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小説・半日の花嫁-(NO-9-)

2011-04-10 13:02:05 | 小説・半日の花嫁


小説・半日の花嫁-(NO-9-)

そう言うと男はポケットから封筒を出して明に差し出した。
明は受け取って封を開けるとお金が入っていた。明は男を見た。
「その時に立て替えて頂いたお金です。昨日給料と遅れていた賞与を貰ったもんですから返そうと思っていたんです。そしたら今朝のテレビで殺されたって聞いて。それで・・」。
男は腕を目に充てると声を出して泣き始めたのだった。
「そうだったのか。要子の奴誰にも優しいから。山村さん、要子に直接返してやって下さい。来てくれてありがとう」。
「はい、僕が線香をあげて良いんですか。有り難うございます。新田さん、椎野さん僕に言ったんです、もっと清潔にして頭の薄い事なんか気にしないで頑張ってればきっといつかは良い人が見付かるって。
あんなに優しい天使みたいな女性を誰が殺したんですか。犯人が憎いです」。
矢部刑事たちは唖然としなが村山を解放した。明は家に上げると要子の柩の前に連れて行った。村山は涙を流しながら柩の上に両手で封筒を置き、焼香した。
「椎名さん、有り難うございました。僕は悔しいです」。村山は震えた両手を合わせ、明と良美に挨拶して寂しそうに帰って行った。
そして午後になると信州の安曇野から、他界した父親の親戚も駆け付けた。しかし、良く言う者はいなかった。安曇野を捨てて出て行ったから、とか。
殺されるような女性と付き合うからだとか、明たちは散々言われても黙って聞いていた。そして焼香を済ませるとそそ草に帰って行った。
そんな明の隣にいた母輝子は親戚が帰ると人知れず塩を撒いた
その晩、臥せっていた要子の父親もやっと起きて来た。窶れてくぼんだ目には涙が一層哀れに思えてならない明だった。
「明君、皆さん、ご面倒をお掛けして済みません。私はどうしたら良いか分からなくなりました。こんな事がまさか自分の身に降り懸かって来ようとは夢々思いませんでした」。
フ~ッと溜め息を漏らすと肩をガックリ落とし、遺影を見ていた。
その晩、明は一睡もせずに二人の線香を絶やさず、ブツブツ何か語り掛けていた。
そんな兄を支えるように芳美は寄り添っていた。
翌日。朝から読経が流れる中、しめやかに告別式が行われた。十一時には出柩の運びとなり、要子と義母の柩は二台の霊柩車に乗せられ、葬儀場に運ばれた。
明は一人待合い室をでると、立ち登る煙突の煙りをじっと見詰めていた。

そんな兄を、芳美は待合い室の窓から見て、言い知れない胸騒ぎを覚えるのだった。
芳美が席を立つと母は娘の手を持った、そっと首を横に振って止めた。
「一人にしてあげなさい。明は一人で要子さんを見付けて来て結婚も決めたの、今度も一人で送ってやりたいのよ。明はああやって要子さんを忍んでるの」。
「うん、お兄ちゃん可哀相で」。
明は微動だもせず、じっと煙突を見つづけていた。そしてスピーカーから荼毘が終わり、集合の知らせが流れた。明は真っすぐに釜前に走った。釜から出された要子の変わり果てた姿に目を見開いて涙を流していた。
その涙が要子に落ち「ジュッ」と蒸気になって消えた。そして係の人の手でブリキの皿に入れられた。要子、僕がきっと敵を討ってやるからな。そう心に誓う明だった。
こうして葬儀はつつがなく悲しみの中で終わり、一週間が経った。
明は要子と暮らす筈だったマンションに仏壇を買うと家を出た。
警察では未だ犯人に結び付く手掛かりが掴めず苦慮していた。
そして更に時間は流れ、九月一日、突然要子の父親が明を訪ねて来た。
「明君、此れは要子が引っ越しの為に荷造りしてまだ部屋に置いてあった物です。何が入っているのか知らないが明君に渡したい」。
明は幾分顔色が良くなった義父に安心したようだった。ダンボール箱を受け取るとズッシリ重かった。
「義父さん、要子とここで数日過ごしただけです。要子は此々にベビーベットを置いてとか・・・ここに・・・」、明は声に詰まってその先は言葉にならなかった。
そして仏壇の前に座ると、じっと遺影を見詰めていた。
そんな明を見て、「明君、元気を出してくれないか。そんな明君を見たら娘も悲しむ。私も頑張るから。ではまた来ます」義父は元気を出すように涙ながらに言い聞かせた。
そして焼香を済ませると義父は部屋を見渡して帰って行った。
そして、昼になると母親と妹が食事を持ってやって来た。
「お兄ちゃん、そろそろ外へ出なきゃ駄目だよ。要子さんだってそんなお兄ちゃん見たくないって言っているよ」。
「分かっている。なあお袋、店を手伝わせてくれないかな」。NO-6-12
あれほど店は継がないと言っていた明が要子の死で気持ちが変わったようだった。そして母は黙って頷いた。
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