『君戀しやと、呟けど。。。』

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『溺れゆく』その弐拾参

2018-03-23 00:04:22 | 小説『溺れゆく』
カテゴリー;Novel


その弐拾参

 鄙びた港町だ。
 呑み屋くらいしか開いている店はない。仕方なく若者の集まる一角にできたカラオケBOXに入る。少なくとも、ここなら話を聞かれることはない。

「失礼ですが……」
 と言葉だけは丁寧に、だが充分威圧的に男に問いかけた。
「あなたは誰ですか」

 居酒屋での暴言を詫びようかとも思ったが、人のプライバシーを侵害しているのはこの男の方だと開き直り、改めて聞く。
 酒は入っていたが、話は理解できる筈だ。それほど酔っているようには見えない。しかし男は何も答えない。
「もう一度、聞く。あなたは誰だ」
 彼の視線が忙しく辺りを彷徨い、原色の部屋の薄明かりにも不審な様子だ。モニターからは名前も知らないグループが次々と現れてトークを繰り返す。反射する灯りが男を更に怪しく見せていた。

「私は……」
 小さな声だった。部屋に入って、猶に三十分は経っていた。
 しかし、それよりもその言葉に驚き過ぎて聞き返してしまう。
「もう一度。聞かせて下さい」
 すると男は決心がついたのか。今度ははっきりと名乗りをあげる。
「私は滝川精一。君の父親だ」

To be continued. 著作:紫 草 
 


HP【孤悲物語り】内 『溺れゆく』表紙
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