トーキング・マイノリティ

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新世界『透明標本』展

2019-08-25 21:40:13 | 展示会鑑賞

 仙台駅東口にあるTFUギャラリーミニモリの新世界『透明標本』展を見てきた。7~8月には子供の夏休みに向けた特別企画がよくあるが、大人も存分に満足させられる展示品ぞろいだった。『透明標本』展では標本の殆どは海洋生物だったが、ウズラの透明標本もあった。TFUギャラリーミニモリの公式HPでは特別展をこう解説する。

「標本」という印象からはあまりにもかけ離れた美しさは、まるで鉱物によって形作られたかのよう―。
 たんぱく質を酵素により分解し、肉質を透明に、そして硬骨を赤紫、軟骨を青色に染色するという骨格研究の手法をベースとし、“本物の生物標本”でありながら「命」をより身近に感じる“造形作品”としての魅力も合わせもつ「透明標本」。学術標本としてだけでなく、気軽に感じられるサイエンスの入口として、芸術やアート作品として、または哲学の扉として、今までにない新しい形で展示します。

 学校の実験室などに置かれている透明でないアルコール漬けの標本だとやはり不気味な印象は否めないが、『透明標本』は完全なアート作品となっていた。透明の肉体を通して見える染色された骨格がくっきりと浮かび上がり、赤紫や青く染められた骨は宝石のように美しく、造形美の粋に達していると感じた。
 尤も違和感のある展示も何点かあった。シャコ海老は赤紫というよりもショッキングピンクだったし、イカは軟骨動物のため青く染まっていた。ショッキングピンクのシャコや青いイカ、タコでは食べる気も失せる。



 全般的に展示は小ぶりな作品が多く、大きなものでも30㎝まで達しなかったと思う。やはり大きな生物、殊に哺乳類では透明標本にするのが難しいらしい。#透明標本には多くの画像がアップされており、上のものはウズラの透明標本。ウズラの骨格は恐竜に似ており、やはり恐竜は爬虫類ではなく鳥類の子孫らしい。
 会場にあった地球上の生物の97%は無脊椎動物という解説には驚いた。脊椎動物の頂点に君臨していると自惚れている人類からすれば意外だが、地球の全生物で脊椎動物は3%のマイノリティだった。



 圧巻だったのは、標本が浮かび上がるシーリングがはめ込まれた台に、灯りを取り囲むように透明標本の入ったガラス瓶を並べたコーナー。上の画像がそれで、ガラス瓶に当るライトが様々な色に変わり、とても幻想的な光景だった。まるで海にいるような想いにさせられ、殊に涼を感じたコーナーだった。

 一連の標本の作者は冨田 伊織氏。今回初めて氏の名を知ったが、公式サイトにある作者の経歴。
1983年生まれ。埼玉県出身。北里大学水産学部(現:海洋生命科学部)在学中に、研究用の透明骨格標本に魅せられ独自制作を開始。卒業後、東京の一般企業に就職するも岩手県に戻り、漁師見習いをしながら透明標本制作を続け、新世界『透明標本』として2008年に活動を開始。
 以降透明標本作家として現在に至る。日本国内はもちろん、アメリカの紀伊國屋書店ニューヨーク本店で作品を展示するなど世界中で注目集めている

 冨田氏の透明標本は会場でも売られていたが、一番安くて3千円(税抜)、しかも作品はメダカなみの大きさ。他は万単位の標本だったため、結局私が買ったのはヒレナガハギの写真がプリントされた缶バッチ。WEB図鑑で見るとあまり美しくないが、透明標本にすると赤紫と青のバランスが見事だった。私的には総じて平たい魚の方が透明標本にすると美しいと思った。

 夏休みの自由研究のテーマにはうってつけだが、海洋生物の骨の標本を喜んで見にくる大人の来場者も多く、しかも女性が多かった。ふと水木しげるの『幽霊画壇』(岩波新書)に載っていた「骨女」の話(50頁)を思い出した。青森県にお盆の晩に現われる幽霊で、文字どおり全身骨の女。骨女誕生の話は面白い。
 生前、醜い顔の女がいて、女は悲観して自殺する。年を経て女は骸骨と化したが、仲間の骸骨が言うには、「お前は骨になったら美しいではないか」

 それで女は気を良くして、裸のまま、カタリ、カタリと歩くようになったという。透明標本もウズラのように生前の方が愛らしいものがあったが、骨になったら美しい海洋生物は多かった。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
冨田伊織氏の作品をご紹介! (mobile)
2019-08-26 08:34:43
それが「哲学者ヴィトゲンシュタインの言葉×透明標本『透明な沈黙』青思社/2010,8,20第1刷」です。
このように紹介されると綺麗ですネ!
私のブログの書評では評価は辛めですが、標本写真は見ていて飽きません。
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Re:冨田伊織氏の作品をご紹介! (mugi)
2019-08-26 21:39:49
>mobile さん、

 TFUギャラリーにも冨田氏の著書が置かれていました。仰る通り標本写真は見ていて飽きないし、実物となれば尚更です。骨格標本がここまで芸術作品に昇華するのは想像もつかなかったでしょう。
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マッコウクジラの標本 (スポンジ頭)
2020-06-11 23:43:45
 透明標本ではありませんが、スケールが凄いので。
https://www.afpbb.com/articles/-/3287587?pid=3287587002
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Re:マッコウクジラの標本 (mugi)
2020-06-12 22:08:19
>スポンジ頭さん、

 さすがマッコウクジラのプラスティネーション標本は、スケールが桁外れです。人体のプラスティネーション標本は問題がありますが、クジラでも抗議する人たちが出てきそうな……
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