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その拾陸
とある日。
友達のところや、一夜限りの付き合いの人との関係にも疲れてきたなと思い始めた。久しぶりに帰宅した真帆は、偶然見たテレビの特集に、とんでもないものを見た。戸籍を持たない子供たちというものだ。
母の縋った法律が、別のケースでは足枷となり戸籍を持てないという。どちらが幸せなのだろう。母も、父から完全に離れ再婚する道もあっただろうに……
真帆はすっかり忘れていた、その番組を突如思い出した。顔を隠した母親が、戸籍を持たない子に申し訳ないと涙していた。それでも離婚した男の子供としての戸籍は与えられなかったと話した――。
そこで初めて疑問が浮かぶ。疑問が疑惑になり、やがて確信となっていく。ただの希望的な憶測かもしれない。でも、その番組は雄弁に語る。離婚前とは、夫婦の仲が冷えていること。子供ができる筈はない、と。
DNAを調べよう。真帆は飛島に自分の考えたこと全てを話すと、やってみる価値はあると言われた。そして彼は一緒に父に頭を下げに行ってくれた。
検査の必要などなかった。その場で父が実子ではないと認めたから。それでも書類として真帆に持たせてやりたいからと、了解をもらい検査をした。結果は明らかだった――。
免状だけを取りに戻ったら、すぐに水帆のところに帰る心算だったのに。こんなことなら一度、島について行ってから戻ればよかった。
電話があっても留守録機能がついてないなんて、と悔やんだが、あと少しの我慢。
真帆は島への船に揺られていた――。
To be continued. 著作:紫 草
HP【孤悲物語り】内 『溺れゆく』表紙