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小説・半日の花嫁-(NO-1-)

2010-10-10 12:29:08 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-1-)

半日の花嫁
八月二十日木曜日、その晩、新田明はライター。静岡市内で起こった主婦殺しの事件をまとめたレーポートを書き終わってベッドに入った。
新田明二十八才、彼は青山学院法学部を出て弁護士であった。が、三年前に止め、フリーのルポライターとして社会に飛び出していた。
実家は信州の安墨村にあったが、父親が事故で他界すると母輝子の実家である静岡市に妹の良美と一家三人で越して十年、市内に安曇野と言う料理屋を開いて母輝子は女将として二人の子供を大学に出した。
娘の良美と板前の川井吉雄、店員の望月芳乃の四人で店を営っていた。
仕事を終えてベッドに入ったばかりの明の所へ電話が入った。妹の良美が部屋に来た。
「兄さん、兄さんったら電話よ。警察から、早く出てよね」。
明は眠い目をこすりながら受話器を取った。「新田です?・・・」
「新田明さんですね、中央署の矢沢と言います。或事件のことでお聞きしたい事があるんですが。できれば署まで起こしいただけないでしょうか」。
勘弁してくれよ、俺はいまやっと眠ったところで。それに南署の矢部なんて刑事は聞いた事なんかないぞ。そう思いながら聞いていた。
「それでどんな事を訊きたいんですか?・・・」。
「はい、夜分恐縮ですが、お話ししたようにお越し頂けないでしょうか?・・・」。
「明日にしてくれませんか。仕事でここ二日ばかり寝てないんです」。
すると、矢部は受話器の口を押さえたのか何も聞こえなくなった。
「分かりました。では伺って良いでしょうか?・・・」
それじゃ同じだろ、そう思いながら「はい、どうぞ」。
全くもう、机の時計を見ると午後十時を少し回ったところだった。明はその電話で目が冴えてしまい、顔を洗って店に降りた。
そして、勝手に冷蔵庫からビールを出して空いている座敷に入ると栓を抜いて飲み始めた。
「お兄ちゃん、しっかり貰うわよ。はい、おつまみ」。
「うん、有り難う。後から刑事が来るって言うから通してやって」。
「分かった、それでご飯は要らないの?・・・」。
「食べる、芳美は何を食べたんだ。同じので良いからくれよ」。
「うん。じゃあ待っていてね」。芳美は頷くと調理場へ入って行った。
そして十分もすると、「お兄ちゃん来たわよ」芳美は刑事を二人案内しながら食事を持ってきた。
「夜分申し訳ありませんな。早速ですが宜しいですかな」。
瞬間、感じた。嫌なタイプだ、いったい俺に何を聞きたいと言うんだ。明は愛想笑顔を浮かべながら面倒臭くて仕方がなかった。
「ええ。食事しながらで良いですよね」。
「どうぞ。実は、一時間ほど前に高草山の焼津市側にある遊歩道の空き地に若い女性の変死体が発見されましてね、持ち物は何もなかったんですが。少し離れた茶畑の中から女性のバックが見付かったんです。
その中には運転免許証がありまして、城東町の椎野要子さん二十一歳である事が判明したんです」。
明はその名前を聞いた瞬間、持っていた箸を落とした。そして目に涙を浮かべながら刑事の目を睨みつけた。
「嘘だ!、要子が死ぬ分けないだろ、冗談は止めてくれ!・・・」明の怒鳴る声に母と妹は何事かと座敷に走って来た。
「お兄ちゃん、なに!・・・何があったの?・・・」
「明、どうしたの。そんなに大きな声を出して。刑事さん」。すると、来ていた常連の客たちが心配そうに部屋を覗きに来ていた。
「お袋、要子が死んだって言うんだ。俺は夕方病院で会って来たんだぞ。それがどうして高草山で死ななきゃならないんだ」。
すると、母輝子と芳美の顔から血の気が引いて青ざめていた。そして客達も明と椎野要子との関係は誰もが知っていた。
「それでですね、御両親が旅行と言う事で先程連絡が取れまして、こちらへ向かわれています。出来ましたら婚約者でる貴方に確認に来て頂きたいんです。外にも色々とお聞きしたい事もありますので」。
「お兄ちゃんと要子さんは来月結婚するんだよ。刑事さん、本当に要子さんなんですか。何かの間違いじゃないんですか?・・・」
刑事は黙ったままだった。明はそっと立ち上がると靴を履いた。
「刑事さん、乗せてって下さい。僕はビールを飲んでしまいましたから」。
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