「洸に言ったんだ。同じこと」
えっ!?
「そしたら、お前の好きにしろって。そのくせ、彼奴は絶対お前には落ちないって自信満々」
これって、どういうことかなぁ、と櫻木が笑う。
「知りません、私が聞きたいくらいです」
何だよ、それ、とちゃちゃを入れる彼は、かなり本気で怒っているのかも。
「お前たち、つきあってんだろ」
その言葉に対し、古都は言う。
「先輩、いいですか。つきあいっていうのはですね、口説いたり告白したりして始まるものです」
「そうだね」
櫻木は、いかにもな感じで足を組む。相変わらず、サマになっていることで。
「私は、ものすごく遠回しに好きという言葉を聞いただけで、ちゃんと告白されてもいないし、それどころか、交際や恋愛はしない宣言されてるんですよ」
流石の櫻木も、この言葉には唖然としているようだ。
ざまあみろ! って言えないけれどさ。
でもこうして言葉にすると、ホントに小城乃には相手にされていないんだと再認識してしまった。
「古都… お前、泣いてるの…」
「え? 嘘。何でもないです。私帰ります。お疲れ様でした」
急いで教室を出ようとすると、櫻木が扉に立ちはだかった。
「泣くくらい好きなら、俺にも好きって言ってくれ」
その科白は廊下から聞こえてきた。
声のした方を見ると、息を切らした小城乃が立っている。
ちょっと待って。何がどうなってんの…
「あと訂正しろ。交際しない宣言なんて俺はしてないぞ」
「どうして、それ…」
だって、今来たばかりでしょ。
すると櫻木と小城乃が一緒に携帯を取り出した。
「繋がってる…の!?」
あろうことか、あゝと同時に答えてくれた。
俺は恋のキューピットになる気はないから、と残して櫻木は去った。
「鍵頼むぞ。明日は来ない。お前、今日の罪滅ぼしに全部やれ」
そんな言葉も、甘んじて受けてやると小城乃は言った。
「あの… 私も帰ります」
「送る。でも、その前に少し夜遊びしよっか」
まりんちゃんは? という疑問符が顔に浮かんだのだろう。
今日は友だちの家に泊まりに行ったと聞かされ、漸く、このタイミングでの登場に納得した古都だった。
どうりで、こんなに早く学校に着いたんだ。
終わったからと連絡をしたって、まだ間に合っていない筈だもんね。きっと仕事が残っている櫻木を心配して駆けつけようとしたのだろう。
「さっきの言葉、もう一度ちゃんと聞くから。だから本音を言うって約束してくれ」
本音。
それを言うことが迷惑になると分かっていても。
古都には無理だと思った。
「いいんです。私では先輩の相手には分不相応だと思うから」
そう言った古都に、小城乃が微笑む。
「そうやって相手のことばっか考えてたら、一番欲しいものも手に入らないと思うぞ」
仕方ない。
今まで自分は私生児で人から劣っていて、だから迷惑をかけちゃいけないと、ずっと譲ってばかりいたから。今更、自分を変えられない。
「じゃあ、俺が望めばどうする」
刹那、明かりが消えた。
消灯時間。午前0時を過ぎたんだ。
真っ暗闇の中、小城乃の声だけが鮮やかに聞こえてくる。
「俺にはまりんがいる。普通の付き合いなんかできやしない。それでも古都には…、古都にだけは我が儘を言う」
我が儘…
「先輩の我が儘って?」
「俺の愛情」
愛…
考えこんでしまった古都に近づいてくる、一歩一歩。小城乃の体温が感じられるくらいに近く、彼がいる。
「俺の愛は我が儘だ。でも古都にやる、全部」
泣くなよ、と抱き締められた。
「先輩、やっぱりいい匂いがする」
くすっと笑う小城乃の背に腕を廻し、ふと思った。
まりんちゃんへの愛情はどこにあるんだろう…
「おい、また何か変なこと考えてる!?」
「そんなことは… 少しだけ」
小城乃はしょうがないなぁ、と言いつつも何だよと聞いてくれた。
それでも何も言わない古都に、
「もしかして、まりんのこと?」
と問いただす。
「妹と恋人への愛情、普通は一緒にしないと思うけど」
古都は愕然とした。
「そうだ、まりんちゃんって妹だった」
そう言った古都に小城乃が大笑いをしている。何て珍しい光景。
でも、いつの間にまりんが将来のお嫁さん候補になっていたんだろう。思い切りライバル視して、自分は何を考えてたんだろう。
「先輩、私が好きって言っても迷惑じゃないですか」
「もちろん」
そして初めて心から、好きって想いのキスをもらった…。
――漸く、手に入れた古都。
父親のいない古都と、母親のいない洸。
きっと、どこかで少しずつ遠慮して、相手を想いやるつもりで傷つけてた。
だから、もう迷わない。
いつまでも我が儘に君を想うから、覚悟しろ。
【了】
著作:紫草
えっ!?
