五高の歴史・落穂拾い

旧制第五高等学校の六十年にわたる想い出の歴史のエピソードを集めている。

夏目漱石教授の復命書

2012-04-09 04:33:26 | 五高の歴史

昨日の続きで今朝は福岡の尋常中学修猷館を参観しているのでその復命書を転載する。漱石は授業を参観してこの教諭は教え方も良いと感じた教師に対しては実名を出しているが、これは教え方が気に入らないと感じた教師の実名は出していなく某氏として教師のプライベートも考えている。この修猷館の訪問では実名を出しているので教師の教え方も良かったのだろう。

 第二    福岡修猷館 十一月九日 

   授業参観時数四時間九時より二時に至る 参観年級五年四年三年二年級 

二年級 課目 訳読 用書 読本
教師 平山氏
生徒人員 五拾名許
教授法  最初に各部の冒頭に於る綴字及び発音の練習をなし次に読方に移る初め教師模範を示し次に生徒一節宛之を練習す此の如くする事二回初回は出来よき生徒よりし次回は下位の生徒に及ぶ 読方の教授法頗る厳格にして少を疵寛せず訳読の教授法も亦読方に同じく教師先づ一節を訳し上位の生徒之に倣い一巡の後下位の生徒之を復習する事一次にして終る傾向全伜の傾向は読方に重きを置きて厳に発音「アクセント」を練習するものの如し故に生徒は此点に於て頗る進歩せるが如し此級の生徒は中学に入りて始めて英語を学べるものなきも他中学の生徒に比して少なくとも普通の点に於いて優るべきを信ず訳読も亦他と異にして生徒は自宅にあっては只復習するにとどまりて翌日の部分を下読するの労なきを以て自然と既に諬ひ得たる部分を反復するの餘地あるべし
三年級  課目 訳読 用書 芽記読本
教師 鐸本氏(農学士か)
生徒人数四拾名許
教授法 此級にあっては二年級と異にして生徒は各自下読の上にて教室に入る而して指名せられたる生徒は一節位宛教科書を音読の上にて和訳す而るに教師又重ねて之を訳す
傾向 此級に在たは二年生程発音法に注意せざるが如く教師生徒共に重きを置くが如し

四年級 課目 和文英訳新艇進水式
教師 小田氏(同志社卒業後米国に遊学せる人)
生徒人員四拾名許
教授法 生徒両三名をして自作の英訳を黒板に書せしめ教師之を批評訂正す尤も生徒の困難を観ずべき感単語字句は予め之を教得るものの如しかく一遍訂正せる者を浄書の上教師に呈出せしむ
傾向 教師は常に英語を用いて殆ど日本語を雑へず生徒も亦つとめて英語を使用せんとするものの如し文書は固より瑕疵なきにあらずと雖も中学四年生の文章としては大に観るべきものありと思考す

五年級 課目 訳解 用書 「ゴールドスミス」論文集
教師 小田氏
生徒人員四十名許
教授法 生徒順次に一節位宛を和訳するの外に毫も日本語を用いず教師生徒に英語ヲ使用するに熱心なるが如し而して此時間は訳読の課に属すと雖も実際は会話及び文法の授業となつものにて現に五年級の英語は和文英訳を除く外は皆此授業中に含まるるものの由しなり

傾向 西洋人を使用せざる学材に於て斯の如く正則的に授業するは稀に見る所にして兏うて其功績も此方面に向かっては頗る顕著なるべきを信ず

熱心に漱石の報告書を転載していたところ眼の調子がおかしくなり頭が痛い感じになってしまった。困ったものである。