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おはようございます。
本日は、大島真寿美『結 妹背山婦女庭訓波模様』(文藝春秋)の
感想文に、どうぞ、おつきあいくださいませ。
直木賞受賞作『渦 妹背山婦女庭訓魂結 』(文藝春秋)から第一作、
しかも2年ぶりのうえ、受賞作の続編です。
良かった!
ずっと楽しんで読むことができましたから・・・
最近、小説を読んでいると、辛くて辛くて、
最後に、ふっと肩の力が抜けて、気がつけば、ほっこり・・・
そんなパターンばかりだった気がします。
それだけに、なおさらだったのかもしれません♫
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実を言うと、図書館に予約はしたものの・・・
この本は、そんなに期待していませんでした。
というのも、前作の『渦』が、わたしには今ひとつで・・・
あんなにピンポイントな内容で、大衆性の高い文学賞である直木賞を
受賞して良いのだろうか・・・と、
当時、本好き仲間と話し合ったものです。
直木賞受賞作・云々を抜きにしても、主人公である、近松半二が
創作の上で、悩み苦しみ、もがく様子ばかりが続くので
読んでいて、苦しいばかりでした。
それが・・・どう!?
この変貌ぶりは!?
先走りましたが、お話は・・・江戸時代後期、
「操浄瑠璃(あやつりじょうるり)」、つまりは現代で言う「文楽」に
魅せられた三人の人物による、群像連作小説です。
一人目は、耳鳥斎(ニチョウサイ)寂物屋(現代で言う骨董店)の主人にして、
画家であり、義太夫の語りも玄人を超えるという
ひょうひょうたる人物。
ついで、同年の徳蔵も娼家の大店のぼんぼんながら、商売そっちのけ・・・
そして、二人の師である近松半二の娘、おきみ。
はるかに年下ながら、浄瑠璃については父・半二仕込みの娘です。
それぞれに、操浄瑠璃に、魅せられ、
いや「魅入られて」いきます。
三者三様ながら、道頓堀での出会いから、
十数年にわたるつながりを読むことは、
上方の操浄瑠璃の流れに身を任せていくことともなりました。
さて、これだけの歳月ですから、人の死もあれば、浮き沈みや
果ては京都の大火事まであります・・・
ところが、読んでいて、ちっとも気分が沈みません。
耳鳥斎の語りもかくや、と思わせられます。
浄瑠璃作者の菅専助が言いました(124頁)
「きいているもんをこう、浮き浮きさせる。おもろい味がある」と。
本書も、まさに!
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これは、私の勝手な想像ですが・・・
作者の大島氏は、直木賞から受賞から、新作(本作)まで空白があります。
本作の冒頭・第一話は、2020年春に雑誌掲載されました。
おそらく、コロナ禍の不安が忍び寄る頃の執筆だったことでしょう。
連載は続き、2020年12月号に雑誌掲載された「月かさね」には、
こんな一節があります。
「おんなし日々をただもくもくと暮らしているようで、季節は巡り、時は
過ぎる...くりかえしくりかえしやり過ごし、やがてなにかを手放していく。
...そう思うと、なにやら寂しい気にもなるが、過ぎ行く月日を
だいじにだいじに慈しみたくもある。飽きもしないくりかえしこそを
愛おしいと思う。」235頁
これは、今、誰しもが感じていることではないでしょうか。
コロナ禍以前、くりかえされていた日常が、今、たまらず愛おしい・・・
あの日々が、どんなにかけがえのない日々だったか・・・
・・・少なくとも、私の周囲では、そんな話が、よく出ます。
大島氏も、コロナ禍に遭い、お心が影響されたのではないかしら・・・
その結果が、今作『結』であったように思えるのです。
いずれにせよ、おもしろく読み通し、
明るく前向きな心にしてもらえました。
そして、歌舞伎や人形浄瑠璃の興味があるなしにかかわらず、
どなたも、楽しめる一冊でしょう♫
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そもそも、この本を期待もせずに、読み始めたのは、
最近、歌舞伎でも「丸本物」に惹かれているからです。
「丸本物」とは、もともとは、歌舞伎の中でも、
もともとは人形浄瑠璃の作品だった演目を指します。
歌舞伎は、幸様こと松本幸四郎丈に惹かれ、早30年・・・
昔は、「丸本物」が、かかると、睡魔との戦いでした。
それが、最近面白くてならないのです!
これは、ぜひ、大本である「文楽」も観てみなくては・・・
そう思っていた矢先に、本書の登場でした。
読み終えて、いっそう、その想いが募りました。
先月の歌舞伎座公演「盛綱陣屋」も、近松半二(合作)です。
(→「九月大歌舞伎」へ♫)
『渦』以来、半二作品に親近感を抱いて、舞台を拝見するようになりました。
生きていると、こんな風につながってくるんですね・・・
やっぱり、この世は耳鳥斎の言う「戯場」なのかもしれません・・・
楽しいなぁ・・・
・・・と、思わせてくれたところが、本当にありがたい一冊でした。
さて、わたしの文楽デビューは、いつになるのか・・・
コロナ禍次第でございましょうか・・・w
本日も、おつきあいいただき、どうもありがとうございました。