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「ごめんなさい」
咄嗟に出た言葉に、目の前の人は度胆を抜かれたような表情を見せる。
何故なら、今夜はハロウィンの催しの為、羽仁は魔女の姿だったから。大き目の籠に子ども達に配るキャンディーやチョコを大量に入れ、長めの箒を持っていた。そして、少しだけ気を抜いた刹那、その箒で彼の頭をクリーンヒット。
「いや――」
大丈夫だから、と言ってはくれたものの、ぶつけた場所が場所なだけに病院に行きましょうと腕を引っ張った。
「本当に平気。それより、これから何処行くの」
そんなかっこうで、と言いながらくすくす笑われた。そして籠から落ちてしまったキャンディーを拾いながら彼が聞いてくる。
「そこの公会堂で、ハロウィンパーティをやるんです」
羽仁は大学生。でも年の離れた幼稚園児の妹がいて、彼女の属する子供会の手伝いを買って出たのだ。
「それ、俺も行っていいかな」
彼がズボンのポッケから手を出すと、掌から花が湧いてきた。
「わ~ 手品みたい!」
「みたいじゃなくて、手品だよ」
子ども達が喜びます、と言って子供会の会長さんに許可を取ろうと携帯を出す。
「あ、」
名前が分からない。
「結城。下の名前は漣」
「結城漣さん。大学生さんですか?」
すると、またもシニカルな笑みを浮かべられる。
何?
首を傾げ、持っていた箒に頭をあずけた。
「たぶん、同じ学校だと思うけど」
……えええええええ~
すみません。すみません。全く気付きませんでした。でも――。
「本当に?」
「俺、法学部。羽仁さんは理工学部でしょ」
が~ん。バレてる。
どんなところに、どんな出逢いが待っているかは分からない。
彼氏いない歴二十年の羽仁に、初めてモテ期がやってきた、かも。
【了】 著 作:紫 草