『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』Ⅸ

2009-12-05 11:18:37 | 連作short/妖婉シリーズ
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 規則正しい寝息を胸の骨越しに聞く。

 ったく、人の気も知らんと気持ちよさそうに寝てやがる。こっちは全く睡魔が襲ってこないというのに。

 と、いうのには訳がある。
 こいつは…、瑠璃は俺にマネージャーをやれと言いやがった。
 そこそこ人気も出てきた瑠璃だったが、未だ専属のマネージャーはいない。
 最近は事件も多いということから、専属マネを付けるという話が出ているのだそうだ。
 そこに、推薦しておいたからと。

 人のベッドに勝手に潜り込んできて、そんな科白をあっさりと吐露し、そして爆睡だ。
 何を考えているんだ。
 バレたら、それこそスキャンダルだ。
 でも、きっと瑠璃はそんな風には考えていない。単に一緒にいる時間が増えるから、くらいにしか思っていないだろう。

 俺が引き篭もりだと思ってるからな。
 悪気がないのは分かってるんだ。
 でも、やっぱり引き受けるべきではないと思う。

「眠れないの?」
 あれ、起きてる。
「悪い、起こしたか」
 すると返事の代わりに首を振る。そのまま再び瞳を閉じて、きっと眠ってしまうだろう。

 不思議だなと思う。
 中学生だった瑠璃がスカウトされモデルを始めた時も、当初お目付け役にされた。
 親を説得してしまった負い目もあって、できる限りの送り迎えをやっていた。
 今の事務所の社長に移籍を勧められた時も、最初は必ず迎えに行った。
 高校三年の時に転校して、本格的に女優になるんだと言った時、俺は関わるのを止めた。瑠璃にとって、必要のない人間であるという判断だった。
 そして想いが叶った。あれから二年。
 瑠璃は殆んど、この家に帰ってくるようになった。半同棲だ。
 事務所にバレたら首になる、と言ったら、さっさとカミングアウトしてきたと言った。
 結局、力を入れてる女優でないのが幸いして写真を撮られるなとだけのお達しで済み、堂々と暮らしている。

 なのに今また、マネージャーの話が舞い込む。
 断わる、という選択は決まっているのに、瑠璃の顔を想像すると気が重い。
 それでも致し方ない。事務所の人間だけが知る、真実ではなくなってしまうから。
 瑠璃との関係が、従兄弟同士から恋人に変わったからかもしれない。だからこそ近くにいたいという思いを優先させることはできない。
 お袋のことを知る、親戚を説き伏せるのだって一苦労だった。早生まれの瑠璃と、十八になる前の瑠璃と付き合うなら、婚約という形にするといって聞かなかった瑠璃の両親を説き伏せるのは、もっと大変だった。
 それでも漸く納得してもらって、親戚の中では話がついた。それなのに…。
 全く何でこんな事になってるんだ。

 腕の中の瑠璃が伸びをしようと動いた。
 俺はその動きに合わせ、横から抱きすくめると額に唇を寄せる。
 瑠璃は感触に気付いたように、身じろいだ。

「瑠璃。責任取れよ」
 そう耳元で囁いた。
 すると、何も言わない唇の代わりに、瑠璃は俺に跨ってきた。
「起きてたのか」
「うとうとしてるとこだった。でもちゃんと聞こえたよ」
 今度は瑠璃が耳元で囁いた、しよ、と――。

 俺は瑠璃の体を引き寄せて、キスをする。
「もう朝になるけど」
「いいよ。そのままシャワー浴びて大学行くから」
 獣のような鋭い視線を絡ませる。
「責任って、何の?」
 重なり合った唇から、言葉が洩れる。
「マネージャーなんかやって、もし世間にバレたらどうするんだ」
 しかし瑠璃はそれには答えず、情欲を秘めたキスへと溺れていった――。

                     著作:紫草
                    To be continued.
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