漱石と同僚の英語の教授で後に私立九州学院を設立された遠山参良先生が明治40年4月8日より4月21日熊本へ帰られるまでの約2週間東京の各英語学校を視察し五高の英語教育上の実地の研究を行われている。その復命書を掲示する。
遠山参良の復命書
復命書
御命令に依り四月八日学術研究の為上京仕り英語教授上実地の研究を遂け同月二十一日帰任仕候其大要左の通りに有之候
一東京正則英語学校
校長斎藤秀三郎外一名の英語教授を参観し斎藤氏に付き英語教授に関する意見を聞く
一東京高等師範学校附属中学校
平田教授渡邊教諭篠田教諭スウィ―ト雇教師の英語教授を参観す
教授和田講師に就き前項記載の諸点に関し意見を聞く
一東京帝国大学文科大学
ローレンス雇教師の英文学講義を傍聴し同氏及びロイド、スウィフト両講師に就き文科語学試験に関し注意すべき事項を問い高等学校より進入し来れる学生の英語に就き意見を聞く
一東京帝国大学図書館
和田館長に面会し英語学に関する書籍の取調べをなす
一東京高等師範学校
一東京外国語学校
浅田教授の訳解 村井教授の会話 メウドリー雇い教師ノセーキスビヤ講義を参観す
一東京高等商業学校
神田教授の読方ロイド雇い教師の和文英訳の授業を参観し 神田、高島両教授に就き同校に於ける英語教授の状況を問い内外教師担任学科の連絡訳解教授法 教科書選定等に関し意見を聞く
一 第一高等学校
モーリス雇い教師の授業を参観し 新渡戸校長 畔 岡倉教授の読み方、訳解石川教授の訳解 スウィート雇教師の和文英訳の授業を参観す
一 東京私立女子英学塾
ハ―ツホールン、グリーン外一名の英語教授を参観しハ―ツホルーンに就き同塾の英語授業を質し一般英語教授法に突き意見を聞く
右復命仕候也
明治四拾年五月二十三日 教授 遠 山 参 良 ㊞
デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説
- 遠山参良 とおやま-さぶろう
1866-1932 明治-昭和時代前期の教育者。
慶応2年1月13日生まれ。熊本洋学校,京都同志社をへて,長崎のカブリ学校(現鎮西学院)を卒業。同校の教師をへて明治25年アメリカに留学。33年夏目漱石(そうせき)の後任として五高英語科主任となる。44年九州学院初代院長。昭和7年10月9日死去。67歳。肥後(熊本県)出身。名は「さんりょう」ともよむ。註60年前の九州学院ではとおやまさんどう先生と読むようにと大分教えられた事が忘れられない。