中の一時過ぎから葬儀屋が来て、通夜の支度を始めた。
一日にして娘と妻を亡くした父親は、ただ呆然と妻の柩の前に座っていた。
親戚もまた知らせを聞いて続々と駆け付けて来た、憔悴しきった父親や明には、とても声を掛けられる状態ではなかった。
「お兄ちゃん、取り合えず帰ろう。着替えて少し休まないとお兄ちゃんが参っちゃうよ。叔父様には親戚の人達がついているから帰って休みなさいって」。
「芳美有り難う。でも帰っても眠れないよ」。
「うん、分かっている。でも休まなきゃ駄目だよ。お願いだから」。
明は妹の言うがままに立ち上がると、「義父さん一度帰って来ますから」。と義父に言葉を掛け、母親に乗せられて三人で帰って行った。
母輝子はルームミラーに写る我が子、その憔悴しきった顔を見ながら声を掛ける事が怖くてならなかった。そして黙ったまま家に着いた。
「母さん、芳美、有り難う。僕は大丈夫だから」。
明は込み上げる悲しみを必死で堪えていた。そして二階に駆け上がった。
「お母さん」。
「うん、今夜はそっとしてあげなさい。芳美も大変だったわね。でもお母さんまでショックで亡くなってしまうなんてお兄ちゃん辛いわね」。
明は部屋に入ると、机の上に置かれた要子と撮った写真を見詰めて泣いていた。
夏休みに二人で行った山梨の清里高原、オルゴール館の前、大好きな乳牛を美味しそうに飲む要子の笑顔、松原湖でボートに乗って揺れるボートに怖がる顔、そんな要子の姿が走馬灯のように次から次へ浮かんでは消え、涙を流していた。
すると、冷暗室でもの言わぬ要子の姿、あの冷たい頬、一瞬に幸せを奪った犯人に明の憎しみが腹の底から込み上げていた。
いつまでも明かりが点いてる息子の部屋を母は覗いた。机の前に座り、写真を抱えて泣きながら寝入ってしまった息子の姿があった。
母は涙を流し、そっと毛布を掛けると明かりを消して部屋を出た。
すると、隣の部屋の妹の芳美が心配そうにドアを開けた。
「お母さん、お兄ちゃん大丈夫?・・・」
「うん、要子さんの写真を抱いて眠っていた。見てられないわ。明日は早いから芳美も早く寝なさい」。
「お母さん婚姻届の事知っていたの。今日婚姻届出して来たって本当なの?・・・」。
「ええ、随分前から要子さんが話していたわよ。誕生日と結婚記念日を一緒にしたいって明もそれには賛成で今日出してきたの。それなのにどうしてこんな事に・・・辛いわね」。
そう言うと母の目からポロポロと涙が流れた。そして下へ降りて行った。
芳美は真っ赤な目を細め、明かりの消えた兄の部屋を見ていた。
翌朝、明を起こしに来ると既に起きていた。
「母さん、夕べはごめん。もう大丈夫だから」。
「うん、さっき警察から電話があってね。要子さんの遺体はどちらに運んだら良いのかって言うから、ご実家の方で一緒にお葬式をする事にするって伝えたけど良いわね」。
「うん、でも名前は新田要子で出して欲しい。半日だけの花嫁だけどさ」。
輝子はその言葉に堪えていた涙がドッと溢れ、両手で顔を覆った。
そして後ろで聞いていた芳美の啜り泣く声が明に聞こえた。そしてドッサと音をさせて芳美は廊下に座り込んで泣き出した。
明は母の肩をポンッと叩くと部屋を出て、泣きじゃくる妹の肩を抱くと涙を拭いていた。「お兄ちゃんもお義姉さんも可哀相すぎる・・・」。
芳美は明に抱き着くと嗚咽して肩を震わせていた。
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