『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』ⅩⅠ

2009-12-08 20:04:17 | 連作short/妖婉シリーズ
Act 3

 結局、そのままずるずるとマネージャーを続けることになった俺は、それでも外出を控えることを選んだ。
 瑠璃がどうしてもというから、時間でメールを送る方法を取る。勿論、不測の事態には対処できない。それでも瑠璃は俺以外のマネージャーを付けようとはしなかった為に、事務所側も折れた形となった。
 極稀に、俺も現場に足を運んだ。
 相変わらず、スカウト紛いに寄ってくる輩もいたが、そういう奴らを見つけると瑠璃が脱兎の如くやってきて、追い払ってくれるようにもなった。
 その内、瑠璃の我が侭と言われるんじゃなかろうかと思ったものの、そんな悪評よりも先に瑠璃自身の評判の方が噂に上るようになっていった――。

「瑠璃。俺、帰る」
 そう言うと淋しそうにはするものの、分かったの言葉の代わりに黙って頷く。
 可哀想だとは思う。
 でも辞めたい気持ちは変わらないのだという意思表示だった。それを知っているからこそ、瑠璃も我が侭を言うことはなかったし、役者になれと口説く奴らは完璧に無視することで通した。
 化け物だと知ったら、違う意味で大騒ぎされてしまう。
 今は静かな暮らしに戻りたいと願うだけだった。

 自宅に戻る。何をする気にもならず、座敷に寝転がっているとガラス戸の向こうに蔵が見えた。
 ふらりと足が向く。

『絶対に蔵には近づくな』
 親父の言葉が甦る。
 でも今は、行ってみたいという気持ちの方が強かった。

 掃除は誰がしているんだろう。
 そんなことを思ってしまうくらい、蔵戸から覗く中は綺麗に片付いていた。
 そのまま周囲を廻ってみる。
 不思議な話ではあるが、蔵を取り囲むように四季の花が咲く。それは雑草の類に入るものではあったけれど、それでも色とりどりの花々は蔵を飾るように咲き乱れた。

『魑魅魍魎が守り育てた』

 親父は見たのだろうか、その魑魅魍魎と表現した禍々しい者たちを。
 俺には、そいつらが見えるのだろうか。
 何周したか分からないくらい歩き続け、意を決して蔵戸の前に立つ。

 以前、同じ場所に瑠璃と立ったことがあった。
 あの時。
 瑠璃が、蔵に取り込まれそうな錯覚に陥ったことを思い出した。
 あの感覚は、言葉では言えないような不思議なものだ。ただ今思うと、何処か懐かしいような匂いがした。
 そこに入れば何か在るのだろうか。

 親父の言葉が脳裏を過ぎるなか、俺は蔵戸に手をかけた――。

                          著作:紫草

                         To be continued.
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