「そしたら、お前の好きにしろって。そのくせ、彼奴は絶対お前には落ちないって自信満々」
これって、どういうことかなぁ、と櫻木が笑う。
「知りません、私が聞きたいくらいです」
何だよ、それ、とちゃちゃを入れる彼は、かなり本気で怒っているのかも。
「お前たち、つきあってんだろ」
その言葉に対し、古都は言う。
「先輩、いいですか。つきあいっていうのはですね、口説いたり告白したりして始まるものです」
「そうだね」
櫻木は、いかにもな感じで足を組む。相変わらず、サマになっていることで。
「私は、ものすごく遠回しに好きという言葉を聞いただけで、ちゃんと告白されてもいないし、それどころか、交際や恋愛はしない宣言されてるんですよ」
流石の櫻木も、この言葉には唖然としているようだ。
ざまあみろ! って言えないけれどさ。
でもこうして言葉にすると、ホントに小城乃には相手にされていないんだと再認識してしまった。
「古都… お前、泣いてるの…」
「え? 嘘。何でもないです。私帰ります。お疲れ様でした」
急いで教室を出ようとすると、櫻木が扉に立ちはだかった。
「泣くくらい好きなら、俺にも好きって言ってくれ」
その科白は廊下から聞こえてきた。
声のした方を見ると、息を切らした小城乃が立っている。
ちょっと待って。何がどうなってんの…
「あと訂正しろ。交際しない宣言なんて俺はしてないぞ」
「どうして、それ…」
だって、今来たばかりでしょ。
すると櫻木と小城乃が一緒に携帯を取り出した。
「繋がってる…の!?」
あろうことか、あゝと同時に答えてくれた。
俺は恋のキューピットになる気はないから、と残して櫻木は去った。
「鍵頼むぞ。明日は来ない。お前、今日の罪滅ぼしに全部やれ」
そんな言葉も、甘んじて受けてやると小城乃は言った。
「あの… 私も帰ります」
「送る。でも、その前に少し夜遊びしよっか」
まりんちゃんは? という疑問符が顔に浮かんだのだろう。
今日は友だちの家に泊まりに行ったと聞かされ、漸く、このタイミングでの登場に納得した古都だった。
どうりで、こんなに早く学校に着いたんだ。
終わったからと連絡をしたって、まだ間に合っていない筈だもんね。きっと仕事が残っている櫻木を心配して駆けつけようとしたのだろう。
「さっきの言葉、もう一度ちゃんと聞くから。だから本音を言うって約束してくれ」
本音。
それを言うことが迷惑になると分かっていても。
古都には無理だと思った。
「いいんです。私では先輩の相手には分不相応だと思うから」
そう言った古都に、小城乃が微笑む。
「そうやって相手のことばっか考えてたら、一番欲しいものも手に入らないと思うぞ」
仕方ない。
今まで自分は私生児で人から劣っていて、だから迷惑をかけちゃいけないと、ずっと譲ってばかりいたから。今更、自分を変えられない。
「じゃあ、俺が望めばどうする」
刹那、明かりが消えた。
消灯時間。午前0時を過ぎたんだ。
真っ暗闇の中、小城乃の声だけが鮮やかに聞こえてくる。
「俺にはまりんがいる。普通の付き合いなんかできやしない。それでも古都には…、古都にだけは我が儘を言う」
我が儘…
「先輩の我が儘って?」
「俺の愛情」
愛…
考えこんでしまった古都に近づいてくる、一歩一歩。小城乃の体温が感じられるくらいに近く、彼がいる。
「俺の愛は我が儘だ。でも古都にやる、全部」
泣くなよ、と抱き締められた。
「先輩、やっぱりいい匂いがする」
くすっと笑う小城乃の背に腕を廻し、ふと思った。
まりんちゃんへの愛情はどこにあるんだろう…
「おい、また何か変なこと考えてる!?」
「そんなことは… 少しだけ」
小城乃はしょうがないなぁ、と言いつつも何だよと聞いてくれた。
それでも何も言わない古都に、
「もしかして、まりんのこと?」
と問いただす。
「妹と恋人への愛情、普通は一緒にしないと思うけど」
古都は愕然とした。
「そうだ、まりんちゃんって妹だった」
そう言った古都に小城乃が大笑いをしている。何て珍しい光景。
でも、いつの間にまりんが将来のお嫁さん候補になっていたんだろう。思い切りライバル視して、自分は何を考えてたんだろう。
「先輩、私が好きって言っても迷惑じゃないですか」
「もちろん」
そして初めて心から、好きって想いのキスをもらった…。
――漸く、手に入れた古都。
父親のいない古都と、母親のいない洸。
きっと、どこかで少しずつ遠慮して、相手を想いやるつもりで傷つけてた。
だから、もう迷わない。
いつまでも我が儘に君を想うから、覚悟しろ。
【了】
著作:紫草