カテゴリー;Novel
その弐拾伍
いない、って……
今、確かに、葛城先生はいないと言われた。
教えられていた定期船に乗り、そして降りる。その先に彼が居ると信じて疑わなかった。
何故。
どうして。
また消えてしまったというの……
真帆の混乱は、呆然と立ち尽くすことでバランスをとるしかなかった。
「お嬢さん。大丈夫かい」
行く当てを失った真帆は海を見ていた。ただ、そこにある海原。汐の香りと風。海鳥の泣き声が聞こえ、汽船の汽笛が聞こえる。
いつだったか。海に身を投げたことがある。
水帆との別れを受け入れ、生きる選択をしたものの、結局会ってはならないという呪縛に負けた。
助けられた時、最初に目に飛び込んできたのは水帆の心配そうな顔だった。
『もう一度、会いたい』
そう願った真帆の想いが、神に届いたのかと思った。
しかし、それは現実で二人で生きていくと決心したのに。
もう一度、身を投げれば、また水帆に逢えるだろうか。
フラフラと防波堤に向かう真帆の足を止める者は、もう何処にもいなかった――。
To be continued. 著作:紫 草
HP【孤悲物語り】内 『溺れゆく』表紙