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その壱
朝陽は嫌いだ。
眩しくて、前向きって感じで輝いて、その上、街中全てが“やる気まんまん”
「俺には、そんな朝ついていけない」
葛城は、そう言って小さな溜息をつく。
言葉は難しい。
その言葉に、深い意味はない。それでも女は去っていった。
夜明けの珈琲はそんなに魅力的か? 朝は清々しくなくちゃいけないのか? 苦手を苦手と言うことは罪になるのか?
女は難しい。
彼女への気持ちを朝陽に置き換えられ、振られた。
いとも簡単に、見事なまでにあっさりと……
あ~、そうか。
理由が欲しかったのか。
自分と別れる為の瞬発力を持つ、何か。
あの日、葛城は一人の女と別れた。
深夜喫茶の扉の前、見事にくらった女のパンチ。
そして左の頬に手を添えた刹那、葛城の視界に彼奴が映った。
莫迦にしたようなシニカルな笑み。
唇の端を少しあげ、背中を向けて笑われた。
肩が小刻みに震えているのが見てとれる。
あゝ。
振られたよ、今の今。
どうせなら思い切り笑ってくれ。
そんな気持ちを口にした。
振り向いた少女の瞳は、初めて葛城を捉えた。気付いたら声をかけていた。
「付き合わない? お茶」
背にある店を、肩越しに指す。
時が、ゆるやかに流れた。
今の時代の時計ではなく、アナログな時。漆黒の瞳は、濡れているように見えた。
(コイツ、幾つだ)
そう思った瞬間、囁くような小さな声で少女は答えた。
「朝まで一緒にいてくれたら……、ね」
時刻は午前三時半。
朝というにはまだ早い。
「いいよ」
深く考えずに手を取った。少女の手は冷たかった。葛城の手の中で、微かに震えているのが分かる。
そして、これが二人の出逢いとなった──。
To be continued. 著 作:紫 草
HP【孤悲物語り】内 『溺れゆく』表紙